表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/106

2―2 Her's last love その2

屋上の扉の前まで来た。

しかし、頭の中で繰り返されるのは、さっきの管野さんの言葉。


「なくしてしまってから自分の気持ちに気づくのでは、遅い、か……」


僕は、隣に静香さんがいる生活に慣れてしまっていたのかもしれない。

静香さんは今、病気が治ろうとしている最中だ。

だから、もうすぐ静香さんが退院出来ると信じているし、そうであって欲しいと願っている。

……けど、もしそれ意外のことが起こってしまったとしたら。

……そんなことは考えられない、否、考えたくない。

……それが僕の心の弱さなのかもしれない。


「僕の本当の気持ちって、なんなんだろう?」


僕は静香さんのことをどう思っているのかな?

僕は……静香さんのことが『好き』なのかな?

それとも、『愛してる』のかな?

……そして、静香さんは僕のことをどう思っているのかな?

それらは、その本人がいて初めて自覚出来ることなんだ。

その本人がいなくなってしまっては、それらは意味をなくしてしまう。

そうなる前に、僕は答えを出したいし、静香さんの答えを聞きたい。

……でも、焦っていても仕方のないことだとも思っていた。

……とりあえず、静香さんに会いにいこう。


「……」



(ガチャッ)



意を決して、僕は屋上へと続く扉を開ける。

するとそこには。


「……あ、健太君」

「ごめん、待ってた?」


屋上に置かれているベンチから、空を見上げる静香さんがいた。

長くて黒い髪が、風に流されてなめらかに揺れる。

……やっぱり、静香さんは美人だと思う。


「少し待ちましたけど、それほど長い時間ではありませんでした」

「ごめんね、待たせちゃったみたいで」

「いえ。その間に色々考えることも出来ましたから」


考え事をしていたんだ。

でも……何を考えていたのだろう?

……聞くのは失礼だから、聞かないことにしよう。


「それじゃあ、今日も色々話そうか?」

「……はい」


この日も、僕達は様々な話をした。

社会科見学でテレビ局に行ったこと。

そのテレビ局に設置されていたボタンが、何やら不気味な音を鳴らしていたこと。

いろんなことを話した。

静香さんが病院で看護師の人と話したことも聞いた。

時間を忘れるくらい、僕達は話していたんだと思う。

気付けば、上がったばかりの太陽だったが、とっくに頂上に辿り着いていた。


「……私達、もうこんなに長い間話していたんですね?」

「……そうみたいだね。僕も気付かなかったくらいだよ」


そう言いながら、僕達は笑い合う。

だが、静香さんの表情は、暫くして、ひどく真剣なものへと変わっていた。


「……どうしたの?」


そんな静香さんの変化を見逃す筈もなく。

僕は静香さんにそう尋ねた。

すると静香さんは、


「……あの、健太君?」

「ん?何?」


意を決したような表情をして、僕のことを見ながら話しかけてくる。

目と目が合う……何だかちょっと気恥ずかしい気分だ。


「……次に会う時に、私の想いを健太君に伝えたいのですが……よろしいでしょうか?」

「静香さんの……想いを?」

「はい」


なんだろう、静香さんの想いって。

でも、それはなんだか凄く大切なことのようにも思えるし。

……僕はこれに断る理由もなかったので、


「……分かった」


肯定の言葉を返した。

静香さんは、何も言わずに、ただ笑顔を僕に返してくれた。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