2―8 Her's last love その8
「……え?」
今、静香さんはなんて言った?
僕のことが……なんだって?
「……静香さん、それ、本当?」
「……」
(コクン)
言葉で答える代わりに、首を縦に頷かせて、静香さんは肯定の意を示した。
……静香さんも、僕と同じ想いでいてくれていたんだね。
「……僕もだよ、静香さん」
僕だって、静香さんのことを……。
「僕も、静香さんのことが、大好きだよ」
「健太君……」
恥ずかしいからなのか、顔が若干赤くなっていた。
……なのに、この手は一向に暖かくならない。
むしろ、どんどん体温が奪われていくみたいだ。
「嬉しいです。こんな私の状態でも、健太君は……」
「こんな状態とか言わないでよ。静香さんは、静香さん以外の何者でもないよ」
どんな状態になっていたとしても。
静香さんは静香さんだ。
それ以外の誰でもない。
「僕は、静香さんだからこそ好きなんだ。静香さんだって、僕だから好きになったんだよね?」
「……はい」
「なら……それでいいじゃないか。相手がどんな状態になろうとも、人である限り、どうでもいいじゃないか」
なんというか……自分でも何言っているのか分からなくなってきた。
けど、僕が静香さんのことが好きだということは、紛れもない事実であって。
えっと、だから……。
「クスッ」
「な、なんで笑うのかな!?」
「いえ……面白かったので、つい」
「……まぁ、いっか」
笑ってくれたのなら、それでいいや。
ともかく、僕は今日、初めて静香さんの笑顔を見たような気がする。
「……それで、僕と約束しようよ」
「……何をですか?」
僕は、静香さんとこの約束をしよう。
そしたら、静香さんも生きようとしてくれると思うから。
「……退院したら、僕と何処かに出掛けよう」
「……約束は、します。けど、多分その約束は守れないと思いますよ」
「守れないんじゃ、約束したとは言えないじゃないか」
「……そうですね」
笑顔で静香さんはそう答える。
しかし、その表情は……どこか寂しいものがあった。
「……静香さん。これからも、たくさん話をしようよ。だから、死ぬだなんて言わないでよ……生きたいって、言ってよ……」
「……自分の体のことは、自分が一番よく知っているんです。その私が、もうすぐ死ぬって言ってるんですよ……もう、生きていくことに、自身がなくなってしまいまして……」
「そんな弱気な発言はしないでよ……僕には、静香さんが必要なんだ!やっと自分の気持ちに気付いて、両想いになれたのに……これじゃあもの凄く不公平じゃないか!」
懇願するように。
半ば自分の感情をぶつけるように、僕は静香さんに言った。
しかし、それでも静香さんは寂しい笑顔をするばかりであった。
……違うんだ、僕が見たいのは、こんなに寂しい顔じゃない。
「……笑ってよ、静香さん。この笑顔じゃ駄目なんだ……明るい顔で、いつもの笑顔で、笑ってよ……」
その笑顔は、とても儚くて。
今にも失われてしまいそうな、そんな力ない笑顔だった。
「……健太君」
「……何?」
「最後に一言……言わせてください」
「最後……に?」
静香さんの声が、段々小さくなっていく。
体が、どんどん冷たくなっていく。
……まるで、もう死ぬ直前みたいじゃないか!
「……こんな私を、すきになって……くれて……ありが、とう……ござい、まし……た……」
「……静香さん?」
手を握る力が、抜けた。
そして、機械より。
(ピィイイイイイイイイイイイイ)
「……嘘だ。嘘……だよね、静香さん」
静香さんの、心臓が……止まった?
「静香さん……静香さん!!」
瞬間。
僕の世界が、止まる音が聞こえたような気がした。
嘘……だろ?




