2―7 Her's last love その7
「し、静香さん!?」
僕はともかく、愛や医者までも、静香さんが目覚めたことに驚きを見せていた。
それだけ、静香さんは深く眠っていた……もとい、命の危機に瀕していたのだろう。
「そこに……健太君が、いるんですね?」
「うん、僕はここにいるよ。分かるよね?」
静香さんの手を握ってみて、そこで初めて気付いた。
……静香さんの手が、冷たい。
「静香さん……手が、冷たい……」
「もうすぐ私は、死ぬんでしょうね……きっと私の命は、今日を以て神様にお返ししなければならないのでしょう」
「……そんなこと言わないでよ。静香さんはまだ生きていられるって。現に僕とこうして話しているし、手を握っているじゃないか」
弱気なことを言っている静香さんに、僕は励ましの言葉を言う。
「健太の言う通りだよ!まだ静香は生きてるんだもの。死ぬなんて言っちゃ駄目だよ!」
僕の後についてくるように、愛も励ましの言葉を述べた。
……けれど、それでも静香さんは、寂しい笑顔を保ったままだ。
「お話があるなんて言ったのに……こんなことになってしまって……すみません」
「いいって。今こうして、静香さんと話が出来ているんだから」
こんな形にはなっているけど。
今こうして、僕と静香さんは話をしている。
つまりは、約束は守れているということだ。
「……静香さん。それで、僕に話っていうのは、何?」
僕は静香さんにそう尋ねる。
先ほどの言葉を言ってから、ほとんど間を開けずに、だ。
間の時間を開けてしまうと、静香さんが遠くに行ってしまうのではないか、という不安があったからだ。
「話というのはですね……私の気持ちの、ことです」
途切れ途切れに、静香さんはそう言った。
……静香さんの気持ちのこと、か。
一体、どんな話なのだろうか?
「……聞かせてくれないかな。静香さんの想いを」
「……はい」
ベッドの上で眠っている静香さんは、首を縦に頷かせて僕の要求に答える。
そして、一回深呼吸してから、話始めた。
「初めて健太君に出会った時……あなたは記憶喪失の状態でしたよね?」
「……そんな時もあったね」
突然僕の話題が出されて少し驚いたが、僕は静香さんの話の続きを聞くことにした。
医者と愛は……空気を読んだのか、いつの間にか部屋にいなかった。
二人きりの病室の中で、静香さんの話は続く。
「その時私は……可哀想な人だと思いました。大切な記憶をなくし、何も思い出せない健太君のことを、可哀想だと思いました」
「……」
「次に、記憶を取り戻したと報告してきた健太君を見て……ホッとしました。あまり会うことがなかったのに、そう感じたのです」
記憶を取り戻した日……かなえさんが不良に捕まった日のことか。
「そして……その日から何日間か、会わなかった時がありましたよね?」
「うん、そうだね」
「その時……私は気付きました」
「……何を?」
僕はその先の言葉を尋ねる。
静香さんは、一旦ここで間を置いて、そして言った。
「私は……健太君のことが好きなんだって」




