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光希と楓はフリーランスの模様です  作者: タチマチP
エピソード第1巻 -私の運命が225度変わる物語-
2/45

第2話:フリーランスの朝はやや遅い

 四月五日 午前六時三十五分 光希みつきの自宅


 ジリリリリリリリリリ!!

 ジリリリリリリリリリ!!


「…………んん」


 ジリリリリリリリリリ!!

 ジリリリリリリリリリ!!


「…………んぅぅ!」


 ジリリリリリリリリリ!!

 ジリリ――


「ああっ、もうっ! うるさいなぁ! 何で目覚ましなんて鳴っているんだよっ!」


 部屋の中で、目覚まし時計のベルの音が大きく響き渡る。

 昔ながらの目覚まし時計の音は、容赦ようしゃなく光希の脳へ強行突破し、眠気を倒して覚醒かくせいさせようとしてくる。

 朝が苦手な光希にとっては、これほど苦痛なことはないだろう。


 光希は継続して自らの不快指数を上げてくる諸悪の根源を制圧すべく、布団から右手を伸ばし、バンバンバンと目覚まし時計のベルがなる方向を手探りする。

 新調した畳を数回叩いた後、七、八回目に運良く目覚まし時計の停止ボタンに手が当たり、光希はなんとか見るからに降りかかる災難を振り払うことに成功した。


「……ったく。なんなんだ……心臓に悪すぎだよ」


 布団の中で、顔を青ざめさせながら光希は言う。


「普段は目覚まし時計なんてかけることがないから、久々のベルの音で思わずショック死してしまうかと思った」


 光希のテンションは寝起きという最低のテンションではあるが、心臓はバクバクと大きく鼓動を鳴らしており、その姿と状況に大きな差異が生まれている。


「はぁ……いつもだったら十時とか十一時までのんびり寝ることが出来るんだけど、今日は野崎さんのところでプロジェクトのキックオフに参加しなきゃいけないから、久々の早起きだよ……」


 気だるそうに布団の中で呟きながら、光希は布団から身を起こし、洗面所の方へと歩いていく。


「……んぅぅ」


 冷たい水を洗面所で流し、顔を洗い、そして歯を磨きながら寝癖を直していく光希。

 面倒くさがり屋な性格ではあるが、人と合うという場合には清潔感を持って望むことを理念としている為、面倒という邪念を殺しながら清潔保持に臨んでいるのだ。


「……はぁ、スッキリした。久々に早起きをすると何というか、ちょっといつもと違う空気を感じるな」


 そう言って、光希は冷凍庫の中にあるピザトーストをオーブンレンジへと放り込み、電源を入れる。

 加熱が開始された事を確認すると、スタスタと居間の方へと戻っていき、床に落ちているリモコンのボタンを足で押し、テレビを起動させる。


『――さて、今日の占いのコーナーです。みなさん、Dボタンを押して――』


「へぇ……この時間って、もう占いとかバラエティ系なコーナーやっているんだ。朝って普通は出勤前の社畜しゃちくども向けに真面目なやつしかやらないのにな……」


 光希はそう呟きながら、マンションのベランダから出勤の行列を作っているサラリーマンやOLの早歩きしている姿を見下ろしている。

 

「……やっぱ、この時間帯は出勤している奴らが多いな。八時半過ぎに外を歩いているっていうことは九時半出勤組か、遅番のスタッフってところか……」


 そう言う光希は、のんびり頭を掻きむしりながらぼんやりと見ていたが、

 しかし――


「はぁ……通勤ラッシュ大嫌い病のせいで気持ち悪くなってきた。朝から嫌なもん見ちまったぜ……」


 光希は顔を青ざめさせ、口を抑えながらソファに座る。

 会社に出勤する社会人達が何よりも苦手な光希にとっては毒でしか無い光景だった。


「……ったく、今日はあれの中に紛れて電車に乗らなきゃいけないとかマジでテンションが下がるわー。四月だけど、もう電車が汗くせえから嫌なんだよね」


 はぁ……と一つ溜息をつくと、光希はやれやれという低いテンションのままに、服を着替え始める。


「…………」


 着替えをしている光希は、テレビから流れるスイーツ特集に軽く耳を傾けている。

 そして、先程見た社会人の光景を頭の思い浮かべる。


「……僕も、昔はあちら側の人間だったんだよな」


 光希はつぶやくようにそう言う。

 その表情は、先程までのだらしがないような様子ではなく、どこか真面目な表情をしている。


 ピーピーピー!


「…………」


 オーブンレンジから、ピザトーストの美味しそうなチーズの香りが漂っている。

 しかし、光希はその事に気づいていない様子だ。


「社会の自由って……何なんだろうな……」


 光希は、空を見上げながら呟く。

 その言葉には、どこか哀愁あいしゅうが漂っている深い深い心の気持ちを注ぎ込んだような、そんな重たい何かが込められているようだ。

 

 そして、同時刻。

 駅のホームで同じ空を見上げる女性が一人――


「……私は、今度こそ……」

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