4-3 彼女の選択 その3
「ここ……か」
僕は今、とある家の前に立ち止まっていた。
その家の表札には……『月宮』と書かれていた。
そう、ここは『月宮』という人の家の前だ。
月宮美咲が住んでいる家の、目の前だ。
「この家に……美咲が、『月宮美咲』がいるのか」
何だか変な感じだった。
つい最近まで家族であった人とこんな形で再会するなんて。
つい最近までは妹として接してきたが、今日美咲に会うときは、他人と会話をするように接しなければならない。
微妙にズレが生じるかもしれない……けど、それが現実。
僕達は、元の関係に戻っただけだ。
本来の僕達の関係と言うのは……赤の他人同士なのだ。
その関係に戻ったのが、少し遅れただけの話だ。
では、その赤の他人である、僕―――『木村健太』が、どうしてこの家の前で立ち止まっているのか。
それは、この家の人である、美咲の父親である人から呼ばれたからだ。
もう一度だけ、僕に会って直接話がしたい、と。
本来ならば、こういう形で話をするのは、僕の両親の方がいいのかも知れないけれど、僕の両親は今、海外出張に行っている最中なので、日本にいない。
確かまだ一年はあったはずだ。
「……よし。そろそろ中に入ろう」
そう一言呟いてから、僕は扉の前に近づく。
月宮家は、大きくもなく、小さすぎるわけでもない。
そんな感じの、二階建ての一軒家だった。
外装は白で、此方から覗ける窓からは、カーテンが閉まっている為に中の様子を伺うことは出来ないでいた。
「……うん」
(ピンポ~ン)
僕がインターホンのボタンを押したことにより、そんな音が聞こえてきた。
そして、
『はい?』
そこから聞こえてきたのは、男の人の声だった。
僕も聞いたことのある、大人の人の声だった。
……美咲のお父さんが出てきたのだ。
「木村です。木村健太です」
「ああ、君か……ちょっと待っててね」
そう告げると、美咲の父親は一旦インターホンを切る。
(ガチャッ)
扉が開く音がして、そこから出てきたのは、
「……おはようございます、美咲のお父さん」
「ああ……おはよう」
始めて会った時とほとんど変わらない。
そんな感じの顔が、そこにはあった。
「今日は……一人かい?」
「はい……親は海外出張に行っていて、日本にはいないので」
「そうか……」
そう言った時の顔が、何処か寂しそうだった気がしたのは……気のせいだろうか?
「まぁ、とにかく中に入ってくれ。いつまでも外にいるんじゃ、この気温じゃ寒いだろ」
言われた通り、ここに立っているのは多少キツいものがある。
1月特有の寒い風が、僕の体に染み付いてくるからだ。
「それでは……お邪魔します」
言われた通り、僕は家の中に入ることにした。