土曜の丑の日は「う」のつくものを食べよう! ~あるTS少女と付き合うお話~
TSしてしまう人がある程度いる世界で、俺は親友だった元少年と……。
そんな少し甘い、ちょっといちゃいちゃしているようなお話。
「土曜の丑の日だな」
コンビニのドアに貼ってあるチラシを見て、ふと呟く。
「ということは、今日はうなぎ?」
一緒に歩いている清楚なお嬢様純白ワンピース姿の連れ……月見里宇月が、可愛らしく首をかしげながら聞いてくる。
「えぇ~ うなぎは高いからなぁ。それに、そもそも『う』が付くものだったらなんでも良いらしいぞ」
「じゃあ、うどん?」
こてんと首をかしげ、可愛らしい声で聞いてくる姿にどきっとするが、そんな気持ちを悟らせないようにそっと視線を外し、帰ってからのお楽しみだ、とぶっきらぼうに返事をして歩き出す。
「えー、けちー」
なんて声を置き去りにしつつ、アパートへと向かうのだった。
突然だが、俺、柊健人の連れ……月見里宇月は元男である。とは言っても別に手術したわけではない。高校3年の春、1万人に1人かかるという突然性別が変わってしまう病……TS病にかかってしまい、黒髪で130センチくらいの低身長。小顔にまん丸お目目、小ぶりな胸にほっそりした腰、しかしおしりはふっくら。どこからみても美少女といえるようになってしまった。
最初のTS病患者が確認されてからはや50年、社会認知度や法整備などが進んでいるとはいえ、突然男の子が女の子になったりしたら、いろいろ話題になったり問題が起こったりする。
それは宇月とて例外では無く、仲の良かった奴が離れたり、こそこそ裏で噂話をされていたりした。
そんな中、高校に入ったときからの親友であった俺は、男だったときと同じように接していた。性別が変わろうが宇月は宇月だから、と。
その態度を宇月は感謝してくれた。周りの奴が離れて行く中、せっかくなら知り合いの居ないところに行こう、とそのまま2人で猛勉強。今は都会の大学に進学し、それぞれ1人暮らしを行っている。
1人暮らしとはいえ、高校からの親友で見知った中。
男だった時のように接してるなかで、宇月はときどき俺の家で泊まるようにもなった。
最初に泊まりに来たのは大学一年の梅雨の時期だったか。女が男の家に泊まるってどうなの、襲われても知らないよ、なんて聞いたときには、俺とおまえは親友だし、間違いなんてあるわけないだろ、なんて笑い飛ばされたものだ。なら早速、と一緒にお風呂に入ろうとしたら蹴り飛ばされたけど。親友だからと言って裸は見てはいけないものらしい。
それぞれお風呂に入った後は、布団を並べ、大学生活のことやクラスメートのことをだらだらだべりながら夜更かし。最初は月一回とかだったが、どんどん回数が増え、一年たった今では週一で俺の家に泊まりに来るようになっている。
いくら男だった時のように接するように努めているとはいえ、正直風呂上がりの妖艶さにはほとほと困っている。それも特に最近は風呂上がりにこちらを試すような感じで見てくるものだから、心臓……というか股間に悪い。
次の日を宇月と一緒に何事もないように過ごすのは辛いくらいだし、夕方に宇月が帰った後、一人で処理しているくらいだ。
男同士の親友であろうと意識すればするほど女の子の部分を思い出してしまう。どうしようかと悩む今日この頃である。
そんな過去の話はさておき、二人で俺のアパートに帰ってきたわけだが。
「ねぇねぇ、何にするの?」
玄関に入るなりこの一声。
俺は自慢では無いが、母の手伝いもしていたのでそれなりに料理はできると自負している。宇月は料理が苦手なようで、いつも俺にたかっている。泊まりに来るのもそれが目的なのでは、と思うくらいだ。いちど作ってみろよ、なんて言ってみたこともあるが、本気で嫌そうな顔をしたのでそれ以来勧めてはいない。
「うーん、そうだな。暑かったし、そうめんにするか」
「えー、『う』なんて付いてないじゃん。うのつくもの食べるんじゃないの?」
そう残念がる宇月に対し。
「俺はそのつもりだったがな」
とそっけなく言う。そう、今日は土曜の丑の日。「う」のつくものを食べる日だ。だからこそ今日、宇月に伝えたいことがある。
「えー、独り占めするつもり?」
「まあ、そうだな」
もちろん独り占めしたい。宇月さえ許してくれるなら。
「ずるいよー。何を食べるのさ」
甘え声で言ってくる宇月。おねだりして分けて貰おうとしている声だ。でも分けてあげることはできない。
「俺はお前…宇月を食べたい」
その瞬間、空気が凍った感じがした。
まあ当然だよね。俺も馬鹿なことを言っているとは思う。ただ、これまで男として付き合っていた以上、そして宇月がそれを喜んでくれていた以上、いまさら女として好きだ、なんていえるわけが無い。
だからこそ冗談として流すこともできるよう、今日という日を選んだわけだ。
「は、はあ!? 何バカなこと言ってんの!? そもそもオレ男だし!」
十数秒の無音の後、再起を果たした宇月が真っ赤な顔で怒鳴りかけてくる。身長差で上目遣いになっていて、その怒り方は、恐いと言うより可愛い。
「元、だろ。今はこんなに可愛い女の子じゃねぇか」
そう返事をしてやると、宇月は そりゃそうだけどさぁ、と頭を抱え、小声で呟いている。
待つこと数十秒。
「うう~ じゃあ、はい」
「なんだ? 急に腕なんか出して」
右へそっぽを向きながら、右腕を突き出してくる宇月。なんのつもりなんだろうか。
