衝撃なんてもの
「よう、進。何か変化はあったか?」
『何も。いつもと同じだよ』
今日は診断日。一人で大丈夫だとあれほど言ったのに、朔は心配だからとついてきた。
「じゃあ俺、ここで待ってるからよ」
『わかった』
朔は待合室に設置されている本棚へ行き、漫画を数冊持って椅子に座った。「心配だから」と言うのは朔の口実であり、本当は涼しい場所でゆっくり漫画を読むのが目的だった。
目的はどうであれ、一緒に来てくれたことは嬉しかった。一人でいると、智樹のことを考えてしまうから。まっすぐ帰ってしまうと、誰もいないしんとした家が待ち構えているのだから。
――トントン
ドアをノックし、診察室へ入る。
「進君こんにちは。あれから、何か変化はあった?」
朔と同じ質問を女医から問いかけられた。
『いえ、おなじです」
同じ答えを女医に言う。
「そっか。何か、衝撃となるものがあれば変わるかもしれないのだけどね」
『そうですね』
そう簡単に衝撃などがあるものか。本当はそう伝えたかった。だが書く気にもならず、笑顔で誤魔化した。
――どんなことも隠さずに言える奴って、朔だけなのかな。
(智樹がいてくれたらな……)