4-2 彼女の選択 その2
「……」
静かな朝食だった。
私とお父さんの間で、会話なんてほとんどなかった。
久しぶりに会ったばかりで、しかも離れてあた時間も長い。
だから、どう接すればいいのか、その方法を忘れてしまっていたのだ。
「……思い出すだけでも、なんだか少し憂鬱になっちゃうなぁ」
一番困るのは、お兄ちゃんに対する接し方だろう。
私は今まで、本当のお兄ちゃんのように甘えてきていた。
けれど、お兄ちゃんは本当の兄ではない……そんなことは分かっているのだけど。
私はもう、『木村美咲』ではない。
本来の名前である、『月宮美咲』だ。
これからは、お兄ちゃんを『健太さん』もしくは『木村先輩』と呼ばなければならない。
……何だかまだ慣れなさそうだなぁ。
「そっか……美咲ちゃんはその道を選んだんだね」
「……うん」
学校につき、自分の教室に入ったところで、私は杏子ちゃんが先に来ていることを確認した。
何時ものように挨拶を交わした後に、私はそのことを打ち明けたのだ。
自分が、もう『木村美咲』ではないことを、打ち明けたのだ。
「どんな名字になろうと、美咲ちゃんは美咲ちゃんだよ。私の大切な美咲ちゃん」
「……ありがとう」
短く、しかし結構大きな思いで私は杏子ちゃんにお礼を言った。
杏子ちゃんは、これくらい当然だよと謙遜していたが、友達と言う物の偉大さを改めて知った私には、それ以上の温かさを感じていた。
「でもそうなってくると、厄介なのは健太さんや美咲ちゃんのお父さんに対する、美咲ちゃん自身の接し方だよね……」
「……うん」
本当に厄介な問題は、未だに解決仕切れていなかった。
いや、これからも解決出来ないで終わってしまうのかもしれない。
そうなってくると……
私は本当にこの道を選んでよかったのかな?
「美咲ちゃん、今、自分がこの道を選んでよかったのかなって考えてるでしょ」
「え?」
突然杏子ちゃんからそんなことを言われて、内心私はかなり驚いた。
何故なら、それはまさしく、私が考えていたことその通りのことだったからだ。
「……後悔してるの?美咲ちゃん」
「後悔なんて……私は……」
「正直に答えた方が、美咲ちゃんの為にもなるよ」
「……本当は、少し後悔してる、のかもしれない」
どっちなのかは、正直なところ私自身には分からない。
けど、
「私はお兄ちゃんのことが……健太『さん』のことが好きだから。それに、私のお父さんが会いに来てくれたんだもの……だったら、そのお父さんの気持ちにも答えるべきだと、私は思ったから」
「……」
杏子ちゃんは、私の話を笑いもせず、口を挟むことなく、真剣に聞いてくれた。
そして、私にこう言葉を返したのだった。
「……なら、それだけの覚悟はあるってことだよね?」
「……うん」
私は頷く。
「……それなら、私からはもう言えることは何もないかな。後は美咲ちゃんの選択次第だと思うよ」
「……」
私は、なるほどとは思ったけど、それを言葉に出すことは出来なかった。




