12-4 After days その4
「うわぁ……」
「広い……」
僕達の部屋は、二人で使うには少し勿体無いかなかなと思ってしまう程の広さの和室だった。
窓から覗ける景色は、凄く綺麗であり、この時期だから、桜や梅の花が綺麗に咲き誇っている。
僕達は、しばらくの間その景色を堪能した後で、荷物を置き、休憩に入ることにした。
「あ~……今日は意外と疲れたなぁ」
「そうだよね……特に清水の舞台で外国人から逃げるのが」
「あんな人には二度と会いたくないよ……でも、カップルかぁ……」
自然と、僕はそんなことを呟いていた。
なんだろう……実際こうして僕達は両想いになったわけだけど、なんというか、その……あまり実感が湧かないと言うか……ちょっと気恥ずかしいと言うか……。
微妙な気持ちが、僕の中でぐちゃぐちゃに混ざり合う。
一つの結論に達しようにも、そこまで行く道が分からない。
「……どうしたの健太君?」
「へ?……いや、何でもないよ」
「……健太君、ここに来た時からたまにボゥッとしてるけど……熱とかあるの?」
そう言いながら、かなえさんは僕のオデコに手を当ててくる。
……熱はないはずだ、多分。
「う~ん……熱は平熱みたい」
ほら、その通りだ。
だって僕は、今日という日に限って風邪をひいてしまわないように、きちんと対策をとってきたのだから。
「ところで……この後どうしようか?」
旅館に来てみたはいいものの、僕達は何もすることがなかったのだ。
何せ外はもう暗い……これ以上外へ行くのも正直なところ控えておいた方がいいだろう。
「そうだねぇ……そうだ!お風呂に行ってみようよ♪」
「お風呂?……うん、いいかもね!」
汗をかいていて、正直なところ早く風呂に入ってしまいたかったところだ。
ちょうどいい機会だ……せっかくだし、この旅館で人気があると言われている露天風呂に行ってみることにしよう。
「けど、着替えとかはどうしよう……」
「せっかくだし、部屋にある浴衣を着ちゃおうよ。何だかそっちの方が旅行に来たって感じがあるし」
「あぅ……その、えっと……」
ん?
どうしたのだろうか……浴衣を着るのは、かなえさんにとって嫌なことなのだろうか?
「……えっと、無理にとは言わないけど……着替えを持って来ているのなら、その服でも……」
「……ううん、大丈夫だよ。私も浴衣にする!」
……そんな人生で何番目かの決死の判断をしました的な表情で僕を見つめても……。
「本当に大丈夫……?なんだか無理してるような感じがしなくもないけど……」
「ううん、大丈夫だよ……それじゃあお風呂に行こう♪」
「う、うん……」
本人が大丈夫と言うのだから、僕はそれに従うしかない。
ここだけの話……実は僕がかなえさんの浴衣姿を見てみたかったというのは、内緒だ。
「えっと確かここに洗濯申請書が……あったあった」
この旅館は、頼めば無料で洗濯をしてくれるらしい。
なんて優しい旅館なんだろうか……。
「……さて、これでよし、と」
「それじゃあ行こうよ、健太君」
「うん、行こう」
僕達は浴衣を手に持ち、露天風呂がある別館まで向かった。




