憧れの人
私が放送部に入部した動機は割と単純だ。何かの部活に入っていれば高校入試が有利だって聞くし、仲の良い友達が放送部に入るって言ってたから。
だから私は特に目標も無く、ダラダラと活動していた。それが高校一年の夏、放送コンテストで変わる事になる。
自分の番が終わり、私は暇で仕方が無かった。全員が終わらないと席を立たれないし、ホールの中だから携帯をいじる事も出来ない。次第に瞼が重くなり、このまま寝てしまおうと思った時だった。
――ガタッ
大きな音が聞こえ、目を開けた。ステージの方を見ると、一人の男子生徒が転んでいた。起き上がった後もカチコチと変な歩き方をしていて、椅子に座ったら今度は頭をマイクにぶつけキーンと大きな音を立てる。
この人面白いな。そう思った。長身で顔も整ってる方だと思うのに、何処かが地味。それは黒髪のせいだろうか。それとも制服のせいか。暇潰しにこの人のだけは聞いてやろう。
彼がマイクを握った時、ゾクッとする何かを感じた。ただ上手いだけなら他にも沢山いた。でもこの人は違う。上手いだけじゃなくて、もっと他の……何がある。上手く説明は出来ないけど、周りとは明らかに違っていた。私は夢中になってしまった。
この日から、私は進という人物のファンになったのだ。
ずっと追いかけてきた人が、あの病院に入院している。このチャンス、逃したくない。
迷惑だろうか? 何かストーカーみたい?
不安はあったが、せっかくナースから病院を聞いてここまで来たんだ。
私はそっとノックをした。