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孤影悄然の白銀狼  作者: 丸
第1章 サグネゼルス編
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サグネゼルス編3 会合1


 ガタガタと馬車が揺れる。

 アセナードとルーイと言う二人のサグネゼルス人に命を救われた私とコルトスは改めてサグネゼルスの王宮へと向かっていた。

 道中に部下達の死を目の当たりにし大きな悲しみを胸に抱えているも私には成さなければならない事があるからだ。


「ファナ様、ご立派でした。お辛いでしょうが乗り越えなければなりません。王宮に着くまでの間に少しでも身体を休めて下さい」


 隣に座るコルトスが私に優しく声をかけてくれる。コルトスにとってもレイルは長年の友でありイク、ヨウの兄弟は自分の弟のように可愛がっていた二人だ。

 彼も胸に悲しみを抱いているだろうが私に心配かけまいと気丈に振舞っているのが伝わってくる。


「ええ、大丈夫よ。私よりもコルトスの方が腕の怪我があるのだからしっかり休むのよ?」


 私は笑顔で返した。


「お二人さん、無駄話も良いがそろそろ王宮に着く頃だぜ?」


 そこへ割って入ってきたのはルーイさん。

 どうも道中の態度や口ぶりからポルティア人をあまり良く思っていないように感じる。

 しかし助けてくれたのは事実であるし無事に王宮まで連れて行ってくれると言うのは今の私達には願ってもない話である。


「解りました。でも、王宮に着くまでの間で良いので少し聞いても良いでしょうか?」


 私は思いきってルーイさんへと問いかける。少し苦手意識はあるがこちらから話しかけなければ距離が縮む事はないだろう。


「なんだい?」


 両手を頭の後ろに組み荷台の壁へとよっかかりながらルーイさんは答えてくる。

 乗り気な態度ではないが話をしてくれる気はあるようだ。


「勿論、色々と聞きたい事はあるのですが、さっき私達を襲った野生ビースト。彼らはこの国には沢山居るものなんですか?」


「ああ、さっきも言ったがあいつらは皆俺達サグネゼルスの獣人特有体質の成れの果てっ奴だな。元々が兵士で戦闘時にビースト化してコントロールを失っちまったり、その辺の奴がどれだけビースト化を維持してられるか我慢比べして失敗したり、それで悪さをしようとしたり、まあ色々だ」


 なるほど。少しづつ解ってきた。まずビースト化という行為自体がサグネゼルス人であれば誰もがどのタイミングでもできるようだ。


「あんたらを襲った連中は野盗崩れか何かかもな。元の姿を観てねえから解らねえが恐らく兵士出身の奴ではないだろう。俺も一人殺ったがまるで戦闘慣れしてなかった。アセナードなんてビースト化せずに一撃だぜ?味方ながらに恐ろしい奴だぜ」


「では私達を襲った一人目はルーイ殿が? その話からするとアセナード殿はそこまで強いのか?」


 私も気になった事だが代わりに一緒に聞いていたコルトスが質問をしてくれた。

 コルトスだってポルティアの近衛隊では上から数えた方が早い実力者だ。その自身がまるで歯が立たなかった野生ビーストを倒したというルーイさん。


 だが私はそのルーイさんがアセナードさんに強く言葉を突きつけられた時の表情を覚えている。

 あの時のルーイさんは間違いなくアセナードさんに恐怖していた。


「強いなんてもんじゃねえよ? あいつの地力はサグネゼルスの傭兵団でも指折りだ。ビースト化したあいつに一対一で勝てる奴はこの国には一人としていねえよ」


 どこか悔しげな表情と諦めの表情とが入り交じったような表情で説明をするルーイさん。

 それほどまでに二人の間には力量差があるのだろう。


「それって事実上この国のナンバーワンと言うことですよね?それほどまでとは……」


 コルトスは驚きつつもどこか納得したかのような表情をしている。実際に私達は目の前でアセナードさんが一瞬で野生ビーストを屠った場面を目の当たりにしている。恐らく同じような表情をしているのだろう。今までポルティアで生きてきた常識全てが通用しない。それが異国と言うものなのだろう。


「あいつは幼少時代にビースト化が止まらなくなっちまった父親を殺してる、て言う過去も持っている。当時の奴の父親も傭兵団指折りの実力者でな。それを年端も行かねぇ子どもがやってのけたんだ。。そりゃあ騒がれたもんだぜ」


「父親を……殺してる?」


 私とコルトスはルーイさんに聞いた話に再び驚いた。


「まあ、あいつの名誉の為に話すがその時はアセナードの父親のビースト化が止まらぬ状況まで進んじまっててな。判断としてはそうしなきゃアセナードが殺されちまってただろう、て事で周りも納得してる。それよりも重要だったのはその当時のアセナードがビースト化してた父親に勝っちまった、て事実の方だ。そうしてついた通り名が……」


