3-6 初恋は実らない……では二回目の恋は? その6
『うむ。我の力が少しばかり回復したのでな……同時に失われた力もまたあるのだがな』
「回復した力と、失われた力?」
よくわからないけど。
とりあえず、今僕は、その『マリアさんにとって回復した力』によって、マリアさんとこうして話が出来ると考えてもいいということなんだよね。
『回復した力……それは、世界への交信だ』
「世界への、交信?」
『うむ。その世界にいる人々と、自らの意思で交信することが出来るということだ』
「な、何というか、ここまで来ると、もう神様の領域だね……」
いやいや、世界を創り上げてしまった時点で、もうすでに神レベルか。
恐らくだけど、マリアさんって女神なんだと思うし……。
『どうした?』
「い、いや、何も……それで、失われた力というのは?」
『……我の影響力が大きくなってしまったせいか、うまく記憶のコントロールが出来ぬようになってしもうてな』
「記憶の、コントロール?」
『そうだ。力の大きいものは、陰に隠れることが出来ぬと言うだろう?つまりはそういうことだ』
つまり、マリアさんが力を取り戻したせいで。
その力を隠すことが出来なくなってしまった、というわけか……。
「そ、それじゃあ……」
『安心しろ。今の所、元の世界の記憶を持ってるのはそなただけだ、木村健太』
「……あと一つ、聞いてもいいかな」
『なんだ?』
「……二ノ宮さんの言っていた、広瀬先輩っていうのは……」
『彼は実在する人物だ』
やっぱり、と僕は考えた。
実在はしたんだ……広瀬先輩は。
『ただ、元の世界だと、広瀬光は、アメリカで事故に巻き込まれて死んでしまったことになっておる』
「……え?」
『つまり、この世界の二ノ宮夏美は、広瀬光が死んだという事実を、「まだ知らない」のだよ』
つまり、それって……。
『今回の願いは、凄く難しい物ではあるな。何せ、二ノ宮夏美の願いは、「広瀬光に出会い、自分の気持ちを打ち明ける」というものだからな』
「そ、そんな……」
死んだ人間が生き返るなんて真似、そんなの無茶だ、あり得なさすぎる……。
それじゃあ、今回の願いは、最初から実現不可能の願いで出来あがった世界ってことじゃないか!
……そう言えば前の世界で、『帰るべき場所に帰った』と静香さんが言っていた。
それってつまり……。
『おおよそ、そなたの想像通りだ。この世界にいる人達もまた、元の世界の人達の意識により出来あがっている世界だ……本人達が自覚していないだけの、そんな世界なのだ』
「でも、静香さんは帰るべき場所に帰ったって……」
『うむ。あの者は、もうカケラの世界から脱出したのだよ。本来ならば早乙女愛も例外ではなかったのだが、彼女は予想外にも、障害に遭ってしまい、未だ脱出出来ない状態でいる』
「……」
この世界で、終わってしまうのか?
虚構にまみれたこの世界で、僕達は一生暮らす羽目になってしまうのか?
……それだけは避けたい。
なんとしても、元の世界へ帰らなくては……!!
『……何を聞いておったのだ?』
「……え?」
『この願い、確かに難しい物ではあるが、叶わぬ物ではないのだぞ』
「な、何で……」
『我を誰だと思うておる?それに、先ほど我は、何と言った?』
……そうか、マリアさんの力を使えば。
あの時の静香さんだって、そうだったじゃないか!
『……少しばかり時間にずれが生じるが、それでもよいか?』
「……うん」
僕は、首を縦に頷かせて、マリアさんの言葉に答えた。