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第八話 『盗み聞き 恋愛話に ニンマリと』

□◆□◆



 台所には三人の女性たち。


  「後片付けくらいは……」


 と食器を運んだ康平さんを、みのりさんはまたしても台所から追い出しました。


 雫さんが食器を洗い、姫様がそれを拭く。積み重なっていく食器を、みのりさんが片付ける――。


 康平さんたちが夕食を残さずに食べたことで上機嫌なのでしょう。姫様たちは和気あいあいと、談笑をしながら洗い物をしていらっしゃるようです。

 家事をする女性の姿というのは、男性である私の立場から見るとすごく素敵に映ります。



 私には『織姫』という愛する女性がいるのですが、彼女が料理をしたり片づけをする姿というのも、それはそれは素敵でございます。

 女性の気持ちはわかりかねますが、愛する人が家事をしている後ろ姿を見る――というのは、男性にとって一番の安らぎであるように思います。

 ま、残念ながら織姫とは年に一度しか会うことは叶いませんが……。


 おっと、いけませんね。一瞬とはいえ、監視活動を忘れておりました。

 


「――ねえ、かぐやさん。ひとつ訊いてもいいかな?」


 洗い物が終わるのを待っていたかのように、みのりさんがそう切り出しました。


「ん? 訊きたい事とはなんじゃ?」


「みのり?」


 みのりさんは微笑んだままではありますが、あらたまって……というのが気になったのでしょう。姫様だけでなく、雫さんまでもみのりさんへと向きます。


 みのりさんは耳打ちをするかのように口に手をあて、


「かぐやさんは~、康平くんに好意っていうか……恋愛的な感情ってあったりするのかな?」


小声でそう訊ねました。


「ちょっとみのりっ!?……い、いきなりなに訊いてるのよ!?」


 これに慌てたのが雫さん。

 思わず大きな声を出してしまった口の手をあて、小声で隣の居間を意識します。


「なにって。雫も気になるでしょ?」


「そ、それは……そうだけど……」


 キョトンとするみのりさんに対し、雫さんは指をモジモジさせながら横目で姫様に目を向けました。


 ふたりの視線を視線を受ける姫様は目を丸くし、


「そんなものは、ないぞ――」


そう言い切ってから先を続けます。


「私は康平と出会ってから間もないのでな。あやつがどのような男なのかはよく知らん。それに――私が地上世界に……あ、いや、この家に長居をするということはないだろう。ほとぼりが冷めれば、私は帰ることになるだろうしの」


「え~と……。とにかく、かぐやさんにその気はないってことでいいのかな?」


 みのりさんにしてみれば何の話かわからないのでしょうが、要点は伝わったようですね。


「その気もこの気もない。正直に言うとな、私は今すぐにでもあちらへ帰りたいのじゃ」


 この言葉に安心したのか、おふたりは……特に雫さんに安堵の表情がうかがえます。――と、そこへマルさんが顔を出しました。


「洗い物は終わった? さっきチョコレートをいっぱい買ってきたからさ、みんなで食おうよ」


 その手には開封された板チョコが――。どうやら待ちきれなかったのでしょう。


「おぬしはまだ食えるのか? あれだけ食っておいて、よく腹に収まるものだ」


 呆れたような姫様の声に、マルさんは笑顔を返します。


「お菓子は別腹だからいいの。かぐやさんもおいでよ、期間限定のチョコを分けてあげるからさ」


 そう言って、マルさんは居間へと戻りました。


「なんと、マルには胃袋が二つあるのか!? その話、詳しく聞かせてくれ」


 団子よりも花に興味を持った姫様は即座に追いかけていきます――。



 台所に残っている雫さんとみのりさん。


「よかったね雫。かぐやさんにその気はないんだってさ!」


「あはは。なんだか、正直ホッとしちゃった。あんな綺麗な人にその気があったら……私なんかじゃ勝ち目なんてないもん」


「そんなことはないと思うけどなぁ……。でも、ライバルにはならないっていう情報は貴重だよね。しばらくもしないうちに、かぐやさんはどこかに帰るみたいだしさ!」


 おふたりは顔を見合わせて微笑みました。


「お~い。雫とみのりはこないのかぁ? はやくしないと、マルとかぐやが全部食っちまうぞ~」


 居間から聞こえる康平さんの声。


「今行くよ~! 雫、私たち行こっか!」


「うん!」


 雫さんとみのりさんも居間へと向かいます。


 そして、台所へ残ったのは私ひとり……。

 盗み聞きというのは悪い気もするのですが――。それにしても恋愛話というのものは、いつ聞いても心躍る気持ちになるので不思議です――。



□◆□◆

読んでくださり、ありがとうございました。

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