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ライブがはねたら

作者: 401

【思わぬ再会】

高校に入って最初の日曜日、僕は春休みに買い忘れて足りない勉強道具をそろえに街に出てきた。

母さんの仕事の都合でこの春に引っ越してきた僕にはよくわからない街である。

「あれ?ここどこだ?」

近道かと思って路地にはいったら、自分がどこにいるのかわからなくなった。

さらに歩いて行くと、どんどん路地に入り込んでしまい。とうとう路地裏に来ている。

すると「嫌です。」と声が聞こえた。

ガラの悪い連中3人に絡まれている女の子を発見。当然ながら女の子は嫌がって抵抗しているようだが、さらに狭い路地に引き込まれそうになっている。

あちゃ!変なとこに出くわしちゃったなと思いながらそっと見ると。

「おや?桐山先輩?」

よく見ると見覚えのある横顔をしている。見間違えかなと考えているうちに狭い路地に連れ込まれてしまった。

心配になって、そっと覗いてみた。

なにやら2人の男が桐山先輩らしき女の子を威喝しながら怒鳴りつけている。

誰か助けてくれる人がいないかと周りを見たが、あいにく、こんな繁華街から離れた路地裏に誰もいない。

そのうち残りの一人が

「どっかに連れ込めや」と一言。

こらやばいと思い近くにあった棒状のものをひっそりと持って、

「どうしたのですか?」と一言。

「なんだあ?」と3人の男がこちらを向いて睨みつけてくる。

その隙に女の子が男たちから離れて僕のそばまでやってくる。

「こら、何やっているんだ!」と怒鳴ってくるが、何もやってないし、答えようがない。というより僕にはそんな余裕はない。

「逃げてっ!」と言うしかできない。

女の子は状況を理解したらしく、すぐに走り出した。

「待ちやがれっ!」と男たちが追いかけて来る。

僕は手に隠し持っていた棒を振り回した。

一瞬、男たちがひるんだ隙に女の子はうまく逃げることが出来たが、こんどは僕がターゲットになってしまった。

棒といっても所詮、道端にあった箒だ。一人の男に簡単に掴まれて動きが止められてしまう。

「このやろう。いいところを邪魔しやがってぇ」ともう一人から殴りかかられた。


約十分後には僕は路地に倒れていた。

三対一で勝てるはずもなく、袋叩きにあって、このざまだ。

田舎にいるときもケンカはしたことがあるけど、大きな街の不良はやっぱり違うなと思いながらどうなったか確認する。

体中が痛い感じだ。口の中は顔を殴られたときに切ったようで血の味がする。

しばらくは動けそうにない。

「まっ、いいか。女の子は助かっただろうし。」

やっぱり口の中をだいぶ切っているようで喋りにくい。

目を閉じて何も考えずに休んでいると。

「だ、大丈夫・・・?」

女の子の声とともに口元に冷たいものが当てられた。

「・・・っ!」

口元に当てられたものが傷にしみたのか痛い。

痛さがましになって少し目をあけて様子を伺うと女の子が僕のそばにかがみ込んでいた。

はっきりと目をあけて見てみると、やっぱり桐山先輩だ。

こんな路地裏に人がきたことにも驚いたが、そばにいるのが、桐山先輩で驚いた。

「桐山先輩。大丈夫でしたか?」と思わず口に出ていた。

「えっ」と、とっさに出た言葉の後、

「大丈夫。助けてくれてありがとう。」とお礼の言葉があった。

僕は心の中で、「よかった。先輩が無事で」と思って立ち上がろうとしたが立てない。

すると先輩が僕の体を起こしてくれて肩を貸し立たせてくれた。

「ありがとうございます」とお礼を言って、さらに

「どうして戻って来たんですか?まだ奴らがいたら危ないじゃないですか?」と問うと、先輩は

「うん、心配になって・・・」と。

いつもは遠目にみていた桐山先輩を初めて近くで見た。近いどころではなく、すぐ横に先輩の顔がある。

心配そうで、いつもの明るい笑顔ではないが、先輩の魅力はまったく衰えることはない。

「大丈夫?」と先輩が聞いてきた

「ちょっとぉ・・・」今は大丈夫ではない。

「本当にごめんなさい。」と先輩があやまってくる。

先輩が悪いわけではない。あのガラの悪い連中が悪いのだ。

「気にしないでください。僕が勝手にやったことですから。」

何度も「大丈夫?」「ごめんなさい」と言われて、気にしないでくださいと答えて、その繰り返しで、少し時間が経ち何とか歩き出すことが出来た。

とはいえここがどこかわからない。

「すみません。先輩、駅まで連れてってくれませんか?」

ちょっと図々しいかと思いながらお願いしてみる。

「ごめんなさい。もちろんいいわよ。」また、あやまられたが、快い返事をもらえた。

そのあとはこれといった会話もなく、二人でゆっくりと駅に向かった。


なにも話をすることがなく、二人で電車に乗って帰っている。

僕の降りる駅が近づいてきた。

「次、降りますので、ありがとございました」と声をかける。

「ごめんなさい。本当にありがとう。」と、もう何度目になるだろう。

また、あやまられた。

先輩の家は、まだ、先の駅とのことだ。

家まで送ろうかと聞かれたが、さすがにそこまでしてもらう必要はない。

何度も「大丈夫?」と聞かれたが、「大丈夫です。」と答えて、駅に着きドアが開くと僕はひとりで電車を降りる。

停車時間は短い。僕は振り返って、

「気を付けて帰ってください。さような・・・」と言っているとき、僕の頬に軽くキスをされた。

「ありがとう。さようなら。」と先輩は言って、ドアが閉まり電車が出発した。

僕はその場で立ち尽くすだけだった。



【初見】

高校に入学しての最初の行事、オリエンテーションで、何人かの友達もできて、昼休みに廊下で友達たちと集まっていたとき、その中の一人、ちょっと騒がしめの友達から声をかけられた。

