可愛い謎の生き物
「かしこまりました」
馬車の運転手であるジョンソンは相変わらずの硬い声でそう答えた。
ジョンソンは、馬車の運転は確かだけれど――感情が無いのよね。
無い、というより見せないと言ったほうが正しいわね。
雇い主である私にも、友人にも!
声も感情も平坦!!
仕事に熱心なのはいいけれど……感情を出してくれないとちょっと怖いわ。
「フレスミィタ カリア 国境……」
私は、近くにあった看板をそのまま読んだ。
ここから、フレスミィタ……。
その看板から、少し進むと。
「わあっ、大きい商店街!!」
商店街が、はるか遠くまで続いていた。
カリア王国にはこんなに大きい商店街は無かったわね……。
興奮してきたわ!
そのまま私は馬車を降り、商店街に入って行った。
「安っ!」
私は、商店街に売っていたポーションの値段に目を見開いた。
貴族がこんな言葉遣いするのもあれだけど……。
カリア王国は10万円だったのに……ここは500円!?
ポーションというのは、安価である回復薬の薬草の上位。
薬草より高い回復効果を持っている。
――けれど、材料が特殊。
地下深い坑道に稀にある「癒しの魔法石」を使わないと作れない。
カリア王国には「癒しの魔法石」が無くてすべてを輸入に頼っていたから、目が飛び出るほど高い。
貴族としては高くないけど……騎士団やモンスターを狩っている人が使うとなると、高いのよ。
にしても、なんでこんなに安いのかしら……。
「あの、どうしてポーションが安いんですか?」
「君、この国は初めて? フレスミィタは『癒しの魔法石』がたくさんとれるんだ」
えっ!?
そうなの!?
私は教えてくれた店主の男性に一礼し、その場を去る。
さて、最低限の生活ができるような屋敷か家が欲しいので不動産屋に行きたいけど――どこかしら。
とりあえず、商店街は抜けなければ……。
ん??
今くるぶしに何か、ふわっとしたものが……。
羽毛かしら?
そう疑問に思い、足元を見ると――かわいい生き物が!!
耳は猫のように三角、体はもふもふした白い毛で覆われ、丸々としている。
その下から、ちょこんと5センチくらいの短足が見える。
かっ、かわいい~!! あっ、でも誰かが飼っているのかしら。
こんなにかわいい生き物なんだから、売っていて買ってない方がおかしいわよね。
「えっと、君の飼い主は?」
言葉が通じるわけないけど……聞いてみる。
すると、その生き物は私の足の周りをくるくる回り始めた。
なにかしら……私に随分懐いているようね。
離れるつもり無さそうだし、かわいそうだけど……飼い主を調べて強制送還させましょう。
「ディバシェ・マジヤ・インフォルマジチヨシニクウェスト」
私が呪文を唱えると、生き物の少し上にホログラフィーで出来たデータベースが現れる。
『名前:
性別:
職業:せぜせseseaye-ayelei\@+*$%&ю☆¶→↯⊇コンニチハ ウヒヒヒヒヒッヒヒヒ
飼い主:
一言:あなたについていきたいねぇ』
……随分職業がバグっているみたいだけど、飼い主はいないみたいね。
名前も性別も無いし……。
しかも、「あなたについていきたい」って……。
この際、最低限の生活以上にしても良いかもしれないわね。
よし! 決めた!!
「もふもふさん、一緒に屋敷に住みましょう!!」
「そのなまえ、いやだねぇ」
「わっ、喋った!!」