第61話 錆④
不意に高い笑い声が響いた。聞いたことのある声ではない。
ミナはテレビの電源を切った。例の情報屋が来たに違いない。
「ふむ……」
彼女は腕組みをして待ち構えた。
そしていよいよと広間のドアが開いた。
最初にハクが入って来るかと思ったが、背丈の同じくらいのスーツを着た青年が入ってきた。
茶色で肩にかからない位の髪の長さ、ハクと同じくらいの身長、年齢────もしかしたらもっと若いのかもしれない────そして何より特徴的なのが笑顔だ。
「君が僕に会いたがってた人かい?若いね」
近付きながら言う。それに合わせるように桜が立ち上がり、行く手を阻む。
青年が彼女に顔を向けると子供のような顔を輝かせた。
「あれ、あれー!君はボディーガードSSクラスの桜さんじゃないかい?わ、すご初めて生で見た!」
体を揺らしながら桜を上から下まで見回す。召使いは不愉快そうにして警戒していた。
少しして青年はハクがいる方を振り返った。
「だめだなぁ、ハクちゃん。こんな人がいるなんてなんで黙ってたんだい?」
「?別に、興味ないからなそういうの」
広間の入り口から少し大きめの声でハクは答えた。
ミナは桜に脇に退くように顎で示した。青年はハクの反応を見る限り、いつでもこういう態度なのだろうと理解した。桜は脇に退いたが、警戒は解いていない。
ハクが青年を手招きし、こちらでは聞き取れない音量で少し会話をすると、先程同様青年が近づいて来た。
ただし、椅子2脚分くらいの距離で足を止めて、座る許可をとり大人しく座った。
咳払いをし、口を開く。
「えーと、先程は申し訳ない。少し興奮していて自分を抑えられなかったんだ。失礼だったよね?」
「いや、返って緊張感がなくなって話しやすくなったぞ」
あはは、と笑う青年。
「あー、改めまして。僕はしがない商人をやってる赤錆連也って者です、よろしくね!」
「ふむ、ここの大家のミナだ。こちらは察しの通り、わたしの護衛をやってもらっている桜だ」
桜がぺこりと頭を下げる。
そして紹介が終わったところでハクが近づいて来て商人の目の前の席に座った。
「以前うちの者の手助けをしてもらい感謝している」
ミナはとりあえずと、礼を述べる。
「いやいや、友人のためだもの。当然だよ。」
手を振りながら笑い、それに、と付け加えた。
「それなりにそっちとしては十分な代償だったと思うし」
そう、彼女らはある一件以来、とんでもない組織を敵に回してしまっていた。今のところは動きはないが、そのうち命の危機に晒されるかもしれない。
「うむ、そうらしいな。だが助けてもらったのは────」
続きを手を叩く音でかき消され、赤錆は首を振った。
「いいの!僕がしたくてやったんだから。そんなことより本題を話してみてよ。雑談するために呼んだわけじゃあないんだろう?」
言われたミナは自分の顎を指の側面で撫でた。
────まあ、そうなるか
どうしようかと考え、ハクの方を見ると頬杖をついて欠伸をしているのが目に入った。随分警戒意識がないように見える。それだけ信用しているということだろうか。
「ふむ、お前の情報量が凄まじいとそこの男から絶賛を受けてな……」
彼女はハクを指差した。すると赤錆の表情が一層輝いた。
「本当かい?ハクちゃん」
「は?そんなこと言ったか?」
ハクは眉間にシワを寄せてジッとミナの方を向いた。ミナはついニヤついてしまっていたのをすぐに戻す。
すごく仲が良いという訳ではなさそうで、ミナはまた顎を撫でた。
────探っていたのでは進まんな
そう思い、口を開いた。
「とは言ってもそこまで対したことではないんだが、情報を提供してもらいたい」
だろうね、と笑う青年は答え、人差し指を立てて振る。
「情報の提供っていっても僕は商人だからね。タダではないよ?」
「もちろん金は────」
「ちなみに金での交換はしてないよ」
彼はミナの言葉を遮って言った。
「ふむ、物々交換か……?」
少し間を置かれ、彼女は予想する。その間は何か試されている気がしたが、構わず続けた。
「ということは情報には情報ってところだろうな」
「うん、まあ物にもよるけどね。で、どんな情報が欲しいの?」
────さて、どうしたものか
この口振りは確かにそれなりの情報屋のような印象を受ける。自身も頭が良いようだ。