「良介、見ろよ。」

「なんだよ。」と、言いながら廊下の窓から外を見てみる。

見上げた反対側の特別棟四階音楽室窓側に先輩と思しき女性の集団がいた。

「いいなあ。先輩・・・撮っとこ。」

そう言って制服のポケットからスマホを取り出した。

「やめとけ。失礼だろ。」

「いいじゃねえかぁ。写真ぐらい。あとでお前にも送ってやるよ。」

「いらねーよ。ネットなんかにアップするなよ。」

結局、僕の言うことなんか聞かずスマホを向けはじめる。肖像権とかプライバシーはどうなっているんだろ。写真ぐらい直接お願いして取らせてもらえばいいのに。

こそこそとしている友達の横で、僕はぼうっと見ていた。

「ところで先輩って誰?」

「お前、知らないの?桐山奈緒先輩。学校一の美少女。三年八組。出席番号三十二番。高校に入ってから三年連続ナンバーワン。何人もの男が交際を申し込んだが全戦全敗で、いまだ彼氏なし。一部マニアからはアイドルとされている。らしい。」

なんだ。最後の方は伝説みたいになっていたけど。

「ほら、あのブラウンのふわっとした髪の毛にリボンを巻いた人」

集団の中でひときわ目立つように、笑顔が素敵な女性がいる。

友達と楽しく話をしているようで、時折こちらに笑顔が見える。

「あー、うまく撮れないなぁ。」

と、しているあいだに始業のベルが鳴った。

先輩たちは席に着くのだろう窓から離れていった。

僕たちも次のオリエンテーションのため教室に戻る。


今日のオリエンテーションも終わり、帰宅のため昇降口に行くと、そこは帰宅の生徒でごった返していた。

まだ、新年度が始まってすぐ、僕たち一年生はオリエンテーションだけで、上級生は短縮時業のため全生徒が集まってきている。

靴を履きかえ校門に向かおうとしたとき、同じように昇降口から出てくる生徒の集団の一つに見覚えのある髪を見つけた。

休み時間に聞いた学校一の美少女と噂の桐山先輩だ。

いっしょに帰る友達は、昇降口手前で女生徒につかまって話をしている。

友達を待っている僕の前を桐山先輩が通って行く。

かわいい人だと思った。小さな顔に大きな綺麗な瞳、笑ったときに見える八重歯が、また、魅力的だ。

下級生から見ればちょっと大人に見える女性が桐山先輩だ。

「待たせたな。」

通り過ぎる先輩を見ていると、友達が来て声をかけてきた。

「もう話は終わったのか?」

「ああ。大した話じゃない。」

「また、告白か?やっぱり健人はモテるなぁ。」

「関係ねぇ。」

こいつは同じクラスで僕の席の前に座っている比叡健人ひえいけんとだ。

たまたま出席番号順で前と後ろになって仲良くなった。家も同じ方向でいつも一緒に帰っている。

眼鏡をかけた物静かなイケメンだ。僕から見てもかっこいいと思う男だ。

入学してから数日しかたたないが、何度も同級生からも、というより上級生の女の子の方が多いように思うが、声をかけられている。

僕が知っているだけで二度、いきなり付き合ってくださいとのこともあった。

帰り道で健人に聞いてみた。

「健人。桐山先輩って知ってる?」

「ああ。学校一の美少女との噂の人。」

「知ってるんだ。」

「ああ。噂だけな。」

「どんな噂?」

「さあ?学校一の美少女」

「さっき見たんだよ。健人を待っている時に前を通り過ぎて行ったんだ。」

「そうか」

「かわいい人だったよ」

「そうか」

いつもこんな感じだ。冷静沈着の落ち着いて静かだ。



【接触?】

「おーい。良介。ほら。」

「えっ?」

廊下の窓から普通棟と特別棟の間の中庭を見てみると、桐山先輩が数人の友達と中庭のベンチに座って話をしていた。

「かわいいな・・・。一度でいいから話してぇ。」

「玉砕覚悟で告白してみたらどうだ?どうせお前のことなんか気にしてないから。」

「いやだよ。なんで俺が?」と肩を落として睨んでくる。

「良介。行け。」

「何で?」

「お前なら。かわいい感じで、母性本能をくすぐられて、何とかなるかも。」

「何も知らない男から、いきなりつきあってくださいって言われて、OKする女の子っていやだな」

何か知っているかもしれないけど、初対面で告くられて即OKする人間がいるだろうか?

