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光希と楓はフリーランスの模様です  作者: タチマチP
エピソード第1巻 -私の運命が225度変わる物語-
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第27話:オフィスの入口が凄かった

 十一時三十分 ライファンド・ロンティアビル


 光希と別れた楓と菊池は、喫茶店を出た後に、そのまま向かいに建っているビルへと入っていく。

 そのビルの五階から九階までのフロアがライフプログラムワークスのオフィスとなっており、今回は菊池のプロジェクトが入っている八階へと二人はエレベーターで移動をしている。


「わぁ……エレベーターが透けて、外の景色がよく見えますねぇ……」

「そうやろ? デスクワーカーにとっては、出勤前の数少ない外の景色やから、好きな人は好きって言うな」


 二人が乗るエレベーターは、壁から天井、床まで全て透明というデザインで出来ており、東京の外の景色を一部できる仕様で出来ている。

 下を除くと、道路を走る車が小さく見えて、天気の良い日に目をよく凝らせば東京タワーが見えるということが売りだと菊池は言う。


「でも、このエレベーターって好きな人は好きでしょうけど……」

「……ああ、高所恐怖症という呪いを抱えているやつにとっては絶望以外の何物でもないやろうなぁ……」

「確かに……高いところが怖くない私でも、透明エレベーター独特の上がる際のふわっとする感覚は苦手なので、ダメな人は、本当に乗れないんでしょうね」


 楓は透ける床を通して見える、はるか下の一階の床を見て言う。


「高いところがダメな人用に普通の階段もあるけど、このビルの最上階は十四階だから、そこのオフィスで高所恐怖症の人がいたら――」

「いたら――?」

「筋肉めっちゃごっつうなってそうやなって思って――」

「ぶっ……!」


 楓は、菊池の言う『足だけめっちゃムキムキマン』のボディを想像して、思わず吹き出して笑ってしまう。


「で、でも……それもある意味デスクワーカーにとっての数少ない運動要素ですから、あながち全てが不幸とも言えないですよね」

「そういやそうやな。嬉しいかどうかは別としてな」


 菊池も楓につられて、小さく鼻で笑う。


 チン……


「お、ついた。んじゃあ行こうか?」

「はい」


 エレベーターが八階に到着する。

 扉から出た先には、会社のロゴが書かれた壁があり、ここがライフプログラムワークスであることを確認することが出来る。


「わぁ、随分とおしゃれな入り口ですねー」

「うちの社長がデザインをプロデュースしたんや。さすが、元デザイナー出身なだけあって、センスは抜群やろ?」

「はい、素敵ですね」

 

 楓が感動するライフプログラムワークスの入り口は、デザイン性溢れる世界で作られていた。


 壁は全てレンガ調の壁紙が貼られており、その上から人口の植物がツタを這うように張り巡らされており、カントリー調の古本屋をイメージするような雰囲気を出している。

 床は明るい色をした木材を使用しており、歩く度に自然の木の香りを楽しむことが出来る。

 天井からはライトが吊るされており、その周りには花びらのデザインをしたカバーが付けられており、周りを明るく照らしている。

 お客様が座る椅子や机はモダン調を意識した本皮ソファと透明なテーブルが置かれている。

 正面の扉がある壁は全て透明で、奥の窓から溢れんばかりの光が注ぎ込まれ、入り口という空間を明るく照らす。

 更に、ライフプログラムワークスのメインマスコットキャラクターである『タラット君』の等身大の動くぬいぐるみが置かれており、お客様が通る度に「よく来たな! ゆっくりしていけよ!」と低音ボイスで有名な男性声優さんのボイスが流れ、来客をユーモアに迎え入れる。


 そんな、普通の会社では見ることが出来ないような、特別な空間を見た楓は、思わず息を呑んで感動をしたのだ。


「私が今まで働いていた会社の入り口なんて、もはや壁と扉しかありませんでしたので、こんなに素敵な空間に感動しています」

「ははっ……壁と扉だけって……刑務所みたいな言い方やな」


 感動する楓から出る言葉に、思わず吹き出して笑う菊池。


「ちょっと味が濃い感じがするけど、初めての来客の人だと同じリアクションで感動してくれるから、見せる側としてはいつも反応が楽しみなんや」

「確かに……初めてですと、感動しますね」


 楓は目を輝かせながら言う。


「ちなみに、他のフロアについても、また別のコンセプトで入り口のデザインをしているんや。見てみたい?」

「み、見たいです……! ぜひっ!」

「ははっ……! 期待通りの返事や――また時間があるときにでも見に行ってええよ」

「ありがとうございます、菊地さん」


 菊地は「ええって」と一言言いながら、首にかけていたICカードを認証機に当てて扉を解錠する。

 

 ガチャリ……


「そんじゃ、入って。ここがあたしの仕切っている現場だよ」

「わぁ〜! すごいですねぇ〜!」


 菊地に案内されて連れてこられた楓は、扉の中の景色をみて、また驚愕をした。

 中もまた、楓が見たこともないようなオフィス空間で広がっていたからである。


 フロアは七十坪程の広い空間がオープンに広がっており、その中でライフプログラムワークスのクリエイターたちが和気あいあいと仕事に励んでいる。

 部屋にいるクリエイターの人数は、およそ四十人程だ。

 部屋の中は、外と同じようにカントリー調の木材の家具とたくさんの観葉樹に囲まれており、窓からの光がオフィスの中を明るく照らし、カントリーな空間を更に明るくしている。


 デスクは周りの雰囲気に合わせて木製のものが置かれており、まるで木組みの家に来たような雰囲気を出している。

 もちろん、デスクの上には最新式のデスクトップパソコンと、液晶付き大型ペンタブレットが置かれている。

 価格にすると、数十万するものが、一人一人に支給されていることになる。


 フロアの隅には最新のゲーム機器が全て揃っており、ゲーム仕様の検証をしているプランナーやプログラマーたちが四人対戦のレースゲームに没頭している姿がある。


 ライフプログラムワークスは、仕事に関連する趣味のものならば、デスクの上に物を置いても良いというルールを設けており、ゲームキャラクターやバイクのフィギュアを置いている人がいれば、デッサン用のデザインブックやパチスロ実機を置いている人もいる。


 普通の会社としては、中々見かけないほどに自由なルールで環境が作られているのが見て取れる。


 そんなキラキラと輝く新しい空間に包まれた楓は、心を落ち着かせながら大きく深呼吸をして、ライフプログラムワークスの現場へと足を踏み出す。


「それじゃあ、失礼しま……」


 しかし、楓が会社の中に踏み出そうとした瞬間、菊池が「ちょいすと〜っぷ!」と呼びかけて、進もうとしていた歩みを停止させる。

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