プロローグ
「アレイナ! お前との婚約を破棄する!! 俺はこの美人でよくよくかまってくれるフローレンスと婚約する!!」
私は今、パーティー会場で婚約破棄された。
ま、そう来ると思っていたわ。
前に、別の女性と親しげに話している所を目撃したから。
友人なんて雰囲気じゃなかったわ。
浮気は過去に何度もしていたけど、今回は痺れを切らしたのか、私が嫌なのか、何か理由があるのだろう……この男の事だから、ろくでもない理由かもしれないけど。
別にこんな男に愛情は無いし、特に結婚はどうでもいい。
ただ国王という権力を持っているだけで――中身はただのダメ男……というか、クズ。
浮気は日常、平民を迫害……。
何回、『浮気をするな』って言ったかしら。
毎回美人で……。
一回目の浮気は透き通るような銀色の髪とルビーの様な瞳の男爵令嬢、二回目は真っ黒な髪にアメジストの様な瞳の伯爵令嬢、三回目は綺麗な金髪と海の様な青の瞳の子爵令嬢、三回目はエメラルドグリーンの髪と、ピンクダイヤモンドのような瞳の公爵令嬢、四回目は――ああ、もう思い出すのも面倒だわ。
そして、やたら「美人」と「よくかまってくれる」を強調しているという事は――私はそうではないという事ね。
顔立ちは普通かもしれない。
確かにフローレンスという人は、緩く巻かれた薄いピンクの髪に、大きなペリドットの瞳。
左右のにお団子ヘアにした髪は花の髪飾りをつけ、ピンクのドレスは花をあしらっていて――まるで花ね。
私はこげ茶のストレートの髪に、オリーブ色の瞳。
外見が、よく、地味だと言われていた。
あの高嶺の花とは大違い。
別に、美しさなんて別にいらないのだけど。
美人という点はその通りかもしれない。
けど、私には聖女の称号がある。
聖女とは、主に、人間に危害を及ぼす『魔物』の侵入を防ぐために結界を張る女性の事だ。
毎日魔物の侵入を阻止するため結界を張る必要があり――寝る時でさえも結界を維持しなければならないし……毎日忙しい。
そりゃあ、あなたにかまえないわよ。
最初は「聖女みたいなすごい人と結婚したい」と言って結婚したのに……これじゃ本末転倒だわ。
「それに、アレイナ・サンチェス伯爵令嬢は国外追放だ!! 俺と結婚できないなら用済みだ!!」
殿下は、私を指さしてそう言い放った。
……は?
もしかして、国を滅ばせたいのかしら?
前王が早くに亡くなってから、殿下がクズ政治をしているという、自覚がついたのかしら。
理由もヘンテコだし、私は殿下に尋ねてみる。
「あの、殿下、国を滅ばすおつもりで?」
「何を言う!! 俺がこの国を支えていくんだぞ!」
あら、分かっていらっしゃらないのね。
別に、ここに居たい理由なんて無いし――
隣の国で、スローライフでも楽しみますか!!
「では殿下。国が滅んでも恨まないでくださいね。では」
フレディ王に一礼し、パーティー会場を後にする。
目の前には、ついさっき手配した馬車がとまっている。
そうね――ここよりも薬学が進化している……フレスミィタが良いわね。
……それにしても、あらゆることに関して無欲だった私が――スローライフにこだわったりするなんて珍しいわね……。
「ジョンソン、フレスミィタに向かって頂戴」
「かしこまりました」