でも、こっちは知ってるんだけどなぁ。

それはあの入学して最初の休みの日に街でからまれている先輩を助けた日だ。

僕はこてんぱんにやられて、先輩に助けてもらいながら近所の駅までいっしょに帰った。

僕の間違いでなければ、あれは先輩で、その別れ際に頬にキスをされた。

でも、よく考えると、僕は名前を言っていなし聞いていないような気がする。

行先も言わず、でも、いっしょに電車に乗って帰った。

今となっては人違いだったのかと思う。

学校でも何度か見かけたり、すれ違うことはあったが、話すこともなければ、目が合うことすらない。

と、考えていると。

「やった!」と周りで騒いている。

みんなが見ている先を同じようにみると、こちらに手を振っている桐山先輩達の姿があった。

先輩たちを見ている僕たちを見つけて手を振っているようだ。

「やった」

「こっちも手を触れ」

と友達たちが言う。僕は笑って見ている。隣で健人はどこともなく空を見ている。

「良介と健人も手を振れよ」

と言われて、何気なしに健人を見て、手を振るようにうながして、いっしょに手を振ってみる。

「キャー」「わー」

先輩たちの方からも声が聞こえた。さすが健人と思いながら手を振っていたら、桐山先輩がニコッと微笑み、目があったような気がした。

ただ、これだけのことだと言えばそれまでだが、学校で始めて桐山先輩と接触した。ように思う。



【出会いから】

私が初めて彼を見たのは新学期が始まってすぐの新入生たちの入学式が次の日の初登校の日のことだった。

「ねぇねぇ。奈緒。来て。来て。」

呼ばれて友達のところへ行くとみんなが窓の外を見ている。

「どう?」

どうと言われても。普通棟二階の一年生の廊下を二人の男の子が歩いているだけ。

「新入生のツートップよ!」

きょとんとしていると説明を始めてくれた。

「背の高い方がイケメンの比叡健人君で、かわいい方が富士良介君」

「イケメン派とかわいい派で二分しているの」

富士君がすました顔の比叡君となにか話しながら歩いている。

「健人、僕の話聞いている?」

「聞いてる。」

「行っちゃった。いいもの見れた。」

みんなが窓から離れて席に戻る。私はもう一度、窓の外を見て「良介君かぁ。」とひとりつぶやいた。


わたしは街で襲われそうになった。

パパのライブハウスでギター練習をして開店まえにお店を出た。

遅くなったのでいつもは使わない人通りの少ない路地を繁華街に向かおうとしている時に、三人連れの男たちに声をかけられ、人がいなくなった瞬間に路地裏に連れ込まれた。

私は怖くて声も出せずに震えていた。そこに現れたのは、あの日、見た良介君だった。

やっとのことで「助けて。」と声を出すことが出来た。

良介君が来て、なにか話した瞬間に、男たちの視線がそれた。とっさに逃げて良介君のそばに来た。

そのあとは「逃げてっ!」との良介君の声をきっかけに、路地の出口にまで走ってきて、人通りの多い繁華街まで逃げた。

私は走って息がきれていたが、あんなことがあったことを誰にも知られたくなく人通りの端でじっとしていた。

少したって落ち着くと、良介君がどうなったのか気になりだした。

だれも追いかけてこない。もちろん良介君も来ない。

さすがに三人を倒してカッコ良く来る話ではない。

三十分ぐらい経ったころだろう、怖い気持ちと良介君が心配な気持ちで来た道を戻ることにした。

良介君は傷だらけで倒れていた。

見ると唇を切ったようで血が出ている。私は持っている水のペットボトルでハンカチを濡らして良介君に近づいてそっと血を拭いた。

良介君は私のことを知っているようで「桐山先輩」と呼んでくる。

立ち上がろうとするが体が痛いようでうまく立ち上がれない。

私が支えて良介君が立ち上がった。

駅まで連れていってほしいとのことで、一緒に最寄りの駅まで行き、同じ電車に乗った。

次の駅で降りるとのことで、送って行くと言ったが、断られて別れることになった。

電車のドアが開き、良介君が降りる。

振り返った良介君を見て愛おしく感じ。なぜか良介君の頬にキスをしていた。


私は良介君を探すことが多くなった。登下校時の電車や通学路、休み時間の教室移動や昼休みの食堂には及ばず放課後も探してみた。

遠くから見かけることやすれ違うことはあるがなかなか話す機会がない。

友達の中では有名らしいので聞けば何かわかったかもしれないが、勘ぐられると嫌なので出来ない。


ようやくきっかけを見つけた。

私が友達と中庭のベンチで話をしているときだった。

向かい側の一年生教室前の廊下で何人かの男の子たちが話をしている中に見つけた。

どうしようかと考えていると、友達の何人かが彼らを見て手を振っている。