「だ、だってお昼に汗舐めたいとか変態なこと言ってたじゃないか! そういうことだろ!?」
「え、まじ? いや、思ってたけどさ…… まさかエスパー!?」
「言ってないつもりだったのかもしれないけど、いつも声が漏れてるよ! いつも変態なこと言ってくるから、俺を恥ずかしがらせようと言っているんだと思ってたよ!」
そっぽを向いたまま、真っ赤な顔で怒鳴ってくる宇月。
まじか。どんなことを言ってしまっているのだろうか。確認してみたいところだが、いつも思っている内容がないようなだけに確認するのが恐い。それはさておこう、うん。それはさておき。
「男が女に対して食べるって言ったら1つしかないだろ。性的な意味でってやつだ」
「へ、変態! やっぱりオレをそんな目で見てたんだな!」
こっちを向き直り、わめいてくる宇月。なんとなく怒りでは無い感情も含まれているような気もするけれど、なになのかまではわからない。
宇月も怒っているわけだし、ここまで言ってしまったら元の関係へと修復することは不可能だろう。ならば、せっかくの機会だから思っていたことをすべてはき出してしまおう! と宇月に勢いよく言葉を放り投げる。
「ああそうさ! だけど親友だからとお前が好きだって気持ちも押し隠して我慢してたんだ! それなのに、お前はスカートがめくれてパンツ見えてても気にしないし、胸元が開いてる服で覗きこんでくるから谷間はみえるしで、もう限界なんだよ!」
「オレのことが……好き?」
「ああ、好きなんだよ! このままだと襲ってしまうから、その前になんとかしたかったんだ。受け入れる受け入れないはお前の自由だから!」
言ってやった。思いをすべて。すっきりした。あとは野となれ山となれ、だ。
と一息つけて、宇月の方を見ると、ぼうぜんとした表情でこちらを見つめている。さすがに言い過ぎたか。
「すまんかった。いきなり変なこと言った」
謝罪の言葉とともに頭を下げる。今更ながら恥ずかしいことを言った気がする。襲ってしまう? 受け入れる受け入れないはお前の自由? 馬鹿じゃないの。そんなの言われても宇月が困るだけじゃないか。
宇月と一緒に居ることが恥ずかしくなり、Uターンして玄関から出ようとする。
飛び出そうとした瞬間。シャツの裾を引っ張られる。
「オレのこと、好き……なんだよね?」
先ほどとは一転、少し震えた宇月の声。
「ああそうさ」
「女の子として?」
「そうだよ! 親友だから男友達でいてやろう、とずっと思っていたけど、もう無理なんだよ! 嫌ってくれてもかまわないから! しばらく放っておいてくれ!」
大声で怒鳴る。と。
「よかった」
ほっとしたような声。
「え?」
驚いて振り向くと、そこにははにかんだ表情の宇月が。
「オレ、おまえのことずっと好きだったんだ。でも、俺みたいな元男じゃだめかなと思って我慢してた」
そんな風に思われてたなんて。
「いつから?」
「高三の冬かな。一緒に勉強していて、なんだか些細な仕草にドキドキして。でも元男にこんなの思われるのイヤかなって我慢してた。でも離れたくないからと頑張って一緒の大学に入って。そして大学に入ったら周りに可愛い女の子がたくさんいた。おまえが女の子と話してニヤニヤしてるの見て、盗られたくないって思って。だからお泊まりして気を引こうとしたけど、おまえは全然反応してくれなくてオレには魅力が無いのかと落ち込んでて。でも、ちゃんと反応してくれてたんだな、って知って嬉しかった」
そっか、あれは俺の気を引こうとわざとやっていたのか。でも俺はそんな気持ちに気づかず平静を装っていたわけで。
「親友だから男友達でいてくれるってのは、気持ちはありがたいんだけど、でも、今オレはおまえの男友達じゃ無くて、か、彼女になりたくて。だめ……かな?」
「健人だ」
「えっ?」
「おまえじゃ無くて、健人って呼んでくれ」
「じゃあ、早速…… 健人。ってなんだか恥ずかしいね」
はにかみながらそういう宇月は可愛くて。その姿に俺は自然とひざまづき、宇月の左手を取り、
「宇月、俺と付き合ってくれ」
手放したくない。一緒にいたい。親友としてでは無く、彼氏彼女として。そんな気持ちを込めて交際を申し込む。
「うん、いいよ。これからよろしくお願い、健人」
受け入れてくれた宇月がいとおしくて、立ち上がってぎゅっと抱きつく。このバクバクしている心音は、俺のものなのか宇月のものなのか、はたまた両方ともなのか……
抱きついたついでに、ワンピースの裾を持ち上げ、おしりをさわり……
と一撫でした瞬間に、その手は宇月の手でぱしっとはたかれる。
「バカ! いきなりはないだろ! 抱きつくのはまだしも、そういうのはムードを盛り上げてからだろ!?」
いままで良い感じだったのに、これだから男は……なんて文句を言う宇月。
「あ、ああ。すまない。しかし……」
「なにさ?」
ジト目でにらんでくる宇月に気圧されつつも指摘してやる。
「なんというか見かけによらず、エッチなの穿いてるな」
持ち上げたときに見えたパンツは黒のレースで、誘っているような妖艶さがあって……
「いや、ちがっ! これはもしかしたらこういう時も来るかな~って、いや、男ならそういうの期待してるかもって思って、別にお前に襲って欲しいから穿いてきたわけじゃなくて! えっと、その……」
最初は慌てて否定していた宇月だが、だんだん声が小さくなり。
「なんというか、はしたない女でごめんね?」
少し涙目でそんなことをささやかれて。これで止めておける男はいるだろうか、いやいない!
