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第八話:スキルのことを考える

 腹が満たされたキュー太郎が、ごろりと横になる。


 げふっ、とか、ぐえっ、とか、いかにも食べ過ぎた感のある声が漏れ聞こえる。行儀が悪い。皇帝鳥というからには、もう少し品性を求めたい。キュー太郎の主人として、俺に監督責任が発生するのだろうか。うん、無理。あの食欲を抑えるには、相当強力な魔法が必要だ。


「そういえば、ハリー坊やの鑑定結果に【火魔法】と【水魔法】があったね。で、どれくらい使えるんだい?」


 ウサギ女のメイジー・ギャルが、さらっと聞いてくる。

 魔法のスキルは、俺も気になっていたことだ。むしろ俺が尋ねたい。

 元の世界では、俺は普通の高校三年生だった。

 決して、魔法使いなんかではない。


「いや、それが、どうすれば魔法を発動できるかも分かりません」

「そうか。【剣術】スキルがあるのに短剣すら触った覚えがないって言ってたし、坊やの記憶は、ずいぶんと混乱しているようだな」


 嫌味を言っているのではなく、メイジーは純粋に心配してくれているのだと感じた。

 実際、説明しようにも、なぜ、俺自身が魔法のスキル持ちなのかを理解できない。考えられるとすれば、ホンモノのハリー少年が魔法スキルの獲得者だったことだろう。



 鑑定石によれば、俺のスキルはこうだった。


『剣術(初級) 護身(初級) 回避(初級) 急所看破(初級)

 火魔法(初級) 水魔法(初級) 火耐性(初級) 水耐性(初級) 

 麻痺耐性(初級) 恐慌耐性(初級) 状態異常耐性(初級)

 言語(初級) 調理(初級) 交渉(初級) 算術(初級) 水泳(初級) 

 器用(初級) 細工(初級) 精密(初級) 魅了(初級)

 ??? ??? ??? ??? ??? ??? *?& +¥$』


 スキルはすべて初級だが数が多い。しかも、未鑑定のものもある。


 このうち、【算術】と【水泳】はアニキの影響だ。間違いない。相当鍛えられたが、不思議と嫌ではなかった。教え方が上手かったのだろう。

 アニキからは他にも多くの影響を受けたと思うが、スキルリストの中から間違いなく「これだ!」と言い切れるものは他には思いつかない。もしかしたら、未鑑定のスキルのなかにはあるかもしれない。


 【器用】【細工】【精密】のスキル獲得には、二番目の兄、現役自衛官のタンク兄が関わっているはず。

 タンク兄は、とにかく手先が器用だ。孤児院の修繕から家電の修理まで、なんでもこなした。孤児院の子どもたちが乱暴に扱って壊したおもちゃも黙々と直してくれた。

 そんなタンク兄のことを「渋くてカッコいい!」と思った俺は、幼いころから、よく真似をしていた。俺がいじったことで、余計に壊れてしまったおもちゃもあったけど、その度にタンク兄が代わりに直してくれた。

 タンク兄は、どうすればいいのか尋ねれば丁寧に教えてくれたが、尋ねなければいつまでも見守ってくれるという、後進を育成する職人の親方のような性格だった。そんなタンク兄のおかげで、俺は夏休みの自由工作では毎年表彰されたし、自転車のパンク修理からマニアックなスペックのジャンクなパソコンを自作できるまでになった。


 【剣術】【護身】【回避】【急所看破】のスキルは容易に理解できる。三番目の兄、剣道が得意なコジロー兄の影響だ。

 コジロー兄が警察の独身寮に入居するまで、俺はよく練習につきあった。練習試合では、俺は真剣に向きあった。勝負するからには勝ちたかった。が、コジロー兄は全国大会の常連。結局、一回も勝てなかったが。

 とはいえ、その経験が戦闘系のスキル獲得につながったのは間違いない。


 【言語】【調理】は、俺が大好きな姉、あおいちゃんのおかげだ。

 物心ついたころから、いつも一緒だったあおいちゃん。優しくて、いつもにこにこしていて、耳が不自由なあおいちゃん。幼いころから、俺はあおいちゃんと話がしたかった。あおいちゃんに言葉を伝えたくて、一生懸命に字を覚えた。あおいちゃんの笑顔を見たくて、手話を覚えた。