よく見ると三年生女子の間で人気の良介君と比叡君を見つけて手を振っているようだ。

私もいっしょに手を振ってみた。

「やったー!」「すげー!」

男のたちから歓声が聞こえた。

その時、良介君も手を振ってこちらを見ているのに気付いた。

一瞬目があったように感じたのは錯覚かと思っていると始業のチャイムがなり、みんなバラバラと分かれて行く。

私は良介君が教室に入るまで見ていた。


【教室いねむり】

ある日の放課後、最終下校のチャイムが鳴り音楽準備室の戸締りをしているときに、普通棟二階の一年七組の良介君の教室の明かりが点いているのに気が付いた。

なぜか気になって帰りの際に教室を覗いてみると、居眠りをする良介君を見つけた。

下校時刻が過ぎてみんなが帰宅し、良介君しかいない教室に入った。

そばで見ていて、かわいいと思った私はじっと見つめていた。

つい彼の頬を指先でつんつんとしてみた。

「うーん」

良介君が起きてしまった。びっくりした良介君は私の名前を呼んで、こちらを見ている。

「わっ。桐山先輩。どうしたんですか?」

「部活が終わって戸締りをしていたの。」

「えっ。それでどうして?」

「明かりが灯いてるからどうしたのかと思って来てみたの。もう、最終下校時を刻過ぎているわよ。」

「えっ。僕、寝ちゃってたんですね。」

「ええ。よく寝ていたわ。はやく帰りましょう。」

そう言われた良介君は帰り支度を始めた。なんとなくその姿をみていて、戸締りが終わったら、一緒に昇降口までいっしょに歩いた。

下駄箱は学年で場所が離れているので昇降口で分かれて、靴を履きかえ扉を出ると、良介君が待っていた。

「桐山先輩。もう暗いですし、いっしょに駅まで行きましょう。」

良介君といっしょに帰ることになった。

二人になるのはあの日以来、初めて、いつも探していたのに二人になると、話すにも、何を話していいかわからない。

どうしようかと悩んでいると良介君が話しかけてきた。

「ありがとうございます。誰かに起こしてもらわなかったら、ずっと寝ていました。」

「ええ。たまたまよ。気にしないで。」

たまたま?私はどうして教室に行ったのかよくわからないので曖昧な返事を返した。

と、その時キスをしたことを思い出し、はずかしくて顔が赤くなるのがわかった。

少しのあいだボーとしてしまい。次に何を話したらいいかをわからないままいると、また良介君から話してくれた。

「新学期が始まって、新しい環境でちょっと疲れが出ているんです。最近、眠たくてしょうがないんですよぉ。」

「そうね。高校に入ってまだ一か月たっていないものね。」

「はい。もう少し頑張らないとって思っています。」

「もう少し?」

何がもう少しかと気になったので言葉に出ていた。

「もうすぐゴールデンウィークですから、それまで頑張って、あとはゆっくり休もうかと」

「あぁ。ゴールデンウィークね。」

「はい」

ここであることを思いついた。

「ゴールデンウィークは休むだけ?」

「えぇ。一日は街に出かけようかと思っていますが、ほかに予定はないので、ゆっくりと家の掃除や片づけなどをしようと思っています。」

「街に何しに行くの?」

「僕、中学まで田舎に住んでいたので、観光じゃないですけど、いろいろ回ってみようかと思っています。」

「ふぅーん。この辺りは初めてなの?」

「はい。親の仕事の関係で引っ越してきたばかりです。」

都合のいい話が出てきた。

「じゃぁ。私が案内してあげようか?」

「えぇー?」

なぜか私の提案にビックリしている良介君だけど、いっきにという感じで話を進める。

「初めてなのでしょ?私が案内してあげる。そうね。最初の祝日なんかどう?」

「えっ!」

「なにか用事でもある。」

「いえ。」

「じゃあ決定。」

いっきにたたみかけるように予定を決める。

時間や集合場所、どこに行ってみたいかを聞いて約束をする。

良介君と別れて駅から家までの帰り道、その日のことを考えながら帰った。


翌日からの私は何かおかしくなっていた。

あるとき友達に言われた。

「奈緒。奈緒。」

「ねぇ。奈緒」

「えっ。何?」

「何度も呼んだのに返事が無いからどうしたのかと思ったわ」

「えっ。そうなの。」

「なにか。ニヤついているみたいだし。気持ちがどっかに行っているみたいで、どうしたの?」

「何もないわよ。考えごとをしていただけ。」

最近、こんな会話が良く出て来る。

どうってことないのだけれど、ニヤついているらしく気味が悪いらしい、何度も友達から言われる。

これはなおさないといけないと思うのだけれど何度も言われる。

ニヤついている?私は何かおかしくなっているのだろうか?

