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孤影悄然の白銀狼  作者: 丸
第1章 サグネゼルス編
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サグネゼルス編6 会合終了


『アセナ、着いたぞ。身体の方は大丈夫か?』


「ああ、大丈夫だ。心配かけたな」


 王宮のバルコニーへと着地したコアの背中を降りながら俺は言う。因みにここは俺が王宮に用事がある時のコアの待機場所となっている。サグネゼルスを見渡す事ができ俺の気に入ってる場所の一つでもある。


「では報告に行ってくる。終わったら羽根の手当てをしてやるからな」


『ああ、待ってるさ』



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「アセナード、今戻りました」


 応接室へと戻ると国王、ルーイ、ファナ、コルトスの四人がテーブルを囲み座っていた。


「アセナード殿、そのお姿は!?」


 初めにコルトスが瞠若(どうじゃく)しながら口を開く。


(しまっ……)


 そこで俺は自分がまだビースト化したままである事に気付く。脳裏に嫌な記憶が蘇る。


 自らの仲間に手をかけられた獣と同じ姿形をしておればコルトスの反応は当然であろう、そして、ファナも。


「アセナードさんなのですね、ご無事ですか、何処か怪我などは?」


 ところが存外にファナは別段俺の姿に驚く事も怯える事もなく心配な口調でこちらへと近付いてきた。


「あ、ああ」


「ご無事で良かったです」


 未だビースト化を解いていない俺の近くまで歩み寄り安堵の表情を浮かべる。


(こいつ、俺の姿が怖くないのか?自分の仲間を殺した者と同じ種族だと言うのに)


「アセナード、さっきの男はどうなった?」


 ルーイの問いかけで俺はハッとする。


 そうだ、今は報告をする事。そして会合がどうなったかを確認する事が先決だ。


「すまない、取り逃がした。正体も分からず終いだったがサグネゼルスの者ではない事は間違いない。初めて見る種族だった」


「お前でも取り逃がしただと、そんな奴がこの世にいるのかよ。

  姫さんよ、まさかあんたの国のお仲間だなんて事はないよな?」

 

  ルーイがファナをキッと睨みつける。


「ルーイ、それはない。ポルティア人にあれだけの身体能力は出せない。それにファナ達の目的は国王に協和の場に出席してもらう事だ。あんな邪魔を入れて何のメリットがある?」


「んー、まあそりゃあそうか。でもホントに信じられねえよ? 俺はてっきりお前が賊の首を持ち帰ってくるもんだと思ってたからよ」


「アセナード、ルーイ、その辺りでもう良い。少なからず賊はもう去ったのであろう?

 ならば交渉を続けようじゃないか。それに仮にまた何者かが侵入しようものであればファナ嬢がお持ちになったそのカメラという物で発見する事ができるだろう」


 どうも国王はファナの作り出したカメラという機械が気に入ったようだ。

 実のところ飛竜狩りを無くすことができるのであれば俺にとってもこれ以上ない話でもある。


「国王、交渉の方は?」


 ビースト化を解き国王の後ろへと再び戻りながら俺は問う。


「うむ。このカメラと言う技術は非常に素晴らしい。これは我が国では到底作る事はできないであろう。だがやはり和平を結ぶとなってしまうと」


「いや、国王、今回の話は受けるべきです。考えても見て下さい?

 ポルティアはこれだけの物を作る事ができる技術力を持っています。力ではサグネゼルスの方が遥かに上回っていますが仮に遠距離からも攻撃のできる大砲、獣人の力をもってしてでも貫く事のできない防御壁、そのような兵器を作る事も可能な資金と力がポルティアにはあります。

 仮にそうなったとしたらどうでしょうか?」


「それは、言われてみれば確かに……」


「ポルティアに今その意思はないでしょう。故にファナがこうしてこの場に来ている。

 ですが意思がないのとその力がないのは別です。サグネゼルスが純粋な力を持っていると同様にポルティアもまた技術と言う力を持っています。その辺りよくお考えを」


 俺がそこまで言うと国王は真剣な面持ちで両腕を組む。


「キース様、アセナードさんの仰る通り我が国にそれだけの技術力はございます。

 ですが我が国、延いては私の夢は全世界が手を取り合い平和に過ごす事のできる日々を送れる事です。

 我が国がそのように武力を翳す事はないでしょう。それでも、やむおえずそれをしなければならない状況になってしまった時は……」


 最後の一押しだ、と言わんばかりにファナが続く。


「うむ、解った。アセナードの言う通りだ。私はどうにも力と言う言葉に拘りすぎてしまっていたようだ。力で抑えようとすれば力で抑えれてしまう、か。

ファナ嬢、今回の交渉は成立だ。世界協和の場、サグネゼルスは出席させてもらおう」


 国王は組んでいた腕を解くとそのままファナの方へと右手を差し出した。


 ファナはその手をそっと握り返す。


「キース様、ありがとうございます」


 まるで何かを成し遂げた子どものような無邪気な笑顔を見せるファナ。

 初めて来る土地で仲間を死地に追いやり、一国の重みを背負い、失敗のできない交渉、あの小さな身体でどれだけの想いを抱えていただろうか。


「この時をもって今回の会合は終了とさせて頂こう。ファナ嬢と部下の方には部屋を用意させてある。今晩はここに泊まって行きなさい。

 そしてアセナード、ルーイ、お前らもご苦労だった」


 軽く感傷的になっていたところ国王に声をかけられ我に返る。


「いやー、今回は色々あったがこれにてお役御免だな。

 国王、早速で悪いが報酬の方を貰えませんかね?今日は疲れたんでとっとと帰って一杯やりたい気分なんでね。

 なあ、アセナード? お前もそうだろ?」


 「うむ、すぐに用意させよう」


「国王、その事ですが俺は今回の報酬は半分で良い。残りの半分は薬と包帯に変えて欲しいです。コアが怪我をしている」


「なんと? 詳しく聞いていなかったが先程の賊にやられたのか?」


「いえ、俺の未熟さが招いた結果です。バルコニーに待たせていますので今回の依頼が終わったのであれば俺はこれにて失礼致します」


 軽く頭を下げ俺はその場を後にしたのであった。

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