4-4 彼女の選択 その4
「とりあえず、そこに座ってくれ」
「は、はい」
言われた通り、僕は椅子に座る。
テーブルを挟んで、美咲のお父さんもまた、僕の向かい側の席に座った。
「……それじゃあ、話を始めてもいいかね?」
「……はい」
美咲のお父さんは、僕にそう確認を取ると、話を始めた。
「まず君に聞きたいことがあるんだ」
「何でしょうか?」
「……君はこの結末で、よかったと思うかい?」
……この結末、というのは。
「美咲が月宮家に戻ること、ですか?」
「そうだ」
それは僕に聞くべき質問ではないと思う。
なぜなら、決めたのは美咲本人なのだ。
僕は所詮、当事者ではないのだから。
「……質問を変えよう。美咲の出した結論は、正しかったと思うかい?」
「……自分で出した結論なら、僕は間違ってはいないと考えています」
「本当に、そうなのかな?」
「え?」
……美咲のお父さんは、何を思ってこんなことを言っているのだろうか?
僕にはさっぱり、分からない。
「君の言うとおり、美咲の出した結論が、うちに帰ることだった。だから私は何も言わなかったし、これからも美咲の父親として、全力で家族を守っていこうと思う。それが美咲に出来る、私の罪滅ぼしだと思っているからね」
「……」
「けど、いくら美咲がこの結論を出したと言っても、私には、美咲は幸せそうな顔をしているとは思えないのだよ」
……この人は、本当に美咲のお父さんだ。
それでこそ、父親というものだ。
血の繋がった家族だからこそ、分かりあえる気持ちなのかもしれない。
何十年も空白の時間を開けておきながら、この人は自分の娘の気持ちを、よくわかっている。
「……」
「私としては、美咲がこの家を選んでくれたことはとてもうれしい。また家族としてやり直せる……そのチャンスが到来したのだから」
「……チャンス」
「でも、本当に美咲のことを考えてるとしたら……この選択は間違っていたのかもしれないな」
しきりに、『こうなったのは間違いだ』と指摘する美咲のお父さん。
……何か、きっかけがあったんだろうな。
「どうして、ですか?」
「……美咲から、甘える対象を奪ってしまったからだよ」
「甘える……対象?」
美咲にとって、確か父親は甘える対象に入っていたはず。
それなのに……何故?
「何もかもすべてがうまくいくとは限らないのだよ……私達は、完璧には『家族』という関係には戻っていないのだよ。今の美咲にとって、私は『甘える対象』ではない」
「あ……」
そうか……長い時間離れていた父親と、どう接したらいいのか分からないんだ。
美咲は、この何年間かは、僕の妹として、僕達『木村家』に甘えてきた。
そしたら、自分は『月宮家』の人間となり、『木村家』の人間である僕達に甘えることが出来なくなった。
それだけじゃない。
何十年という空白の時間は、美咲の中での父親像を壊すのに充分すぎる時間だったんだ。
「……美咲がもし君達の元に帰りたいというのであれば、私はそんな美咲の答えを聞くだろう。だから、その時には覚悟してもらいたい……」
「覚悟もなにもありませんよ。僕はただ、美咲の答えを待つだけですよ」
美咲がどんな答えを出すかは分からない。
けど、僕達……本人でもなく、当事者でもなく。
周囲の人その1としてやれることと言ったら……見守るだけなのだから。