 ルーイさんが少しだけ言葉を溜め言い放つ。


「親殺しのアセナード、だ」


「親殺し? だが先ほどルーイ殿も言っていたがそれは止むおえない事情があっての事だったのだろう? 他国の騎士の私が口出しする事ではないと思うがそれはいささか不名誉な通り名なのでは?」


 コルトスが恐る恐ると言った感じで聞き返す。

 私も黙って聞いていたがそれではアセナードさんが不憫に感じるのは同じである。



「はっはっは、そうだなぁ。ポルティアの騎士だったらそう思うかもな。俺も確かにどうかとは思う。だがここは残念ながらサグネゼルスなんだよ」


 コルトスに対し高笑いしながらルーイが言う。


「どうゆう意味ですかな?」


 ルーイさんの伝えたい事が読み取れずに怪訝な表情わしながらコルトスが尋ねる。


「騎士さんよ? あんたらには名誉やら、忠義やら、てのが何よりも大事だったな?そりゃ俺も全部は否定しないよ。実際俺はアセナードに関しては仕事仲間として信頼を置いている。だが俺達は傭兵だ。そしてここサグネゼルスにはあんたらみたいにご大層な騎士様なんていないんだよ」


 ルーイさんは変わらずに緩い表情のまま続ける。


「傭兵には大義なんて有りゃしない。あるのはあくまで金が貰えるかどうか? ただそれだけだ。俺達は金が貰えりゃどんな仕事でもこなす。だがその依頼主を超えるだけの金額を用意されりゃあ普通に裏切りだってする訳よ。昨日の友が今日は敵なんて事も有り得るわけよ。そんな俺達がいちいち相手を気遣って名誉だ、不名誉だ、そんな事は考えやしねぇ、て事さ。むしろこの国では金と力の二つが何よりも勝る。アセナードにはその力がある。故にあいつの通り名はそれだけ周りがあいつを恐れてる、て事でもあるんだよ」


「しかしそれでは、万が一に国が危機に陥った時にはどうやって統率を?」


 ルーイは淡々にサグネゼルスで生きる傭兵と言う人々の在り方を続ける。しかし納得出来ないのかコルトスが絞り出すように言う。


「統率? そんなもんは金持ってる奴がばらまいて傭兵かき集めて終わりさ。より金の持つ者の所に傭兵は集まる。そこに義理なんても有りはしない。もっと言えば国がどうこうなんて考えてるのは王宮のお偉いさん達だけだぜ」


 それに対してルーイからはあっさりとして寂しい答えが返ってくる。


「ルーイ殿!それはないだろう!自分が生まれ育った国や育ててもらった家族への恩義!ルーイ殿にも何かしらあるだろう!」


 流石にこれに対してはコルトスも熱り立ち言い返す。だがそんなコルトスを見てもルーイは表情を変えずに淡々と喋り続ける。


「俺がガキの頃に親は野盗に殺された」


「え?」


  つい熱くなってしまったが聞いてはいけない事を聞いてしまった、と言った表情でコルトスが黙りこくる。


「必死に逃げ出してそこからは盗みでも殺しでも何でもやったよ。そうじゃなきゃ生きていけねぇからな。何度かビースト化が暴走しそうになった事もあったんだぜ?それでいてようやく傭兵団に入る事ができて今に至るって訳よ。その間何もしてくれなかった国に恩義があると思うか? 親を野盗に殺され、盗まなきゃ生きていけない、殺らなきゃ殺られる、そんな環境で生きてきた奴が易々と他人を信用できると思うか?」


 ルーイは目を瞑りあくまでも淡々と語る。


「ル、ルーイ殿、先ほどはすまなかった」


 バツが悪くなったコルトスがルーイに謝る。


「あんたらみたいな他国の貴族には解らないだろうが俺達は明日が保証されてない連中が殆どだ。ここはそうゆう国なんだよ。この国の奴らは大体の奴が何かしら抱えて生きてるんだ。俺もアセナードも例外じゃない」


 私はここまで聞いてようやくルーイさんがポルティア人をよく思っていなかった理由が解った気がした。


(ポルティアはお父様を先頭にかなりの治安の良さを保たれている。国民にも分配金があるし六ヶ国では裕福な方に入る)


 サグネゼルスの国民か見ればそれは羨ましくもあり嫉妬の対象にもなるのであろう。


「さあ、無駄話もここまでだ。悪いが疲れてるんでね。王宮に着くまで一眠りさせてもらうぜ」


 ルーイさんはその言葉を最後に目を瞑るとすぐに寝息をたて始めた。


「コルトス……私、本当に外の世界の事を何も知らなかったみたい」


「ファナ様、恐れながら私も自分の無知を痛感しております。他国がここまで乱れていたとは」


 それから王宮へと辿り着くまで私もコルトスもお互いに言葉を発する事はなかった。




















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