第60話 錆③
ミナは以前、自身の事で攫われた事があり、助け出された時に『20番』と呼ばれた妙な男がいたのが非常に気になっていた。
ハクにさりげなく聞いてみるが、苦い顔をしただけで答えようとはしなかった。のちに事の協力者であった侍女の桜に問いただすと、ハクが何処かからか連れてきたということだった。
人員を寄越してくれる人物がいるとは思わなかったが、ハク自身いろいろと付き合いはあったはずで、ミナはそれを情報屋か商人と仮定していた。
彼女は訳あって自分の知り合いには会うわけにはいかず、かといってこのまま情報を得られないとなると先に進まない。
ハクに、その人物に会いたいと言うと渋々頷いたが、乗り気ではなく連れてくることはなかった。強要はしてないので嫌であれば当然であるが。
ちなみにどんな人物かと尋ねるが、『変わった奴』とだけ返され、それ以上はわからない。
ハクは彼女らにその場で待つように言い────会えるかどうか話して来る────と立ち去った。
そして早1時間になる。
連絡はない。ミナは肘をついてテレビを見始めた。
チャンネルを変えてみるが対して今は面白いものはやっていない。ニュースも今はやっていないようだ。
「そうだ桜よ、お前ランキングはどうなっているのだ?」
ボディーガード協会ではランキングをつけてお客様に活用してもらうようにしている。ランキング数値はランクごとに区切られ、ネットでも見やすい使用になっていた。
当然ランキングが高いほどに値段は大抵高くなり、依頼量も増える。
桜は以前はSSランク9位であった。
「今ですか?11位ですね。私はお嬢様専属の護衛ですので。というよりお嬢様以外は嫌です」
「ふふん、なかなか最下位にはならんようだな」
「出だしが3位でしたからね」
彼女の実力は実質3位レベル。依頼の件が多く、最下位になればかなり減るだろう。
ハクのように中級を取れば依頼は月1のペースだが、かといってSS級にはいろいろ特権があり、捨てがたかったのだ。
「でも別に最下位になる必要も無い気がしますが……今のところ協会からも連絡ありませんし」
「長期護衛など上級にはありふれたものだからな。他の上級者も何人かその状態らしい、今動けるのは数人だ」
「そうなんですか?まだそこまで目立った事件はないですから私は大丈夫ですよね?私はお嬢様から離れませんよ!」
「そ、そうか」
以前あった事件が相当効いているらしく、召使いは少し外に出掛けるときでもついて来ることが多くなった。それでも指示だと言うと待機はしてくれる。
────正直そこまではしなくてもいいのだがな……
「そうです。あ、お茶飲まれますか?」
桜は空になった主人のカップに紅茶を注いだ。彼女の作った紅茶が一番上手い。
「ふむ、……遅いな」
ミナはティーカップの見事な装飾を指でなぞった。
「ですね。といってもそうすぐに来るとは思いませんが。あ、そうだお嬢様、右手を見せて下さい。傷の具合を見たいので」
「ぬ、もうなおってるぞ」
そう言ってミナは右手を掲げた。以前のハクの依頼で実は切り傷を作っていた。
医者であるトビに見せて手当てしてもらったのだが、さすがの腕利き、ものの数日でほぼ治って、傷跡もない。
「よかったです。もし傷が残ったら医者をシメて来るところでした」
「ふふ、やめておけ。奴だから治りも早かったのだぞ」
立ち上がる召使いを笑いながら止める。許可を出したら飛んで行っただろう。
────トビもたまったものではないだろうな
ニヤリと笑う口元を手で隠す。
あははははは────
不意に高い笑い声が響いた。聞いたことのある声ではない。
ミナはテレビの電源を切った。例の情報屋が来たに違いない。
「ふむ……」
彼女は腕組みをして待ち構えた。
そしていよいよと広間のドアが開いた。




