3-5 初恋は実らない……では二回目の恋は? その5
「……」
「その後聞いた話なんですけど、広瀬先輩のご両親がアメリカに海外出張に行くことになったので、広瀬先輩も、それに乗じてついていくことになったそうなのです……」
「……」
二ノ宮さんは、その『広瀬先輩』の話をしている時、つらそうな顔をしていた。
制止させようとしたけれども、何故だか体が言うことを聞かない。
まるで、何者かに縛り付けられているような。
例えるなら、第三者の力が働いているような、そんな感じがした。
「その広瀬先輩とは、その日以降会ってないの?」
「……はい」
……二ノ宮さんにそんな過去があったとは、知らなかった。
二ノ宮さんは、出会って数日しか経っていなかったけど、確かにその人を尊敬していた。
そんな人が、いきなりとある日に、しかも自分に何の連絡もなくいなくなってしまうなんて……。
……僕も同じ気持ちを感じたことがあるから分かる。
ただ、僕の場合はその人が自分の母親だったけれど。
大切な人を失うつらさは、知ってるんだ……。
「……私、その人がいなくなってから、自分の気持ちに気づいたんです」
「……気持ち?」
「はい。私は……広瀬先輩のことが、大好きだったんだって」
「……」
何も言えなかった。
いや、何かを言ってはいけないような気がした。
ここで僕が何かを言ったところで、何の解決にも繋がらない。
だから僕は、何も言わなかった。
「……こんな話、聞いた所で自己満足にしかなりませんが、聞いてくれてありがとうございました」
「そ、そんなことはないと思うよ……確かに、僕が出来ることは、その話に相槌を打ったり、何か言葉を言ってあげるだけ。広瀬先輩のこともまったく分からないし、会わせてあげることも出来ない……」
でも、と僕は言葉を繋げて、言った。
「君の苦しみを、分かってあげることも、出来るんだ」
「……」
「友達っていうのは、そういう苦しみも、悲しみも、分け合って生きてくもんじゃないのかな?……僕も、母さんを亡くした時に、すぐそばに父さんや、僕の友達がいたから……こうして今でも、前を向いて生きていけるんだって、そう思ってるから」
「友達……」
胸に手を当てて、二ノ宮さんは呟く。
「そ。僕達は友達」
「……そう、ですよね。健太君に話して……正解でした」
「そ、そう言ってくれると、光栄だよ」
二ノ宮さんにそう言ってもらって、僕は少し照れてしまう。
「……それでは私は、一旦自分の教室に戻りますね。あ、相沢さんが戻ってきたら、放課後に吹奏楽部の部室に来てくださいって伝えてください」
「……うん、分かった」
あんな話をした後でも。
二ノ宮さんは、笑顔で教室を出て行った。
……何だろう、この不思議な気持ちは。
広瀬先輩って単語が二ノ宮さんから告げられる度、変な気持ちになって……。
『……ふむ、少しの間、我の話を聞いてくれぬか?』
「……え?その声は……マリアさん?」
およそこの世界では聞くはずのない声が、僕の頭に響いてきた。