そう。良介君と約束した日から、今まで会って話すことは無いけれど、休みの日が楽しみで、つい考えてしまう。

そのときにニヤついているようだ。

やっぱり、私はおかしくなっている。



【お出かけ】

ゴールデンウィークの初日、僕は桐山先輩と同じ電車に乗っている。

目的地は自宅最寄りの駅から一時間程度離れた街である。

どうなったのかよく覚えていないのだが、ある日、桐山先輩と一緒に帰ることがあった。

その時に僕がはじめていく街を案内してもらう約束をし、電車の時間と乗る車両を合わせて目的地に向かうことになり、今に至る。

駅は僕の方が遠いので、先に電車に乗っていて、桐山先輩が二つ先の駅から乗り込んで合流した。

最初こそ、おはようございますや天気の話があったが、何か共通の話題があるわけでもなく黙って電車に乗っている。

でも桐山先輩はひとりで何か言いながら考えているようだ。

「今日は具体的な目的はある?」

桐山先輩が共通の話題となる内容を聞いてくる。

「まずは中華街でご飯を食べたいかなと思っています。あとはどんな店があるのか見て回るぐらいでしょうか?」

「そう。中華街ね。おいしい肉まんの店があるから、中華街を見ながらそこへ行きましょう。」

「はい。よろしくお願いします。」

「じゃあ、駅は一つ先まで行って歩いて戻ってくる感じかな。」

桐山先輩は計画を考えているようだ。

駅に着くと改札を出てすぐに中華街が始まっている。

もう目の前に中華風の門がある。先輩が「牌楼」(パイロウ)だと教えてくれる。

そこかしこから中華料理のいいにおいがしてくる。

「まだ、十一時かぁ。ちょっと早いね。先にお店見て回ろうか?」

「はい。」

僕にとっては初めての街で、中華街が有名だと聞いていただけでなにも考えていないのですべて桐山先輩にお任せだ。

いろいろな雑貨を見て、いくつか目かの店を出た時に突然の先輩の声とともに両肩を押されてもう一度店の中に入ることになった。

「隠れて!」

店のなかの商品棚の影から外を見ると桐山先輩が二人組の女の子と話をしている。

「奈緒、偶然。」

「えぇ。本当ね」

「今日はどうしたの?買い物?」

「えぇ。まあ。」

「一人?さっき誰かと一緒だったと思うけど?」

「えぇ。いとこが田舎から来ているので案内しているの?どこいったのかな?」

「そう。」

などと話している。先輩からの最初の声と今、聞こえた話の内容から僕は出て行かない方が良いと思い、店のなかで待っている。

少し経つと桐山先輩は友達たちと別れて手を振っている。

どうしようかと店を出られずにいると、桐山先輩がこちらをちらっと見て、口パクで「待って」と言っているようなのでそのまま待つことにする。

見ていると先輩は来た道を戻りだした。どうしたのかと考えながらさらに待つと後ろから声が聞こえた。

「良介君。ごめん。」

「えぇ。どっから来たんですか?」

「ん。ちょっと戻って裏から入ってきた。」

なんとなくわかってきた。僕といるところを見られたくないのだなと感じた。

そうだろう。僕も桐山先輩と一緒のところを友達にみられると、何を言われるかわかったもんじゃない。

「良介君。そろそろいい時間だから食事に行きましょう。こっちから行きましょうか。」


中華料理店という感じの店構えだった。中華街大通りからわき道にそれてすぐのところにある。大通りの派手な店構えとは違い。普通の店だ。

「ここの小龍包と肉まんがおししいの。本店は台湾で大手の百貨店にも店をだしているのよ。」

お店に入って説明をしてもらった。食べられないものがあるかと聞かれたが、とくには無いので「そぉ。」とのことで小龍包や春巻き、焼売などの飲茶を桐山先輩が注文する。

「ここの肉まんは大きくて、私一人では食べられないので一つをシェアでいい?」

「はい。おまかせします。」

肉まんも注文して一通りの料理を食べた後、肉まんを食べようかと思ったが、やはり大きい。飲茶は二つずつ入っていたのでいろいろな種類を分けることが出来たが肉まんはどうして食べようかを考えていたら、

「私はおなかがいっぱいなのでもういいわ。良介君ひとりで食べて」とのこと。

たしかに小龍包もおいしかったが、肉まんもおいしい。コンビニの肉まんも好きだが本格的な中華の肉まんは別だと感じてあっというまにたいらげた。

「やっぱり男の子ね。さらっと食べてしまうのね。」

「おいしかったです。」

というと、よかったわと言って、桐山先輩はなにやらニコニコしている。


昼からは街の中心に位置する駅まで戻って、周りのモールや地下街を見て回った。

その一軒でのことだ。桐山先輩が僕に帽子を買ってくれるという。

「どれがいいかな。あっ。これかぶってみて。」

「うーん。やっぱりこっちかな。」

いくつかの帽子を渡され、かぶり方を変えることを繰り返し。

「よし。これで決まり。」

帽子を買ってもらった。桐山先輩の怒涛の要望に応えて知らぬ間に支払いまで済ませていた。

「桐山先輩。お金払います。案内までしてもらって悪いですよぉ。」

「いいの。私がしたいだけだから。」

「でもぉ。」

「じゃぁ。また今度はお願いね。」

「また今度?」と気になることもあったが、なにも出来ないまま店を出た。


桐山先輩はうーんと言いながら考えている。

「次はデザードね。良介君は甘いもの大丈夫?」

「はい。好きですよ。」

桐山先輩はもう次の予定を考えて、その店に向かっている。

「今度も私のおすすめなの。この辺りじゃ二番目なんだけど。」

「一番じゃないんですか?」

「えっ。う。うん。そ。そうなの。場所がいいのよ」

なにを戸惑っているのだろう。返事がおかしい?


センター通りの外れにあるおしゃれなカフェに入り窓際のテーブルに案内された。

ここで先輩はカフェラテとチョコレートムースケーキ、僕は紅茶とイチゴのショートケーキを注文した。

「桐山先輩はチョコレートが好きなんですか?」

なにげに話をふる。

「えぇ。チョコレートというか。ケーキはどれでも好きよ。良介君はイチゴショートが好きなの?」

「はい。オーソドックスだけど、これが一番いいかなって。」

「ふーん。最近。イチゴショートは食べてないなーぁ。ちょっともらっていい?私のもあげるから。」

といって、桐山先輩は自分のケーキを切り分けフォークにさして僕の方に差し出してくる。

ん!?これは食べろということか?桐山先輩にケーキを食べさせてもらう?などと考えていると。

「ああーん。」

子供じゃないのに条件反射でパクっと食べてしまった。

先輩はニコニコしながら、そのまま僕のイチゴショートケーキを切り取ってパク。

「おいしい。」

なんだか桐山先輩はご機嫌だ。


「外を見ないで。」

突然、外を見ないでと言われ一瞬見てしまった。

「あっ。健人。」

僕の親友の健人がいることに気が付いて、隠れるように店内を向く。

「まずいわ。小春。」

「どうしたのですか?」

「近所に住む幼馴染の親友よ。中学校で同じクラスで、同じ高校なのよ。女子バスケット部で主将。」

「それがまずいのですか?」

「えぇ。親友だからよ。」

「僕も親友の健人もいました。」

「えっ。そうなの。」

桐山先輩がちらっとみて、また、驚いたように話す。

「どうして?」

「どうしたのですか?」

「比叡君と一緒にいるのが小春よ。」

「えっ。どうして?」

今度は僕が驚いて、ちらっと外を見ると健人が女の人と話している。女子バスケット選手らしく、すらっと背が高く健人と同じぐらいの背の高さだ。僕は何が起こっているのかさっぱりわからない。

