第五話 『校門の 美女はかぐやで ひと騒動』
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靴を履き替えた俺たちが外へ出ると、校門に人だかりができていた。
マルの言った通り、洋服を着た髪の長い女性が誰かを待っているようだ。うつむいているので顔はよくわからないが、確かに美女という言葉が当てはまる雰囲気がある。
近寄り難いのか、人だかりはその女性を遠巻きに見ているようだ。
顔を上げた女性がこちらを向く。そして待ち人かを確認するように目を細めた次の瞬間、パッと彼女の顔が明るくなって大きく手を振った。
「康平ではないか。やっと出てきたか、待ちわびたぞ」
聞き覚えのあるその声に、俺の頬がヒクついた。
「か、かぐや!?」
髪やスカートをなびかせて走ってくるかぐやの姿に、俺は驚きの声を出した。
服の名前なんてよく知らないが、そのセンスの良い洋服は母親が用意したのだろう。着物姿が強く残っていた俺には、声を聞くまで誰なのかわからなかったのだ。
「あれ? 康平くんの知り合いなの?」
「ほう、並ならぬ美女ではないか。只野もなかなかやるな」
みのりがキョトンとした顔をし、京太郎は腕を組んで感心する。
「え? 誰? あのきれいな人って……誰なの?」
雫はなにやら混乱し、マルは――
「康平! 誰なんだよあの美女は! 俺に紹介しろっ!」
鼻息荒く、俺の胸を掴み上げる。
「く、苦しい~……。マル、とにかく落ち着け……」
息苦しい俺の元に到着したかぐやが、マルの肩に手を置いた。
「おい丸太。私の従者になにをしておる――」
「え? いや、俺はマルタじゃなくて丸也って言うんだけど……」
振り向いたマルから手を離すと、かぐやは指をクイッと上に向ける。すると――
「うわっ、うわ! うわわわっ!」
突然、マルの身体が宙に浮いた。
予想外の出来事に、マルは宙で手足をバタつかせる。
「よせかぐや! こいつは俺の友人だ、頼むから下ろしてやってくれ!」
驚きよりも先に、昨日の夜に絡んできた二人組みを思い出した俺はかぐやを止めた。このままではマルも吹っ飛ばされてしまうと思ったのだ。
「友人? そうか、それは私の早とちりであった」
厳しい目つきがやわらかくなり、かぐやはマルをそっと下ろす。
「ぶは~。ビックリした~」
手足を地面につけるマルが大きな息を吐いた次の瞬間、周りから大きな歓声が上がった。
「ん? なんじゃ?」
周りを見回すかぐや。
俺にも何の歓声かわからないが、それを見ていた多くの生徒たちが彼女に大きな拍手を送っている。
「すげぇぞ! いいもの見せてもらった!」
「こんな間近でイリュージョン見たのは初めてだ!」
……なるほどね。かぐやをマジシャンかなにかだと思っているわけだ。
「どうもありがとうございました! これでショーはお開きデース!」
俺は観客たちにそう伝えると、素早くかぐやの手を取ってそそくさとこの場を立ち去る。
「なんじゃ? これ康平、いったいどうしたというのだ?」
「いいから黙ってついて来い」
投げかけてくるかぐやの疑問には答えず、俺は彼女の手を引いて校門を抜けていった――。
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