0-4 necessary
―――う、う~ん。
僕は、いつもの通り、カケラが宙を舞う世界で目が覚めた。
……これまで三つの世界に入った。
現在宙に舞っているのは、十個。
……つまり、まだ十人分の願いを叶える必要があるということに繋がる。
「帰ってきたか、健太よ」
―――うん。ただいま、マリアさん。
とりあえず、マリアさんにそう挨拶をする。
すると、
「うむ。よく帰ってきた」
特に他意はないといったような返事が返ってきた。
マリアさんらしい返事だな……。
「どうかしたのか?」
―――いや、何でもないよ。
僕はそうマリアさんに返事を返すと、次のカケラを選ぶことにした。
……最近マリアさんの力が大きくなってきたこともあって、カケラの世界の中で、自分の元の世界での記憶が甦ることも何回かあったりする。
……何というか、そうでもしないと、自分が元々その世界にいるような感じがしてしまって。
演劇で言えば、役になりきるといった感じだろうか。
「……その世界にするのか?」
―――え?……うん。
無意識に僕が選んだカケラには、僕の妹―――美咲の姿が映っていた。
ただ、その表情は、何故か暗い。
―――え?
今までカケラの中に映る人の表情を見たことがなかったので、これには驚いた。
もしかしたら、今までの人達もこのような表情を浮かべていたのだろうか。
「どうした?」
―――いえ、何でもないです。
こんなことをマリアさんに尋ねたところで無駄だろう。
そう考えた僕は、喉まで出かかっていた質問を、無理やり体の奥底に閉じ込めた。
「……それでは、念じよ」
マリアさんに言われて、僕は両手でカケラを握りしめる。
目を閉じて、そして、強く念じる。
……次の世界では、どんなことが起きるのだろうか。
僕は様々な不安を抱えながらも、意識はその世界に旅立っていった。
……うむ、我の力も戻ってきておるな。
だが、力が戻っていくのと同時に、徐々にではあるが、力が失われておる。
我の体が……段々透けておるな。
これも、カケラの世界が順調に消えているからだろうか?
……どうでもよい。
我は元々、この者達の『願い』によって創り出された存在。
そこからこのカケラの世界を創り出したに過ぎぬのだからな。
願いが叶えば、我の存在が消えていくのもまた必然。
……未練などないはずだ。
この者達の願いが叶っておるのだから、後悔することなど何もないはず。
けれど、何故だろうか。
心のどこかで、この状態を望んでおるのは……。
……考えてはならぬな。
とにかく、我も後をついていくことにしよう。
我も助力をせねばならぬからな。
次回からは、「木村(月宮)美咲」編の始まりです。




