表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2101年宇宙年代記

作者: 最U

世界標準時2101年6月7日11時07分

私は現在、ヘリオポーズ付近にいます。


右脳にチリチリとした感覚がする。

ああ、時間を忘れていました。ENAの測定をしなければ。

すみません、少し席を外しますね。


お待たせしました。


私たちが何をしているのかを説明しないといけませんね。


私たちの目的は、人類が移住可能な銀河系の捜索にあります。

そうです、未だにこの計画は進んでいるのです。

人類は進んでいるようで何も進んではいないのですよ

同じ地点での反復横跳びを繰り返しているだけ

ああ、私の悪い癖が。人の悪口を。


人類の宇宙探査の歴史は長いですよね。

地球以外の宇宙の物体に人類が関わった、最初は何でしたっけ。

・・・そうです、ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ氏が声明を発表したアポロ計画でしたね。

なぜこの話をしたかって?

私が、いえ、私たちが地球を発ったのは2069年、つまりは1969年からちょうど100年後のことだからです。

もちろん、偶然と必然が組み合わさったからこそのことです。

あの時の月着陸船に積まれたパソコンの処理能力は2010年代の腕時計にすら劣るとか

ああ恐ろしい!!!そして、そのような技術力で過去の人々に尊敬の念を

今の我々の技術力における・・・どのレベルになるんでしょうか?

もう地球を発って32年になるのでね、地上の技術力はイマイチわかりません


件のアポロ計画の後はなかなか有人飛行は行われなかったとか

・・・ISSがありましたね。あれは人類に素晴らしい成果をもたらしました。

生き残るために、人類が生まれ変わるか、人類が肉体を捨てるべきか、という議題だったそうです。

もっとも、倫理的な問題とあまりに荒唐無稽な内容だったため、それらの議論はあまりなされなかったそうですね。


次に起きたことといえば、

そう、火星移住計画でした。

2025年に行われていた火星移住計画は第一陣に20万を超える応募があったと聞いています。


なんでも、火星移住計画は不幸の連続だったと。

第一陣では4人が探査船に乗ったんでしたよね?

まず、地球を発って72日目に低体温症で一人が死にました。

火星は恐ろしく寒く、熱い場所なんですってね。

私は温度なんてもう40年前に忘れちゃったわよ。


丁度100日目には火星基地の6台の酸素生成器(1人1台で2台が予備)のうちの4台が爆発もしくは故障したって聞いています。

3名分の十分な酸素が確保できないから1名を切り捨てないといけなくなったって。

当然、キャプテンは生かさないといけないってことで残りの2人のうちのどちらかを生かしてはいけなくなったと。

公にはされていないけどジャンケンでどちらが生き残るかを決めたって(最も正式発表では「勇気のある名乗りで」だった)聞いてる。

あ、このセリフはあとで添削しておいてね、私が怒られてしまうわ、

負けた彼は3時間作業する分の酸素を積んだ宇宙服に身を包んで最後のミッションに向かったってね。

彼を勇気ある人物として崇めてる人は彼の後姿をデバイスの背景に設定している人も数多いって聞くわ。

でも、実際問題、じゃんけんで負けたとはいえ、死を受け入れるのはすごい偉いと思うわ。

最終的に、306日、活動して第一陣は全員死んだわ。

あと2ヵ月あれば第2陣にも会えたのに



これらの経験を通じて人類が得た知見は、

「人類が太陽系をコントロール出来るタイプ2の生命体になるには肉体を捨てなければならない」

ということですって。


そして、2030年には本計画、人類がタイプ2に達成するための新たな人類を生み出すための「メーティス計画」が発表されました。

つまり、私たちはアテーナ―ってわけ。実は、私の生前は男性だったのですが、今は一人称を私にしています。アテーナーってそういうものでしょ?

メーティス計画では主に2つの目標が立てられました。

1つは太陽系全体の把握と人類がタイプ3の生命体となるための足掛かりを知るための計画を動かすこと、2つは月面基地の作成。

これまでの話から想像がつくと思うけど、私が従事しているのは1つめの計画になる。



なので、先に月面基地の話をすることにするね。

月面基地は私が参加している計画を進めるために先に進められていた計画になるわ。

だから、もうすでに月面基地は完成しているし、それによって得られたエネルギーの一部を用いてこの計画が進められていた面がある。


月面基地計画が進められた背景には地球全体のあるエネルギーの総量の限界があったの

とてもじゃないけど、宇宙開発には足りない

そこで、宇宙開発を推し進める足掛かりとして核融合に必要なヘリウム3の確保を最重要課題とした

2035年には月面基地作成の第1陣が月へと送られ、2040年にヘリウム3精製工場第一棟が完成、それによって得られた電力を足掛かりに第四棟までが竣工されたわ


これで、人類は宇宙開発に必要なエネルギーを地球の資源を食いつぶすことなく得ることに成功したの


え?タイプ2の生命体になるにはダイソン球が最も良いのではないか?

あれは現実的ではないわね



そしたら、次は1つ目の計画が進められることになったわ

さて、この話を進める前に生物の進化の話をしないといけなさそうですね。

脳の話です。皆様は脳の発達には何が最も重要だと考えていますか?

突然変異?天変地異?


