12-6 After days その6
「あの、その、えっと……僕、男子用と女子用を間違えちゃったのかな!?」
「い、いや、多分私が間違えたんだと思う……!?」
僕達は慌てて風呂から出ようとして……脱衣場の位置を確認する。
確かに、僕の目の前には男子用の脱衣場へと続く扉がある。
けど、隣には……。
「女子用の脱衣場……間違ってない」
「こっちも、間違えているわけじゃない……」
脱衣場はそれぞれ間違っていなかった。
それじゃあつまり……ここの露天風呂って……。
「「こ、混浴!?」」
しまった……その可能性があることをすっかり忘れていた。
ここの宿の風呂は、露天風呂だったのかぁ。
だったら女将さんもそのことを教えてくれればいいのに……何と言うか、サプライズ好きだったのだろうか。
「にしても、かなり驚きだよね……」
「う、うん……」
僕達は、それぞれ目を背けている。
何だか……互いの姿を見るのが少し、いや、かなり恥ずかしいからだ。
今僕達は背中合わせの状態となっているけど、一旦後ろを振り向けば……そこにはタオルだけを巻いているかなえさんがいるわけだ。
「……とりあえず、身体を洗わない?」
「そ、そうだね……まずは身体を洗って、それから湯船につかるのがいいよね」
なんとなく僕達の会話がぎこちなくなる。
無理もないだろう……何の準備もなく、互いの裸なんか見る羽目になっているのだから。
しかも、身体を洗うということは……嫌でもタオルを取らなければならないわけで。
「吉行がこの場にいれば、絶対暴走してたんだろうなぁ……」
今この場に吉行がいないことに感謝しつつ、僕もかなえさん同様に身体を洗うことにした。
「ねぇ……健太君」
「な、何?かなえさん」
「私……どうかな?」
「ど、どうって?」
「その……スタイルとか、色々」
かなえさんが、恐らくは顔を赤くしながらそう尋ねてくる。
……けど、かなえさんと顔を合わせることは出来ない。
恥ずかしいから……お互い本当に恥ずかしいのだ。
「う、うん……とってもいいスタイルだと思うよ。少なくとも……変だとは絶対に思わない」
「太ってるんじゃないかって、最近思ってるの……」
「そんなことないよ!かなえさんは太ってなんかないって……///」
僕がかなえさんにそう言った時。
さっきまで意識していたはずなのに……かなえさんの方を思わず振り向いてしまった。
そこには、タオルも何も巻いておらず、生まれたままの姿のかなえさんがいた。
「う、うわぁ!ご、御免なさい!!」
すかさず僕は謝って、急いで身体を洗った後に、慌てて湯船につかり、外の風景を眺めることに専念する。
……しばらく静寂の時間が流れる。
そんな時間の流れを打ち破ったのは、
「……健太君」
「!?な、何?」
かなえさんが、僕の名前を呼ぶ。
何だろう……何でこんなに胸がドキドキするのだろう。
「私……やっぱり健太君のことが好きなんだね」
「え?」
「健太君のことを想っていると……胸がドキドキするの。言いようもないほど心が苦しくなるの……こんな気持ちになったのは初めてだったから……」
「……僕も同じ。かなえさんのことが毎日頭から離れなくて……どうしてなのかは分かっている。それは、僕がかなえさんのことを好きだってことなんだから……」
「健太君……」
僕達はその後、風呂の中にいる時は何も話すことはなかった。
……言いようもない静寂な時間だけが、二人だけの露天風呂の中に流れていた。