婚約破棄を告げられた彼女は異世界の知識とスキルを用いて悪役令嬢になった
よくある悪役令嬢物です。
「アンレー・キシリトール!貴様との婚約を現在をもって破棄する! そして新たにこのシェード・ヒロインとの婚約をここに宣言する!」
学園の創立記念パーティーの最中で行われた婚約破棄。
婚約破棄宣言を行ったのはカリエス・アパタイト。
第一王子である彼の傍らには将来彼を補佐する役目を担う若者が二人おり三人でシェードと呼ばれた少女を囲む様に立っている。
「池に落とし服を切り裂き更にはブローチを壊す等彼女へと行っていた非道な行いは全て知っているぞ!」
「まさか殿下の婚約者がそんな人間だったとは残念です!」
騎士見習のガイ・ショウシと次期宰相候補のウカアール・ディテストがそれぞれにアンレーを責め立てる。
三人に睨まれるアンレーは彼らを暫し凝視したかと思うと突然笑い出した。
「何が可笑しい?!」
「ふふ、とっても面白いですわ。殿下、最近食べ物を召し上がると痛みを感じませんか?」
「な、」
「ガイ様とウカアール様も殿下同様の痛みや叩くと響く様な痛みやズキズキとした持続的な痛みを感じたりする事は?」
「な、」
「な、」
「「「何故それを!?」」」
「お顔が腫れてますしそのまま放置致しますと痛みは増すばかりな上に患部から溶け出して穴が空き、死んでしまいますわよ?」
「これは君の仕業か?!」
「俺達のみならず殿下にまで危害を加えるとは何と言う女だ!」
「まさか、魔女だったなんて…!」
「いいえ? 私はこの場にいる誰にも危害を加えていませんわ。生憎私魔法に関する素養はまるっきりですの。殿下もよくご存知でしょう? ですが私ならばその悩みを解消する事ができますの。オッセオ・インテグレーション神に誓いますわ」
アンレーの言葉に三人は息を飲む。
神に嘘を誓えばその瞬間に死に至るにも関わらず彼女は無事だったであればそれが表すのはただ一つだ。
「以上を申し上げましてもまだこの茶番を続けるおつもりかしら?」
「…先程の言葉を撤回する、婚約は続行だ」
「非礼を詫びます」
「ごめん」
「え、ちょっと皆どうしたの?」
困惑するシェードをその場に放置して控室へと移動し、三人はこの痛みを何とかして欲しいとアンレーへと詰め寄る。
「では早速治療して差し上げますわ。スキル『歯科治療』」
控室に三人の悲鳴が響き渡った。
神に授けられたドリル音で恐怖心を与え歯を削る異世界の治療知識とスキルで王族のみならず国民の健康改善を行った彼女は畏怖と敬愛を込めて後にこう呼ばれる事となる。
悪役令嬢と。
ドリルのギュイーン音は恐怖。