第6話 尾行
──────時は数十分前に遡る。
真美子は恐怖に身動き出来ないでいた。
口を抑える手は依然緩まない。
────殺される‥‥
彼女は辺りが闇で包まれた空間にいた。わずかな光も入って来ない。
わかるのは硬い地面と、自分の心臓の音と、後ろにいる正体不明の人間の静かな息遣いだけだ。
「静かにしろ‥‥」
耳元で囁かれる。声の低さから男だろう。
────ん?この声どこかで‥‥
聞き覚えのある声に記憶を手繰るが、思い出せない。
「俺だ、お前の雇った‥‥」
その言葉に彼女は目を見開いた。
────ハク、さん?
モゴモゴと彼の手の中で口を動かす。するとだんだん力が弱まり真美子は解放された。
「え、な、なんで?」
「いろいろあってな」
ハクが身じろぎした。そして騒いだり勝っ手に離れたりしないとわかったのか、彼は少し離れたようだ。
「あの、明かりはないんですか?つけてくださいよ」
暗くて何も見えない恐怖と、居心地の悪さからそういうが、
「ない」
と、きっぱりと言われた。
ため息をつく真美子。
「ていうか、何でこんなことしたんですか?」
声のした方を向いて聞いた。正直全く状況が掴めていない。
引っ張られた時感じた浮遊感からどこかに落ちたのではないかと考えられるが、彼女は目を閉じてしまっていたので定かではなかった。
「話すと長くなるから端折るが、犯人を罠にはめるためと言ったところか」
彼の耳に真美子の息を飲む音が聞こえた。
「犯人、わかったんですか?ストーカーの」
「‥‥確定ではないんだが」
「誰なんです?男?」
────やっぱり時計塔で見た男だろうか?
「いや、犯人は────」
言いかけたが、何故か彼は口をつぐんだ。
真美子は続きを待つものの心臓の鼓動が早くなっていた。
────誰なんだよぅ‥‥
「静かに‥‥」
耳元で突然囁かれ、ヒッと、声を上げた。また口を塞がれる。
そのまま微動だにせず、目だけがせわしなく動いていた。心臓もバクバクと跳ねていた。
そして、重い石か何かが引きずられるような音がしたかと思うと光が差し込んできた。地面には長方形の光が映っている。
人影が一つ、上の穴から覗いた。
と思ったら人影が迷いなく飛び降りて来た、ふわりと着地する。
光が逆光のようになり、シルエットしか見えないが、真美子はそれが探偵だとわかった。
続いてもう一つの影が降りてきた。おそらく優子だろう。
探偵が前にいたらしく、前方からペンライトの光が地下を照らした。
洞窟は奥の方は完全に闇、地面はボコボコと土が盛り上がっており、明かりがないと躓いてしまうだろう。
探偵たちはぐるりと周りを見渡すと、足場を探るようにして歩き出した。こちらには気づいて無い様子だ。
「後をつけるぞ」
ハクは真美子の手を掴み立ち上がった。