桐山先輩も同じように疑問だらけのようだ。

二人ではてなマークを浮かべていると健人と小春先輩が二人で歩いて行った。

「見られたかな?」

桐山先輩がつぶやいている。こちらに気付いた様子はなかったので見られていないと思うがわからない。

「さぁ?二人は知り合いだったのでしょうか?何を話していたんでしょうね。」

「まぁ。いまさら考えても仕方は無いわね。もう忘れて楽しみましょう。」

とはいうものの桐山先輩の顔色は優れない。少しすると桐山先輩はぽつりと話し始めた。

「この店にしたのは目立たないからだったの。本当は一番おいしい店にしたかんのだけど目立つから、ここにしたの。でもおいしい店は嘘じゃないわよ。」

「はい。おいしかったです。でもどうして?」

「誰かに見つかるといろいろあるでしょう」

「・・・はぁ。そうですね。桐山先輩は学校では有名ですからね。」

「そんなのどうでもいいけど。まわりから言われて思うようにならないことがあるから。」

「まわりからいろいろ言われるのはいやですね。たぶん大丈夫ですよ。」

先輩はすっきりしたようで、その後もモールなどにいっていろいろ見てから帰った。


「あれ健人君」

「すみません。どなたでしたか?」

「あぁ。ごめん。いきなりで。同じ高校の三年生で桜井小春よ。あなた有名だから知っていたの。」

「はぁ。そういうことでしたか。」

僕たちが隠れている店の前でこんなことが起こっていた。

さらに驚くことに、

「あっ。良介。それに。」

「どうした?」

「ああ。良介と桐山先輩がそこの店で隠れるように居るから、どうしたのかなと。」

「えっ。奈緒?」

「見るな。何か隠れているようだから。知らないふりして俺の肩越しにそっと見てみな。」

「うん。奈緒だ。」

見つかっていないと思ったら、こんなことになって二人にばれていた。

後で健人から聞いた話では、僕たちが隠れているので、そのまま二人は黙って帰ったそうだ。

そのときに小春先輩に言われて情報交換のために連絡先を聞かれたそうだ。当然、小春先輩の連絡先も有無を言わさず登録されたと言っていた。



【噂】

ゴールデンウィークの中か日、暦通りに学校はある。

昨日のことで浮かれている場合ではない。連休までにもう一日登校しなければならない。

と思いながら学校に行くと大騒ぎになっていた。

男子生徒だけでなく女子生徒からも話している内容が漏れ聞こえてビックリだ。

ここで焦ってはいけない。まずは事実確認からと思い教室に入る。

さっそく友達が僕と見つけて駆け寄って来て話だした。

「聞いたかあぁ!!」

「あの桐山先輩が彼氏とデートしていたんだよ」

「えぇっ!?お前見たのかよ。」

と驚いておく、教室に来るまでに噂しているのを聞いた。まだ情報が足りない。

「相手は大学生のイケメンだったとの話だぜ。」

!?えっ。どういうこと?

「違うぜ。俺は先輩より小さい中学生との話を聞いた。」

!?えっ。また違う話?

「いやいや、俺はこの学校の後輩だって聞いたぜ。」

先輩がデート?あれ?昨日はデートだったのか?は、ともかくとしていろんな話がある。

「もっと話を集めないとわかんないな。」

友達たちがいろんな噂を聞いて話してくるがバラバラでどうなっているのかわからない。

みんなが騒ぎながらクラスのグループや廊下にかけ出して行くのを見ながら、僕は自分の席に向かう。

すでに健人が来ていたので、鞄を置きながら前の席の健人に声をかける。

「おはよう。」

「おはよう。」と健人は横を向いて返事をする。

「聞いたか?」

「さっきのか?」

「どんな話か詳しく知っているか?」

「しらん。噂だろ。」

「ちょっと気にならないか?」

「関係ない。」

健人は気にならないようだ。人のことを気にするようなやつではない。と考えながら昨日のことを思い出して、健人も街にいたことを思い出した。

「健人も昨日いたよな?」

「ああ。カフェの前でか?」

「えっ?カフェの前?」

「相手はお前だろ。」

「えっ。それはどこからの情報?」

「俺。」

「えっ。見てた・・・・」

気づかれていないと思っていたが見られていた。ということは。

「お前が発信源?」

「違う。」

そういえば女の先輩といっしょにいたよな?桐山先輩も「まずいって」言っていた。そっち方面からか?

まだ状況が良くわからない。

ブッブッと音がして、健人が電話に出ている。電話が終わったら話しかけてきた。

「良介。昼に用事が出来た。空けとけ。」

「うん。何?」

「行ってからな。」

何だろと思いながらも、先輩とのことが気になる。健人に見られていたのも気になるが、健人は噂になるようなことを話すようなやつじゃない。あの先輩か?でも確かめようが無い。どうしようか?