 そして、あおいちゃんと一緒にいたくて、料理好きなあおいちゃんのいるキッチンに入り浸った。いっぱしの助手気取りで、ニンジンやじゃがいもの皮をいたり、鶏肉をカラアゲ粉にまぶしたりした。

 【言語】スキル、すなわち手言葉は、エルフの少女ミュウレイと話すのに役立っている。

 【調理】スキルも、きっと役に立つ日が来るだろう。


 【麻痺耐性】【恐慌耐性】【状態異常耐性】は、言うまでもなく、二番目の姉、残姉ざんねえキマリのせいだろう。

 幼いころ、キマリは俺を引き連れて冒険ごっこをするのが好きだった。海を見たいと言って、ひたすら川をゴムボートで下った。天の川を見たいと言って、夜に隣町の小高い山を登った。宝探しと言って、神社の裏の洞穴(立入禁止の防空壕跡)に潜った。全部、俺が小学生になる前の話だ。無茶苦茶だ。

 野山になっている果実を食べて腹を壊したり、真っ暗い夜道で号泣したり、豪雨に打たれて高熱を出したりと、あらゆる経験をした。

 未鑑定のスキルにも、他の耐性スキルがあるに違いない。


 【火魔法】【水魔法】【火耐性】【水耐性】の魔法系スキルは、ホンモノのハリー少年のものだろう。幼いながらも魔法使いだったのか、恐れ入る。スキルがあるということは、訓練次第で俺も魔法を使えるようになるということか。ちょっと楽しみだ。


 【交渉】と【魅了】は誰の影響だろうか?

 ハリー少年? アニキ? もしかして俺自身?

 いやいや、自惚うぬぼれてはいけない。でも、皇帝鳥のキュー太郎は俺の従者になったし、ウサギ女のメイジー・ギャルやエルフのミュウレイも俺に好意的だ。まあ、誰の影響であっても、りどころはあまり関係ない。

 重要なのは、いまの俺が【交渉】と【魅了】のスキル獲得者であることだ。




「そろそろ寝るか。てか、キュー太郎はもう寝てるじゃないか!」


 メイジー・ギャルが就寝の刻を告げる。

 キュー太郎は、羽根を広げて大の字になり、フガフガ言いながら熟睡している。よだれまで垂らして、幸せそうな寝顔。皇帝鳥の末裔がなんたるかは、もはや議論する必要はないだろう。


 しかし、鳥って横になって寝るものだろうか?

 元の世界の常識にとらわれてはいけないと、強く自分に言い聞かせる。


 ミュウレイが俺を手招きする。

 そばに寄ると、ミュウレイは大きなブランケットで一緒にくるまり、そのまま横向きになる。


「女の子と一緒なんて恥ずかしいよ」


 俺は、メイジー・ギャルに訴えた。

 ミュウレイと一緒なのは嫌じゃない。嫌じゃないけど、できればひとりで寝たい。


「おやまあ、一丁前(いっちょまえ)に男の子だねえ。でも予備のブランケットはないのさ。アタシが一緒に寝てあげてもいいけど、アタシは寝相が悪いから、朝を迎える前に坊やはペシャンコに潰れちまうよ。どっちがいい?」

「……ミュウレイと一緒でいいです」

「素直で聞き分けの良い子だね。じゃあ、おやすみ」


 ミュウレイを見ると、もう寝息を立てていた。

 両手でぎゅっと俺を抱きしめ、幸せそうな寝顔をしていた。


 抱き枕のような状態は、俺的には満更ではない。

 が、なぜか、あおいちゃんの顔が思い出されて仕方がなかった。



 明日はプーアの村に向かう。

 しばらくの間は、村にあるメイジー・ギャルの孤児院にお世話になるつもりだ。

 元の世界同様、異世界でも孤児院にやっかいになろうとは、世の中、不思議な縁があるものだと思った。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

ウトウトしてるときに浮かんだアイデアをメモしようとしたら、すっかり忘れてしまいました。ついでに眠気も飛びました。このやるせなさを、どこにぶつければいいのか……

もし、誤字脱字を見つけられた場合、ご報告頂けると助かります。



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