「あ、ちょっ! お姫さまだっこは嬉しいけど、でも心の準備がまだ。あ、おっきい…… オレを見て興奮してくれてるんだ…… ってそうじゃなくて! いや、イヤとかじゃ無いんだけど、でももうちょっとシチュエーションが……」
そんな態度でオレを止められるはずが無く。むしろそんなささやきに思いを加速させられ、二人で熱い夜を過ごしましたとさ。
卵とベーコンの良い匂いで目が覚める。ごろんと横を見ると、愛した人の姿は無い。つまり、この良い香りを作り出しているのは宇月なのだろう。
そっとキッチンを覗くと、そこにはエプロン姿の宇月がいた。
「なんだ、裸エプロンでは無いのか」
思わず呟いてしまった声が聞こえたのか、宇月がこちらを振り向く。
「あ、おはよう! 裸エプロンなんてしたら、朝から襲われちゃうじゃない。それは今度ね。ってちょっとだめ! いまご飯作っているから!」
今度ね、なんて言われたからおもわず抱きついてしまい、宇月に怒られてしまった。仕方ないのでおとなしく布団をたたみ、テーブルといすを部屋の真ん中に戻し、宇月が料理しているのを眺める。
しかし、なんだかがに股だなーなんて思って眺めていると、がに股なのは健人のせいだよ! という厳しいお言葉が。また考えが漏れていたか。というか
「俺のせいってなんだよ」
「昨日のことをもう忘れたの!? あんなに激しく求めてきたのに!?」
「いや、それはおぼえてるけどさあ」
「じゃあわかるでしょ! まだなんか入ってるみたいで違和感強いの! だから仕方ないの! わかったら黙って待ってて!」
そんなことを強い口調で言われたら黙って待つしか無い。そんなことになっているのは俺のせいらしいし。
仕方が無いのでいすに座っておとなしく待つことにした。
数分後、できたよーと宇月が持ってきたのは、こげ茶に焦げた食パンと、カリカリになったベーコン、そして黄身と白身が微妙に混ざっていないスクランブルエッグ。
「ほんとは目玉焼きにしようとしたんだけれど、うまく卵が割れなくて……」
そうしょんぼりする宇月の頭を撫でてやり、これから頑張っていけば良いさ、と慰めてやると、笑顔が花咲く。そしてその笑顔を見てこちらも笑顔になる。
「あー これから宇月の手料理が毎日食べられるなんて、俺は贅沢者だなー」
緩む顔でそう伝えると、宇月は真っ赤になって、
「ま、毎日!? でももう恋人だし、毎晩泊まれば…… って毎晩やるなんて体が持たないからダメだよ健人!」
ギャーギャー言ってくる宇月も可愛い。これが惚れた弱みというやつか。
これからもこんな幸せな生活が続くのだろうなと考えると、知らずに笑みがこぼれていたようで、笑ってごまかそうなってダメなんだからね! と怒られた。
はいはいと生返事して頭を撫でると、むう、と文句を言いつつもおとなしくなってくれたようだ。
「俺と付き合ってくれてありがとな。これから思い出をたくさん作っていこうぜ!」
それに対する返事は、うん、という返事と、まるでひまわりのような満面の笑みで。
土曜の丑の日だからと始まった物語は、丑の日以外にも「う」のつくものを食べるようになり。でもそれは幸せなことで。
この幸せがずっと続きますように。俺は神様に願うのだった。
「う」のつくものということで、筆者はうどんを食べたわけですよ。
でも他にもあるのではないか、と考えたわけですよ。
そこで、ツイッターで
『「土曜の丑の日だな」
「そうだな、今日はうなぎか?」
「『う』が付くものだったらなんでも良いらしいぞ」
「じゃあ、うどん?」
「いや、お前…宇月を食べる。性的な意味で」
「は、はあ!? オレ男だし!」
「元、な。今はこんなに可愛い女の子じゃねぇか!」
で食べられちゃうTSっ娘ください』
って呟いたんですけれど、読みたかったから自分で書きました。