午前中はみんな、噂で盛り上がっていた。

僕と健人は教室でお弁当を早々に済ませ、食堂に来て僕と健人は向かい合って、僕は炭酸飲料。健人はブラックのコーヒーを飲んでいる。

そこに、あの女の先輩がやってくるのが見えた。

「よっ。」

その先輩が小さな声をかけてくる。確か桐山先輩は小春と言っていた。

「げっげっ!小春先輩!?」

思わず驚きの声と先輩の名前を呼んでいた。

「なによ。しかも初対面で名前呼び?嫌じゃないけど。」

「健人。サンキュー」

といいながら近づいて来て健人の横の席に着く。健人はムッとしたような顔をしたようだが大きな反応は無い。その後ろには桐山先輩がいた。机を回って僕の横に座る。健人はいつもの表情のまま無言だ。

「こんにちは。」

「はっはい。こんにちは。」

なんだろと思っていると小春先輩が話し出した。

「私も名前呼びさせてもらうけど、良介は健人から聞いた?」

「いえ。なにも。」

「もうしってえるよね。噂のことで話があるから健人に連絡して集まってもらった。」

「えっ。もしかして。発信源は小春先輩?」

「だいじょうぶ。小春じゃない。」

「でも。桐山先輩は小春先輩のことを「まずい」とか言ってませんでしたか?」

「違うの。あれば別の意味。なにも話していなかったから、あとでわかるといろいろまずいという意味だったの。」

「ところで噂はどんな感じ?私が聞いたとこでは、奈緒がデートしたということは共通しているけど、相手に関してはいろいろな話で、噂の範囲を出ていないという感じ。」

「そう。私も同じ。デートしていたとは聞かれても相手はいろいろで、誰かと問い詰められるだけ。」

小春先輩と桐山先輩が今までの状況を話している。

「で奈緒はどう返事しているんだ。」

「デートとじゃなくて買い物に行っていた。相手は田舎から来た従弟と話している。」

桐山先輩が中華街で友達に話していたことと同じだ。

「奈緒は噂の出どこのこころ辺りはあるのか?」

「たぶん。中華街で会った、あの二人かと思うけど。いま言ったように二人にも従弟と買い物って言っているから。」

「まあ。二人に見られてるし、私たちが見たくらいだから、他にも見られてたのかもしれないね」

「えっ。小春先輩の見てたんですか?」

「ああ。健人といっしょになった時にカフェにいる二人を見たよ」

「そうらしいの。」

「あちゃぁ。バレバレですね。そりゃ他にも見られていてもしかたないですね。」

「でも。こんなのいつもの噂よ。中にはまったく身に覚えがないこともあるもの。」

「そうだな。」

桐山先輩と小春先輩は昨日のことも共有しているし、いつものことだと気にしていない様子だ。

そんなことを話しているだけなのだが、どうも周りの視線が気になる。ちらちらとこちらを見ているようなのがわかる。

「ところで、僕たち目立っていませんか?」

「そりゃ、学校の有名人が集まっていりゃ、目立つわな。」

学年一の美少女と一年トップのイケメンがそろっていたら目立つかと思う。

「いいんですか?」

「いいんじゃない。後輩と先輩が休み時間にお話ししているだけでしょ。」

当の本人の桐山先輩がいいというので、このまま話を続ける。

「ところで噂の件はどうする。とりあえず様子を見ようかと思うけど。」

小春先輩がそういうので桐山先輩も僕も賛成、健人は無言のまま。

もう一度放課後にここに集まるということになって解散した。


私たちは放課後になり、また食堂に集まっている。

時業も終わり帰宅前の休憩を楽しむ数人の生徒たちと部活前の生徒たちが数人いるだけ。

私は先に来てみんなを待っている。

良介君と比叡君は飲み物を買い自販機にいる。小春は部活のジャージに着替えてやって来た。

全員がそろったところで私が聞く。まだ、みんなの前では名字で呼ぶことにする。

「富士君。どうだった?」

「それが、桐山先輩の彼氏が健人ということになっているんですよぉ。それに数人ですが僕が彼氏との話もありました。」

「良介との話も聞いたけど、ほとんどは健人だったなぁ。たぶん。昼間に相談しているところをみた奴から噂が広がったのかと思うけど。」

良介君と小春が話をしている。

「しょせん噂だろ。」

「健人はいいのかよ。」

「いつものことだ。」

比叡君は気にしていないようだ。

「そうね。いつものことね。このままで問題ないわよ。」

みんな納得したようだったが、良介君が話だした。

「ところで、やっぱり周りの目が気になるんですが本当にいいんですか?」

「奈緒、やっぱり目立ってるよ。何かした方がいいんじゃない?」

良介君と小春も言ってくる。もともと私はこんな感じではあったが、さすがにイケメントップとかわいいトップ、それに女子バス主将で人気のある奈緒、まあ私もそれなりの四人が一緒にそろうといつもよりは気になるのだろう。でも、このまま会わないでいるのは嫌なので、さらっと言いておく。

「いいんじゃない。友達が会っているだけだし。まえからこんな感じよ。」

「そうですかぁ。なんか気になってしょうがないんですけど。ところで健人はわかるんですが、どうして僕が噂の彼に入っているのかわからないんですが。」

「そりゃ・・・・ッ」

思わずむかえに座る小春の足をテーブル下で蹴っていた。小春が机に伏せて私を睨んでくる。良介君はどうしたのかと気になっていたようだが、良介君が私以外に人気があって、私だけの良介君じゃなくなるのが嫌だった。



