3-10 初恋は実らない……では二回目の恋は? その10
「……」
二ノ宮さんの目の前で、人が、消えた?
……こんな非現実的な話があっていいのだろうか?
否、この世界ならあり得る話なのだろう。
つまり、二ノ宮さんの願いから生まれた存在……それが『広瀬光』という存在だったのだ。
……これもおそらくマリアさんの力なのだろう。
今までほとんど何時もの世界と変わらなかった物が、この世界になってから突然変わってきた。
マリアさんの力が大きくなったという証拠だろう。
「……おい、木村。俺達は夢を見ているのか?人が一人、目の前から消えるなんて」
「……いや、現実だよ。現に目の前から人が消えたんだ。いや、あれは幽霊だったんだよ」
「幽霊……そうか、俺達は幽霊の友達もいたっけな」
大地とかのことを言ってるのだろう。
確かに、彼らもまた、この学校に住み着いている自縛霊だから。
……本来の場所に、魂が帰ったのだろう。
つまり、天国に帰って行ったのだろう。
「じゃあ……あの人はすでに死んでいた?」
「……恐らく」
まさか『広瀬光が死んだ』という事実をあらかじめ聞いていた、と言えるはずもないので、僕は曖昧な返事を返すことにした。
すると、ガラッと目の前の扉が開かれた。
そこから出てきたのは、
「「うわっと!?」」
「木村君に……渡辺君?」
二ノ宮さんだった。
その表情は、驚きのものであった。
「……木村君、お話があるのですけど、いいですか?」
「……うん」
恐らく、二ノ宮さんは何かを知っている。
多分、この世界の仕掛けについて分かっているんだと思う。
「……ごめん、大貴。ここからは僕と二ノ宮さんの二人の話だ。先に教室に戻っててくれるかな?」
「……ああ」
大貴にそう告げると、僕と二ノ宮さんは、何処かの空き教室に向かった。
「……途中から気付いていたんだね」
「……はい」
多分、二ノ宮さんは途中から違和感に気付いていたんだろう。
こんなこと、あり得ないって。
「広瀬先輩が私の前に現れた時は……本当に驚きました」
「……やっぱり広瀬先輩は」
「はい。事故で死んでしまったことは、知っていました」
それじゃあやっぱり……。
二ノ宮さんの願いを叶える為に、マリアさんが用意した存在だったのだろう。
「……後私の願いは、一つだけです」
「え?」
広瀬先輩に、自分の気持ちを伝えるのが、二ノ宮さんの願いではなかっただろうか。
それ以外にも、願いがあったというのだろうか?
「……私は、木村君のことが、健太君のことが、好きでした」
「……でした?」
「はい。私は、健太君とは結ばれることがないことを知ってますから。だから、私の場合は、これでいいんです」
二ノ宮さんの頬に、涙が伝わる。
その涙が地面に落ちた時。
ピシッ。
その部分が割れたかのような音がした―――否、本当地面が割れたのだ。
ガラスのように、壊れたのだ。
「……終わりの時間のようです。まもなく私は、帰るべき所に帰ることになるでしょう。私は待ってますから。健太君が私達の世界に帰って来るのを、待ってますから」
「二ノ宮さん……ありがとう」
その言葉を言った時、二ノ宮さんは笑顔になった気がした。
僕の好きな、二ノ宮さんの笑顔が見れた気がした。
それと同時に、この世界は消滅した。
二ノ宮夏美編、完結です。