2、神秘の薬草
文章書くの難しい……
文末が同じだとくどい文になるので注意が必要なんですね。
「サム・ポール」だと、酷い偽名を名乗ったクラウだが、本人は満足気に笑みを浮かべている。どうやらイケてる名前だと勘違いしているらしい。きっと自分以外の人がその名前を聞けば、鼻で笑われることだろう。
「サムさん……いい名前ですね!」
「そうですよね。お気に入りなんです。」
訂正。第三者がその名前を聞けば、鼻で笑われる事だろう。そして、後にこの名前を聞いたオリュンポスの王が笑い転げるのは、今の彼は知ることが無い。
「それで、貴方は何故このような場所へ?見るところ、村からは遠いですし、魔物も多いので危険にも程があります。」
本題とばかりに上がりかけの口端を元の位置に戻し、真剣に問い掛ける。なにか理由があるならば、助けてやりたいからだ。その思いは伝わったらしく、彼女も真剣な眼差しで答える。
「……お母さんが、熱を出してしまって。それで、お医者さんも呼べるお金も無くて。お父さんも必死に働いてるんですけど、それでもここは、田舎ですからお医者さんの馬車代とかが重なって高くなって……そこで聞いたんです。この先の森の奥に、神秘の薬草があるって。」
そこまで来れば流石に物わかりの悪いクラウでも理解ができた。神秘の薬草と言えば、その薬草の近くに居るだけで、どんな病気も治してしまうと言われる、幻の薬草。確かにそれがあれば熱も治るだろう。
(神秘の薬草、か。エリクサーの材料なだけで、あれ自体はただの苦い草とか、あの研究バカが言ってたやつだよな……)
しかし、薬草だけでは治らない。あくまでもそれは万能治療薬、エリクサーの材料であって、それ自体に癒しの力などない。段々と曲解されていってしまい、今では民衆に、神秘の薬草と言えば万能薬。といったイメージが深く根付いてしまっている。
「それはそれは……ですが迷えるお嬢さんに一つ些細ですがお言葉を。神秘の薬草だけでは、どんな病気も治りません。」
少し言葉にするのを迷ったが、無駄な怪我は負わせたくない。先程の火傷がみるみる治っていく。治癒魔法の一種であり、その中でも怪我を一瞬で治す、かなり高度な魔法だった。しかしそれとは裏腹、リアの顔色はみるみると悪くなる。涙目になり、震える唇。そして、そこから弱々しく言葉を紡ぐ。
「お母さんは、助からないんですか?」
「いえ、助かりますよ。」
こんなにも呼吸を乱し、流れそうになる涙を必死に堪えているリアの心情も察する事無く、疑問を孕みながらクラウは即座に答えた。やはり彼は物わかりが悪い。
リアの顔は驚きに変わる。次から次へと感情が、弄ばれるかのように変わっていき、脳がオーバーフローを起こしかけている。そしてやはり彼は、そんな事が分かるわけなく、ざっくりと説明を始めた。
「私はレイン教の教徒です。と、言う訳は当然治癒魔法が使えます。」
彼の属する宗教の教徒になると、『神の加護』と呼ばれる謎の力で治癒魔法が使えるようになる。しかし、これはあくまで切り傷が治る程度の軽い治癒魔法で、そこからは自分でその魔法を成長させなければならない。そして、この魔法の欠点はそれだけではなかった。
「でも、治癒魔法は病気は治せないって……」
リアの言ったように、治癒魔法は病気は専門外であった。メカニズムはよく分かっていないが、クラウの知り合いである研究者曰く、「病原菌も一種の魔物扱いっぽく、回復じゃ倒せないんだと思う。確かに当たり前だが……」との事らしい。まぁこの話は、クラウ位しか知らないので、民衆は治癒魔法は病気を治すことが出来ない、といった話だけだ。
「まぁ、実際には治癒魔法と言う訳では無いのですが……私も少し色々事情のある身で。この魔法の正式名称を言ってしまうと、色々と不味いんです。なので、治癒魔法、ということにして頂けませんか?」
そこでクラウが完成させたのが医療魔法。病原菌を完全に消滅させるという魔力の光線を撃って、正常な状態に戻すという、医者と研究者が聞いたら卒倒するような魔法である。実際、彼の知り合いの研究者は聞いた瞬間クラウに殴りかかっていた。そして、「その魔法は封印しろ、そんな魔法があったら医者の仕事が死ぬぞ!」とどやされた為、使う事がなかった魔法だ。
そして残念な事にエリクサーの材料を家に置いてきた今、彼に出来る事はその魔法を使う事だった。見捨てるなんて選択肢は、クラウには有り得ないのだから。
しかしバレたら世界が大きく変わってしまう。そこで、治癒魔法だと言い張る事を思いついたのだ。リアには違和感を持たれてしまったが、共犯にすれば問題はない。
「えっと……それでお母さんが助かるなら!」
「ありがとうございます。」
「あっ……すみません……そんな事までさせてしまって……」
どうやら企みは上手くいったらしい。しかしリアは彼にまた、恩を作ってしまったことに気づき頬を赤く染めていた。しかし彼は気にすること無く優しい笑みを浮かべて、魔物が襲ってきてからそのままの体勢の彼女に手を差し伸べた。
「お気になさらず。……これも全て、神の思し召しってやつですよ。」
(まぁ、神は信じてないけれど。)
彼女は救世主の手を取り、そのまま勢いよく立ち上がった。そして、道を引き返して、クラウを村の方へと案内するのだった。