メタモルフォーゼが止まらない
夕食にでかけるようと提案があったので、僕は彼女の支度ができるまでスマホを眺めていた。
「何見てるの?」
「この前、久々に中学の友達と集まったときの写真を見ていたんだ」
「そういえば同窓会があるとか言ってたわね」
「そうそう。そこで、なんだかアプリを使い始めてさ」
「アプリ……スマホで使えるやつね」
「それで、こんな写真ができるらしいんだ」
僕はSNSに載せられた画像を彼女に見せた。
「ふーん」
これは始まるなと、僕は思った。
「何だか、この人とこの人の顔のパーツが歪に見えるのは私の目がおかしいからかしら?」
「いや、その目は正しいよ。顔が入れ替わっている」
「そんなことをして何がいいの?」
「きっと、その違和感を楽しむんじゃないか?」
「あなたも交換したの?」
「いや、断った」
「そう」
彼女はそのまま話を続けた。
「それに、どうしてキャラクターのような髭を書いたり、意味も無いところに光を当てているのかしら」
「うーん」
「特にこの髭、どっかの青くて丸いあいつみたいね。それに、動物の耳みたいなものとかもついているし。これの何がいいのかしら」
「うーん」
「さっきから唸ってばかりね」
僕もそれには気づいていた。
「このことに関しては、さらに私は言いたいことがある!」
「聞きましょう」
「自分の顔の原型がなくなるまでにどうして加工するのかしら」
「それはプリクラも含めて?」
「そう! しかも聞いたところによると、それが標準装備なんでしょ!」
僕は深く頷いた。
「そうだよな。あったとしてもオプションであるべきだよな」
「画面の中は理想の、上級の自分でいて。それを見てカワイイと言い合って」
彼女の熱量が上がっていく。僕が口を挟んではいけない。
「それでそこに新しく飾り物をつけて喜ぶ。それを堂々と自分だと言い張ってSNSに投稿」
彼女はそこで息継ぎをした。
「どうして、生まれたままのその姿でいられないの!」
「まあな」
「これはある意味詐欺よ! どうしてそんなに自分を愛せないのかしら! 他人を騙す前に自分を受け止めるべきよ!」
彼女はそう言い残して背中を向けた。
「このエクレアにしようかな」
「じゃあ、私はプリンにする」
夕食を終え、コンビニに立ち寄ってスイーツを選んでいるときだった。
スイーツを選ぶ彼女の横顔をふと見た。
まあ、こんな人だったら加工する必要も無いのかなと思った。
「ねえ、なんで顔が赤いの?」
どうやら僕の顔が加工されていたようだ。
読んでいただき、ありがとうございました。