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暗い夜に踊る  作者: ビシン
鉄編
58/70

第58話 錆

あれから数日後、ハクはいつもより早くに目が冷めた。天井をぼんやりと見つめた後、のそのそとベッドから這い出る。


外はまだ少し暗く、肌寒い風が開けた窓から入って来ている。


時間を見るとまだ朝の5時だ。


彼は窓を閉めて顔を洗った。


タオルで吹きながら着替えを探した。彼には沢山の衣類は無く、仕事用の繋ぎと戦闘用の黒いシャツとズボン、コートしかない。


だからといってハクは気にしているわけではなく、頭をかくと少し早いがつなぎに着替えた。


そして玄関前の掃除道具を取ろうとするが手を止めてドアのほうをチラリと見た。


人の気配がする。


────誰だ?


ハクが少しドアを開けると視界に何も入ってこない。しかし目線を下げるとピンクのワンピースを着た小さな女の子こと前原つくねが見上げていた。手招きをする少女。


「ガキ?」


少女はニコリと笑顔を浮かべるといきなり閉める勢いでドアを蹴り飛ばした。


顔を覗かせていたハクは当然首が挟まり、喉を詰まらせたような声を上げる。


「ふははは!ざまあやな!」


笑ながら逃げていくつくね、括った前髪が激しく左右に動いている。


「こ、このガキー……」


喉元を抑えながらハクは廊下に出た。


と、視界の端に何かを捉えて飛び退く。


「あ、アレキサンダー?」


アレキサンダーが玄関の横に立っていたのに気づかなかったハク。


大男は手を上げて挨拶をした。


「すまない。あの少女には案内だけ頼んだんだが」


打った所を撫でているハクを見て謝罪するが、それを手でやめるよう伝えられる。


あれからアレキサンダーはこのアパートに連れて来られて、ネコの隣の部屋へと一時的に住むことになった。アパートであるが、ほとんど空室であり貸すのに困らないのだ。


まだ物は運び込まれていないようだが。


「どうした?なんか用でも?」


「いろいろ気になることがあってな」


「気になること?」


ハクは首を傾げた。


────まあ他所から見たら得体が知れないか


「気のせいだったらあれなんだが、ここの宿主のそばにいたメイド……あれってSS級のガードマンじゃないか?」


SS級────

ボディーガードの中でも最高クラスの位にいるガードマン。桜はその中の一人で、以前から資格を持っており、実力はかなりのもの。


上位クラスになるとボディーガードの予約が絶えないのだが、彼女は全て断っている。おそらく桜がミナ以外を護衛することは今後無いだろう。


「ああ、そのボディーガードだよ、桜は」


それを聞いて感嘆の声を上げるアレキサンダー。


「すごいな、そんなやつがここにいるなんて……ん?お前もガードマンなのか?」


ふと気づいたように聞く。


まあなと、ハクは頭をかいた。


「俺はA級だがな」


「A級?」


大男は彼の位を聞いていぶかしむような目つきをした。


「……で、要件はそれだけか?」


「ん、いやまだある」


「?」


「ここの家主のことだ」


────だろうな


自身を招き入れた張本人。気になるのは当然だろう。


しかし答えようともハク自身もあまりミナについては知らなかった。


せいぜい、性格くらいなものだ。背景や素性などといったものは何も聞かされていない。


────まあ聞いてもいないんだがな


ただ、憶測ではあるが見た目や持ち物から何処かのお嬢様ではあるだろう。実際、召使いの桜はそう呼んでいる。


なぜこんなところにいるのかはわからない。ハク自身も拾われたようなものだった。


「さあな、何処かのお嬢様だろう」


肩をすくめてそれだけ答えると、そろそろと掃除用具を持った。


アレキサンダーは何も言わなかったが、納得したようでもなかった。


「手伝おうか?」


大男は暇だからと提案して来た。


「遠慮しとくよ。仕事だしな一応」


ドアを閉めると三角巾を頭に巻き、思いついたように大男に向いた。


「そうだ、住人にはみんな会ったか?」


「いや、ネコとつくねだけだ」


「暇なら行ってこい」


そう言って彼はアレキサンダーをその場に残し、何と無くミナのいる部屋へと向かった。






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