3-3 初恋は実らない……では二回目の恋は? その3
「ん……」
目が覚める。
そこは相変わらずの部屋の天井……というわけではなく。
「やっと起きたか、健太」
「……あれ?」
僕はどうやら、授業中に居眠りをしてしまっていたみたいで。
目が覚めた時に最初に見た光景は、間違いなく僕の机の色であった。
「お前にしては珍しいよな。居眠りしちまうなんてよ……」
「ほれ、ノートだ」
そう言って大貴が僕にノートを差し出してきた。
「あ、ありがとう……」
僕はそのノートを素直に受けとる。
科目は……英語か。
「昼休みの内に写し終えといてくれればいいからよ」
「……分かった」
大貴はそう言い残すと、教室から出ていった。
……見ると、ほとんどの人が教室からいなくなっていた。
……あれ、今の時間って、もしかして……。
「ああ。今は昼休みだぜ?急がないと、昼飯食う時間なくなっちまうぞ?」
「え?本当に?」
「ああ、マジで」
吉行に言われて、僕は壁に掛けられた時計を見る。
……時計は1時4分を指していた。
つまり……あまり時間が残されていないということだ。
「……これは少し急がないと」
「じゃあな。俺は一足先に戦場に向かってるぜ」
「あっ……」
そう言葉を残すと、吉行もまた、教室を出ていってしまった。
……今思えば、吉行と一緒に食堂に行っちゃった方が速かったよね、多分。
「……まぁいいか。とりあえずこれだけ写し終えて、僕も食堂に行くことにしよう」
一応、緊急事態回避用にパンを一つ買ってあるけど……万が一の時には、こっちに頼ることにしようかな。
実はこっちの方が安いし(当たり前だけど)。
「……よしっ」
気合いを入れて、ノート写しに取りかかろうとしたその時だった。
「……あれ、健太君?」
「……うん?」
僕の名前を呼んだ、一人の少女がいた。
その少女の名前は、二ノ宮夏美さん。
1―Aに所属している……簡単に言えば、隣のクラスの女子だ。
二ノ宮さんは、僕の姿を見つけた後、僕の席まで歩いて来た。
「あれ?ここは1―Bだけど、どうしたの?」
クラスを間違えた……なんてことはないだろう。
と言うことは、誰かに用事があったということなのだろうか?
「いえ……相沢さんを探していたのですが」
「相沢さん?……ああ、かなえさんのことか」
どうやら二ノ宮さんは、かなえさんに用事があったみたいだ。
「かなえさんなら……さっき美奈さんと一緒に食堂に行ったと思うよ」
「そうですか……?」
二ノ宮さんは、何かを見つけたようだ。
その目線は……僕の英語のノートだ。
「ああ、これは僕が今さっきの授業を寝て過ごしちゃったから、大貴に頼んでノートを借りてたんだ」
「……英語」
「……どうかしたの?」
何やら、不思議な表情をしていた。
それは、戸惑い。
それは、悲しみ。
悲しい過去を思い出したような、そんな表情だった。
「……」
でも、英語と何が関係があるというのだろうか。
英語なんて、いつも学校でやっているじゃないか。
「……どうしたの?」
「……いえ、今日に英語に関することを見るのが辛いんです」
「……?」
今日?
何かあったっけかな?
「……分かりませんよね?こんなことを言っても」
「……ごめん、正直言って分からないや」
「……なら、お話しましょうか?」
「……苦しい話なら、無理に話さなくても、いいんだよ」
無理をしてまで話して欲しくない。
けど、何故だか僕は、二ノ宮さんの話を最後まで聞かなくてはならない気がした。
「……健太君には、聞いていてほしいんです」
「……分かった」
僕は黙って、二ノ宮さんの話を聞くことにした。