2―2 Her's last love その2
屋上の扉の前まで来た。
しかし、頭の中で繰り返されるのは、さっきの管野さんの言葉。
「なくしてしまってから自分の気持ちに気づくのでは、遅い、か……」
僕は、隣に静香さんがいる生活に慣れてしまっていたのかもしれない。
静香さんは今、病気が治ろうとしている最中だ。
だから、もうすぐ静香さんが退院出来ると信じているし、そうであって欲しいと願っている。
……けど、もしそれ意外のことが起こってしまったとしたら。
……そんなことは考えられない、否、考えたくない。
……それが僕の心の弱さなのかもしれない。
「僕の本当の気持ちって、なんなんだろう?」
僕は静香さんのことをどう思っているのかな?
僕は……静香さんのことが『好き』なのかな?
それとも、『愛してる』のかな?
……そして、静香さんは僕のことをどう思っているのかな?
それらは、その本人がいて初めて自覚出来ることなんだ。
その本人がいなくなってしまっては、それらは意味をなくしてしまう。
そうなる前に、僕は答えを出したいし、静香さんの答えを聞きたい。
……でも、焦っていても仕方のないことだとも思っていた。
……とりあえず、静香さんに会いにいこう。
「……」
(ガチャッ)
意を決して、僕は屋上へと続く扉を開ける。
するとそこには。
「……あ、健太君」
「ごめん、待ってた?」
屋上に置かれているベンチから、空を見上げる静香さんがいた。
長くて黒い髪が、風に流されてなめらかに揺れる。
……やっぱり、静香さんは美人だと思う。
「少し待ちましたけど、それほど長い時間ではありませんでした」
「ごめんね、待たせちゃったみたいで」
「いえ。その間に色々考えることも出来ましたから」
考え事をしていたんだ。
でも……何を考えていたのだろう?
……聞くのは失礼だから、聞かないことにしよう。
「それじゃあ、今日も色々話そうか?」
「……はい」
この日も、僕達は様々な話をした。
社会科見学でテレビ局に行ったこと。
そのテレビ局に設置されていたボタンが、何やら不気味な音を鳴らしていたこと。
いろんなことを話した。
静香さんが病院で看護師の人と話したことも聞いた。
時間を忘れるくらい、僕達は話していたんだと思う。
気付けば、上がったばかりの太陽だったが、とっくに頂上に辿り着いていた。
「……私達、もうこんなに長い間話していたんですね?」
「……そうみたいだね。僕も気付かなかったくらいだよ」
そう言いながら、僕達は笑い合う。
だが、静香さんの表情は、暫くして、ひどく真剣なものへと変わっていた。
「……どうしたの?」
そんな静香さんの変化を見逃す筈もなく。
僕は静香さんにそう尋ねた。
すると静香さんは、
「……あの、健太君?」
「ん?何?」
意を決したような表情をして、僕のことを見ながら話しかけてくる。
目と目が合う……何だかちょっと気恥ずかしい気分だ。
「……次に会う時に、私の想いを健太君に伝えたいのですが……よろしいでしょうか?」
「静香さんの……想いを?」
「はい」
なんだろう、静香さんの想いって。
でも、それはなんだか凄く大切なことのようにも思えるし。
……僕はこれに断る理由もなかったので、
「……分かった」
肯定の言葉を返した。
静香さんは、何も言わずに、ただ笑顔を僕に返してくれた。