3―4 初恋は実らない……では二回目の恋は? その4
途中までは、おおよそ僕が夢で見た通りだった。
……あれ?
どうして僕は、あんな夢を?
あれは二ノ宮さんの過去であり、記憶である。
夢というのは、その人本人の記憶を頼りに構築されたものと聞く。
……ならば、僕があの授業中に(不謹慎だとは思うけど、見てしまったのだから仕方がない)見ていた夢は、一体なんだったのだろうか?
まさか、二ノ宮さんの記憶が、僕に流れ込んできた?
そんな馬鹿な……そんな非現実的事実が、こんな所にあるはずなど―――あり得るのだった。
ここは本当の世界ではない。
この世界は……二ノ宮さんの『願い』が作り出した、カケラの世界なのだ。
……カケラの世界?
何を言ってるのだろう、僕は。
ここはまぎれもなく僕達が住む世界で、それ以外のどこに『世界』なんてものがあり得るだろうか―――否、あり得ない。
……あれ、僕は本当に何を考えているんだろう。
「……どうしたんですか?」
「あ、ううん。何でもないよ、続けて」
いつの間にか、僕のことを心配そうな眼差しで見つめる二ノ宮さんが、目の前にいた。
僕は、そんな二ノ宮さんに心配させないように、そう言葉を返す。
まだ少し心配しているような表情を見せたが、まもなく二ノ宮さんは、話を続けた。
「そして数年前のこの日……私は、とあることを知らされたのでした」
それは私が、トイレから帰ってくる時の廊下での話でした。
「……ねぇねぇ、聞いた?」
「何を?」
「……隣のクラスの広瀬君の話なんだけどさ」
……ん?
広瀬、君?
それってもしかして……広瀬先輩のことでしょうか?
私は思わず壁に身を隠して、その話の内容を聞いてしまうことになりました。
「確か、海外に出て戦場ジャーナリストを目指すって言ってた人だよね?」
「うん。進路指導の先生にも、そのことを言ったんだって」
「マジで!?あの相馬学園の松岡○造に!?」
……進路指導の松岡○造とは、この学校では有名になっている、健太君のクラスの担任の先生でもある外川先生のことです。
けど、今は関係のない話ですから、それは省きます。
「それで……どうだったの?」
「夢を見ることは大いに歓迎だ!だから、その夢を実現するように、今後とも頑張れ……だってさ」
外川先生らしい意見ですね……。
なんというか、熱い教師と言われることに大いに納得出来てしまいます。
「広瀬君の夢を聞いてそう言ってくれたのって……外川先生が初めてじゃない?」
「……確かにそうね。他の先生に言っても、馬鹿にされるか、相手にされないものね」
やっぱりそうだったんですか……。
けど、それは逆に当然でもあるんですよね。
普通、戦場ジャーナリストなんて夢を持つのは……相当珍しいことですから。
私は、そんな大きな夢を見る広瀬先輩が、尊敬出来る人のように感じられました。
けど、他の人が広瀬先輩の話を聞いたって、それを分かってあげることが出来ません。
何故なら、最初から無理だと考えているから。
そういう寝言は、どこか別のところで言え……それが大人の人の、現実を知る大人の意見なんですから。
けど、外川先生は違った。
広瀬先輩の話を聞いて、それでも馬鹿にすることなく、むしろ先輩を応援した。
流石は外川先生です……。
「けど、そんな広瀬君が、まさか本当に海外に行くことになるなんて……」
「いや、て言うかもう行ったみたいよ?今朝日本を出たって話を聞いたよ?」
「!?」
……え?
広瀬先輩が、日本を出た?
……つまり、この学校から転校した?
あまりに唐突な話に、私は何の言葉も出すことが出来ませんでした。