実はそんなものではないんです。

自由な時間の存在こそが脳の発達には必要なのです。

人間は前進となる猿人が生まれてから300万年以上たっていますが、急激な発達を見せるのは農耕文化が見られるようになってからです。

なぜ、農耕文化が見られるようになってから急激に発達するようになったのか、それこそが自由な時間の存在です。

当然、狩猟文化を否定するわけではありませんが、食料を得るために一日の大半を使う生物において、急激な脳の発達はあまり見られません。

町を飛び回るカラスを見てみてください。

実は、彼らは急激に脳を発達させている例になります。

彼らは人間のごみを拾うことによって食料確保に必要な時間を大幅に減らすことに成功し、自由な時間を得ることが出来ました。


しかし、人類においては既に食料確保による時間の確保がなされているために、別の点で発達させていくことが必要になります。

シナプスの適正化?脳の巨大化?

確かに一理ありそうですが、それらは適切ではないと我々は判断しました。

既存の脳構造を発展させる方式ではタイプ2の生命体へたどり着くことは困難であると判断したのです。


そこで、我々はこれの答えとして脳構造の最適化を選びました。

人が独立した、考える事のみを行う知的生命としての役割が必要であると考えたのです。

そして、人類を考える事のみを行う思考人間と従来の人間である運動人間とに分けることにしたのです。あなたたちですね

脳構造の最適化のために脳みそが行うべき処理の選別が始まりました。

これは月面基地を作る前から行われていた話です。


まずは、生きている人間の脳から一部を切除し、脳波の変化を見ることから始めました。

ご存じだとは思いますが、人間の脳は大脳、間脳、脳幹、小脳、脊髄に大別されます。

大脳は大脳皮質(知的活動、運動や感覚を担う)、大脳辺縁系(感情、記憶)、大脳基底核(学習、記憶、運同調節)に分かれており、間脳は視床、視床下部、視床上部、下垂体に分けられ、脳幹は中脳、橋、延髄に分けられます。

その結果、最終的に人の脳の三割を削減すると知的生命として適切な脳を持つことがわかったのです。

これが2034年の出来事です。


しかし、ここで一つの問題が起きてしまいました。

知的生命には考えるという役割しか与えられないために、生殖機能を与えることが出来なかったのです。

そこで、同意を得た運動人間に対して思考人間の処理を行うことが決定されました。

ですが、人の脳みそは全て異なるために、最適だと思われた構造も万人に当てはまるわけではないということがわかりました。

この問題を解決するために、クローン技術を用いることが決まりました。

もちろん、これに対して人権団体は黙っていませんでした。

長い、長い議論がありました。

そして、2040年、最終的にはクローン技術を用いた脳構造の定常化、という計画は断たれました。

その代わりに、人は誕生時に脳構造の点数化がなされ、思考人間に適した脳をしている人間には成人時に通知が行くようになったのです。

「あなたは選ばれた人間です。一つ上のレベルの人間となり、タイプ2の世界を見ませんか」とね



2051年、月のヘリウム3精製も地球に十分なエネルギー量を供給するに至り、人類は太陽系全体の把握と人類がタイプ3の生命体となるための足掛かりを知るための計画を実践段階に移すことに決めました。


ここで、通信の問題が立ちふさがりました。

通信は光速を超えることが出来ません。ですので、地球との通信には片道10時間以上のラグが生じます。

ですので、探査船には探査船内で処理を行うための高性能かつどんな状況にも対応可能な演算処理装置が必要なのです。


それこそが、私です。

なぜ思考人間を使う必要があるのか。それは人の脳がわずか20Wで動くことにあります。

太陽から遠く離れた宇宙空間において、頼りになるのは原子力電池のみになります。

つまりは、限られた電力を用いて最も高いパフォーマンスを示す必要があります。

その中で、思考人間こそが最も適した演算処理装置だったというわけです。



我々クルーは6名おり、それぞれMC-1からMC-6というコードが割り振られています。メーティスチャイルドの略です。適当よね。ちなみに私はMC-1、これでもこの探査船の船長なの。

我々がいくら思考するために最適化された人間だからと言っても脳の寿命には勝つことが出来ません。そこで、シフトを組むことによって脳がすり減るのを防いでいます。

具体的には、通常時は、2名が覚醒状態で他四名は視床下部を刺激することによってQIH状態におかれ、脳の老化を防ぎます。一年ごとにシフトは変更されます。

私は4月3日からなのであと10か月は働き続けることになります。


定期的の我々の脳は働きを評価され、全盛期と比較して性能が10%を下回ると電力供給が停止され、ハッチから捨てられることになっているわ。

電力を食う邪魔はいらないし、質量は軽い方が良いの。


話を戻しましょうか。どこから、、、

ああ、そうね。探査船に思考人間を載せることが決まってから、当時の最適化された思考人間ではなく、宇宙探査に最適化する必要が出てきたの。


探査船って大きさが制限されるからね、人間の脳の形は少し都合が悪くてね。

2053年に円筒型に変形する技術が完成したわ。


そして、2055年に初の片道切符思考人間太陽探査船、ニュフィア1号が地球を飛び立ったわ。

疲れる肉体を捨て、どんなパソコンにも負けない思考人間はこれまでにないほどの成果を見せたわ。

そして、最終的に太陽に突っ込んだの。


片道切符が怖くないか?

知的好奇心は止められないものなの。毎日楽しいよ。



最初は計画に反対していた人たちも思考人間がもたらす素晴らしい結果の数々に次第に声を小さくしていったわ。


そして、今あなたが聞いている私、MC-1が乗るニュフィア11号が2069年に飛び立ったわけ


これが今の宇宙探査の姿、面白かった?


次の報告は7月7日の予定


七夕の日に宇宙と交信なんてロマンチック


じゃあね。


初投稿です。

初SSです。

宇宙技術は面白い物ばかりです。

少しでも皆が興味を持ってくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