【思いを曲に。】

ゴールデンウィーク連休に入って、小春からはあれこれ聞かれたが、幼馴染みで親友に隠すことは無い。

いろいろ協力してくれるし、いつも相談に乗ってくれる私の一番の親友だ。いままであったことを話した。

「そっか。ついに小春にも。」と言いながら、いろいろ聞いてくる。

あの日、カフェの前で比嘉君と会って、連絡先の交換をしていたことも聞いた。

今後も私の力になってくれることになった。いい親友だ。

それから休みに入って曲を作り出したことを話した。

そう、前のデートからわたしはさらにおかしくなっている。良介君のことを考えながら曲を作っている。

曲を作っているときに以外も、なにかあると良介君のことを考えている。

今まではこんなことはなかった。


休みが明けてすぐはいろいろ聞かれたが、これと言って影響があるような内容ではない。

いつもの噂のように「そぉ」や「知らない」と答えて終わりだ。


昼休みに四人で話をしていても、特別なことはない。

ときどき四人で昼食をとっていても、「また、いっしょにいたね」や「なに話してるの?」とかを聞かれるだけで何もない。

さらには登下校時にいっしょにいても同じだ。


あるとき四人でいるときに小春が曲作りの話をしてきた。

「桐山先輩。曲をつくっているのですか?」

良介君が興味深げに聞いてくる。

「ええ。まだ途中だけど。」

「できたら聞かせてくれますか?」

「良介に聴かせてあげなよ。」

「いいのが出来たらね。」

小春は余計なことを言う。私は良介君のことを曲にしているので恥ずかしくて聴かせるつもりはなかったので適当に返事をしておく。

それにしても小春と良介君が名前呼びしているのが気になる。

私は良介君から名字でしか呼ばれたことがない。私も二人でいるときは良介君なのに、他の人がいるときは富士君といっている。

こんなことを考えるのも初めてだ。


そして、別の日に四人での下校中に小春が言ってくる。

「曲が来たんだって。」

そう。出来上がって、パパのライブハウスで練習をしている。

小春に少しだけ聴いてもらったことがあるが、「ふぅん」とのことで何も言わない。

でもパパがいい曲だと言って、今度、ライブハウスのパパのバンドで一曲だけ歌うことになっていた。

聞かせるつもりはなかったけれど、聴いてもらいた気持ちもあり、つい、ライブのことを言ってしまった。

「今度、パパのライブハウスでパパのバンドにゲスト出演するの。」

「じゃぁ。行きます。健人と小春先輩はどうします。」

「良介だけで行ってきな。」

「えぇ。わかったわ。じゃあ再来週の土曜日にライブがあるから富士君を招待するわ。」

小春は来ないらしい。比叡君も来ない。ほっとして良介君だけを招待することにした。

今までも曲をつくったことはあるけど、人に聴いてほしいと思ったことはない。パパの影響で何となく作ろうと思って作ったことはあるが、こんなに悩んで作ったことはない。

初めて人に聞いてもらいたいと思った曲だ。ライブまでがんばって練習をしよう。


ライブ当日、昼過ぎに、ちょっと早いけど良介君といっしょにライブハウスまで来た。

私はリハーサルがあるので先にライブハウスに入っている。

良介君には本番までは聴かないように言って近くのファストフード店で時間をつぶしてもらっている。

やはり、緊張してきた。パパのバンドだけど私の初めて出演するライブだ。

六時半開演になると良介君が来て、舞台左手カウンター席にいる。

私は開演前にホールに出て良介君と少し話をする。

「すごいですね。僕、こういうところ初めてです。」

「今日はパパたちのライブだけど、高校生のバンドとかもよくライブしてるわよ。」

「そうなんですか。」

「今日は楽しんで行ってね。じゃあ、曲が終わったらまた来るから。」

ライブが始まって、5曲目が終わった後にゲストとして私が紹介された。

みなさんに挨拶して、曲名を言い演奏を始める。

「ライブがはねたら」

♪♪♪(Nokkoさんの「ライブがはねたら」を聞いてほしい)

♪♪♪

♪♪♪

(私はカウンターの良介君を見つめた。良介君もこちらを見ている)

♪♪♪


曲が終わって良介君のところに行った。

「どうだった?」

「かっこよかったです。」

まだ、ライブが続いていて音が大きいのでライブハウスを出ることにした。

「出ようか。」


ライブハウスを出て大通りに向けて路地を二人で歩く。

「歌詞はどうだった?」

「素敵でした。」

「そう言うんじゃなくて。良介君に向けた内容だったんだけど。」

私は恥ずかしかったけど言ってみた。

「えっ?「誰よりも好きよ」って?」

そう。私は初めて良介君を見た時から傾いていた。そして好きになっていた。

「えぇ。あなたが一番 誰よりも好きよ。」

「・・・」

「ねえ。どうかな。」

「どうって?」

「だから、良介君は?」

「はい。」

「「はい。」ってどういうこと?」

「好きです。桐山先輩が好きです。付き合ったください。」

「私も大好きよ。」

「・・・」

路地の影で初めてのキスをした。



僕は生まれて初めてのキスをした。

その後は二人で電車に乗っていっしょに帰った。電車の中で桐山先輩から言われた。

ごちそうを作ってくれるらしい。いまは桐山先輩の家に居る。


桐山先輩はキッチンで料理の最中だ。僕はリビングでテレビを見ているが何も頭に入ってこない。

「これで正式に恋人通しね。」

桐山先輩が話してくる。

「そうですね。でも、学校でみんなに知れたらどうなるか不安なんですが?」

桐山先輩は何か考えている。前の噂のときは大騒ぎだった。本当に彼氏が出来たらどうなるのか想像もつかないが、桐山先輩も考えているのだろう。

「ふっふっ。じゃあ。バレたらバレた時だし、このままにしておきましょ。楽しみね。」

桐山先輩は楽しそうだ。

「それとこれからは名字ではなく名前で呼んで!」

「はい」

「はい。じゃなくて名前で呼んで」

「はい。奈緒先輩」

「先輩じゃなくて!」

「でも、さすがに呼び捨ては!」

「二人のときだけでいいから!」

「奈緒」

奈緒先輩はなんだか満足した顔でほんとうに楽しそうだ。

これからどうなるのだろ僕の、僕たちの学校生活・・・


おわり

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