2―9 Her's last love その9
あれから一ヶ月が経過した。
静香さんの葬式も無事に終わり、今ではその遺体は、火葬場で燃やされて灰になり、墓の中で静かに眠っているらしい。
……こんな結末、静香さんが望んでいたというのだろうか?
もっと、ハッピーエンドなお話になるべきではなかったのか?
ここは、それぞれの願いが具現化して出来た世界ではなかったのか?
なら……少なくとも静香さんは、こんな願いをしたことになる?
「……って、何考えてるんだか」
僕は、思考が段々と変な方向に曲がっていくのを自覚し、すぐにこのことについて考えるのをやめた。
なんだか……少し頭が痛くなってきたことだし。
「……静香さん」
今僕は、百合の花を持って、静香さんが眠る墓の前にいる。
百合の花を持ってきたのは……静香さんにピッタリな花だと思ったからだ。
なんというか、美しい花だけど、しかし見つめていないと折れてしまうような、そんな様子が静香さんと似ていると考えたからだ。
「あの日、静香さんは確かに僕のことを『好きだ』って言ってくれた……」
その言葉を言われた時、僕はどれだけ嬉しかったことだろうか?
力が弱っていく中でも、僕は静香さんと話をしていた。
……今思えば、屋上で僕達が話していたという習慣すらも、原因となってしまったのではないか。
そう考えてしまう時もあった。
「静香さんの笑顔は……見ていて心が安らいだ」
けど、そんな静香さんの笑顔は、もう見ることが出来ないのだ。
「静香さんの声は……聞いていて心地よかった」
けど、そんな静香さんの声は、もう聞くことが出来ないのだ。
「静香さんの存在は……僕にとってとても大切な存在だった」
けど、そんな静香さんの存在は、もうこの世には、ない……。
「う……く……」
自然と涙が溢れてくる。
なんでだろう……涙が止まらないよ。
溢れてくる涙を言われた……引っ込めることが出来ないよ。
……会いたいよ、静香さん。
僕は……一人じゃ生きていけないよ。
静香さんがいなければ、僕……僕……。
一人じゃないですよ、健太君は。―――
「……え?」
今、確かに声が聞こえたような気がした。
僕が今、一番聞きたかった人の声が、確かに聞こえてきたような気がした。
けれど、そんなはずはないよね……だって静香さんは、もう……。
ここにいますよ、私は―――
「……え?」
今度も、さっきより鮮明に、静香さんの声が聞こえた。
……静香さんは今、確かに僕の側にいる。
なのだとしたら、どこに……。
「……あ」
そして僕は、見つけた。
僕が今、最も会いたかった人の存在を。
しかし、今はいないはずの存在を。
体は透けていて、所々消えかかっているけれど。
その声は。
その笑顔は。
間違いなく静香さんのものであった。
次回でこの章は終わります。




