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光希と楓はフリーランスの模様です  作者: タチマチP
エピソード第1巻 -私の運命が225度変わる物語-
38/45

第35話:深夜の会社では

 四月二十七日 午前一時半


 ライフプログラムワークスには、現在、人が残っていない。

 一時間に一階の頻度ひんどで、警備員が巡回する程度。

 明かりも全て消灯となっており、唯一の明かりは光希と楓がいる会議室Aだけだ。

 そんな会議室の中では――


「…………」

「じー……カキカキ」

「…………」

「じー…………カキカキ」


 楓が、光希の仕事ぶりを監視するように、正面に座っていた。

 光希はノートパソコンで菊池に依頼されたシナリオを執筆しており、楓の視線に脂汗をかきながらも、せっせせっせと入力を進めている。


「……ねえ、楓さん?」

「……なに、光希くん?」


 作業をし続けている光希が、楓に声をかける。


「その……ずっと監視しているのって、疲れない?」

「ううん、疲れない。監視もしているけど、絵の練習もあわせてやっているから、退屈じゃないし」


 そう言う楓のテーブルには業務用のノートパソコンが置かれており、楓はペンタブを繋ぎ、絵の練習をしている。

 絵を書きつつも、光希の体勢がだらけてきていそうだと判断したら、パッと視線を光希に向けて、真面目に仕事をしていることを確認すると、また視線をパソコンに戻すという方法だ。


「さすがにこの時間だと、もう寝る時間だから、眠かったら仮眠室に行ったらどうだ?」

「ううん大丈夫。私、絵を描いている時は、朝まで作業してて苦じゃないから」


 光希の言葉に対し、楓はパソコンに視線を向けたまま言う。


「明日……というか、今日の仕事はどうするんだ? 寝なきゃ仕事にならんだろ?」

「それは大丈夫。菊池さんに、十四時から六時間だけ働くって言っておいたから」

「そりゃまあ……ずいぶんとフリーランス慣れしたもので……」


 光希は肩を竦めて言う。

 そんな集中している楓に対し、光希は――


「一応さ、俺の面倒くさがり屋のせいで、楓を残してしまったことには責任を強く感じているから、今回は菊池さんに納得してもらえるように頑張るつもりだよ――だから、そんなに無理をしなくても……」


 と、楓を心配するように言う。


「ううん、いいの。私が勝手に決めたことだし、それに――」

「それに――?」


 楓が光希の表情を見て、


「人気がない環境で、仕事をするっていうことに、すごく今興奮しているからっ!」


 と、両手を振りながら光希に言う。


「そりゃ……お楽しみなら、ようござんした」

「うん、楽しんでいるよ。だから、光希くんは気にしないで!」


 心配する光希の予想とは相反し、楓は徹夜という行為自体を楽しんでいることを知ると、光希は気が抜けた様子で「はぁ……」と返事をした。


「まあ……俺も最初の頃は、ゲーム会社で徹夜するっていう行為に興奮したのを覚えているよ」

「えっ……そうなの!? 光希くんも、やっぱり楽しかったんだ!?」


 楓はテーブルの上を前のめりに乗り出して、光希に訊く。


「そりゃあ……自分が作った作品が出るんだぜ。夜に一人で作業するシチュエーションなんて来りゃあ、印象に残るさ」


 光希は思い返して言う。


「ちなみに今は、どんな気持ち?」

「今……? 今は、昔ほどじゃないよ。テンションによっては夜中に働いてもいいかなっていう、寝る以外の選択肢も増えたってくらい」

「ふーん、寝る以外かぁ……」


 時間の価値観の違いだろうか、と楓は思う。


 その後は、二人は三十分程沈黙をして、光希はキーボードをカチャカチャと、楓は静かにペンタブを操作して、各々の作業に没頭した。

 そして――


「んん〜、はぁ……! もう二時かぁ……! どうりで眠くなるわけだよね〜!」


 楓は時計を見て、短い針が二の位置を差していることを確認すると、両腕をぐぃ〜っと伸ばし、肩のコリをほぐす。

 と同時に、ふわぁ〜と大きなあくびをつくと、出てきた涙を両手で拭う。


「楓、眠いならさっさと寝たらどうだ? 無理な夜更かしは体に毒だぞ」

「うーん……確かに眠たいけど、もう少しだけ頑張りたいなぁ……」


 光希の言葉に、ぼんやりとした反応で返す楓。

 すると、光希が席を突然立ち上がり、


「よし、コーヒーでも淹れるか……」


 と言い、寝ぼけた楓の右腕を引っ張る。


「んー……何ぃ?」

「座っているから眠くなるんだよ。部屋の外に出て、身体を伸ばしたらどうだ?」


 光希は言うと、よたよた歩きの楓の腕を引っ張りながら会議室の外へと連れ出す。

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