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暗い夜に踊る  作者: ビシン
ボディーガード協会
52/70

第52話 草薙青葉

「それで……?なんの用?」


4大貴族の一つ、草薙一族の末裔である草薙青葉は円形のアパートの広間を見渡して言った。


室内には白いテーブルクロスが敷かれた長いテーブルが中央に置いてあり、天井にはシャンデリアが吊るされ、緻密な装飾がされたいくつものダイニングチェアが並べられている。その椅子には左手奥に作業着を着た髪の長い男、いくつか手前に頭に着ぐるみ?を着けた者、1番奥に長い金髪の黒ドレスの女性が座り、そしてその女性の脇に若い侍女らしき少女が立っていた。



「ふむ……まあ座れ」


────何この態度……


「私は4大貴族の────」


「んー?遠吠えか……?」


「っ!?」


アオバは舌打ちをし、目の前の椅子にドカリと座り足を組んだ。


連絡があったのは今朝の事だ。プライベートの携帯に非通知2コール切りがあった。3回目に出るとミナという女からだった。ガードマン同士の賭けで負けたアオバは連絡先を教えさせられ、そうやって来たら出るよう言われていた。


────く、屈辱


ケータイに送られたマップ通りに来ると円形のアパートに着いたのだった。アオバの脇にはダニエル・ファーランドが控えていた。何があるかわかったものではなかったが、契約は契約。彼女は歯軋りしながら訪れたのであった。


────でも……あの身なりにデカい態度、どこかのお嬢様なの?いやでもアパートはボロいし……お金はありそうだけど……なさそうな


アオバはここの主人を見ながら混乱した。綺麗な容姿や態度からしてどこかのお嬢様のように見えたし、ボロいアパートに住んでいるところから没落貴族のようにも見えた。


────それか、それに憧れる可哀想なやつか


しかし訓練場で見せた駆け引きからして相手に何かあるのは間違いなかった。


「それで、なんの用?さっそく呼びつけて……暇じゃないんだけど」 


「まあ硬くなるな。茶でも出そう」


金髪黒ドレスの女性は側の侍女に何か言い、アオバの目の前に紅茶とクッキーが用意される。


香ばしい匂いの紅茶に彼女は片眉をあげた。


花の装飾が施されたティーカップを静かに手に取り、一口口に含むと微かな甘みと香ばしさが広がった。


────う、うまい……


と、ふと用意した侍女に顔を向け、椅子から転げ落ちそうになった。その様子にアオバのボディーガードが慌てて駆け寄り背を支える。


「what's?!アオバさん、大丈夫ですか?!何か盛られましたか!」


ダニエル・ファーランドは紅茶と用意した侍女を交互に睨み、その少女を2度見した。


「oh?!」


「え、……SS級序列11位の桜……」


アオバは姿勢を戻しテーブルに手をついた。静かに主人の元へ戻るSSボディーガードの姿を凝視する。


「あんた一体何者……?」


S級下位以下は民間向けなのに対し、S級上位以上の多くは貴族や国の重要人物の警護をするのがほとんどだ。SS級となると尚更、それだけの絶対的な力、防衛力を持っている。


それをボロいアパートの誰だかもわからない、得体の知れない人物の警護をしているという状況にさらに混乱するアオバ。


以前は黒いベールを纏っていてよく見えなかったが、彼女は改めて正面にいる小首を傾げた女性を見た。さらりと長い金髪を持ち、腰より上がピッタリとした黒いドレスを着ている。切長の目に綺麗な小顔は上品に見えた。彼女単体で見ると、どこか外国の王女や貴族と言われたら信じてしまうだろう。あくまでも単体での話だが。


しかしボロアパートや小汚い男や着ぐるみを風景に加えると一気に信憑性が崩れるというもの。


「あんた一体何者?」


再度アオバは言った。


「ふむ……少し金のある女とでも言っておこうか」


金髪黒ドレスの女は少し考える風にコツコツと指で机を叩いた。


「そ、それでなんの用……?」


────落ち着け私……私も貴族でしょう


只者ではない存在にアオバは自身にそう言い聞かせる。色々と聞きたいことはあるものの、機嫌を損ねれば命令一つで瞬殺もあり得る状況に、出てきそうな言葉を飲み込んだ。


「何の用……と言う程の事ではないんだが……まあそちらとは仲良くしていきたいというのが本音ではある」


「怪しいですね……アオバさん」


ダニエルがこそりと耳打ちする。何か続けようとするが主人は手で制した。


「具体的にどう仲良くしていきたいと?」


その発言に金髪黒ドレスの女はかぶりを振った。


「そう硬くならないでくれ、呼んだのは茶を一緒に飲みたかった程度の事だ。聞きたいことはあるがな」


そう言うとスラリと立ち上がった。


「私はここの主……大家を勤めているミナという。この侍女は知っての通りSSボディーガードの桜」


ペコリと会釈するSSガードマン。


「そしてこの間世話になったハク」


そう紹介された作業服を着た男はチラリと一瞥し軽く頭を下げた。


「で、そこにいるのが────」


着ぐるみを着た者を紹介しようとし、その者が目を輝かせる。


「ああーただの置物だ気にしないでくれ……」


「ちょっ!姐さんそりゃねーぜ!ちゃんと紹介してくれよ!」


机を強かに叩き勢いよく立ち上がる着ぐるみ。声からして男である。


「いるのか?」


「ひょ?!……もういいぜ!俺はここ1番の男前ネコです!」


ぐるんと顔がアオバの方を向き、そう自己紹介するネコ。なんとも言えない不気味さがある。そしてなぜか必死さが伝わってくる。


「わ、私は四大貴族が1人草薙青葉……こちらは護衛のS級ボディーガードのダニエル・ファーランド」


異質な者が混じる紹介に戸惑いながらもアオバも名乗った。ダニエルも合わせて会釈する。


ミナは席に着くよう促し、そこからたわいもない話をした。最近の時事であったり、時事であったり時事……。


貴族として政治等も基本的に頭に入っているがこういった流れで何故この話をするか意図が全く理解できないアオバ。


答えているうちに何度も欠伸をする作業服を着たボディーガードと着ぐるみが目につく。


「私から聞きたいことはあるんだけど……」


「?」


「SSガードマンは分かるけど……そこのガードマンと……着ぐるみ?は何者?」


「着ぐるみじゃねぇ!ネコだ!」


猫のマスクが人の顔に変化しアオバはギョッとした。隔てるようにダニエルが遮る。


「oh Japanese monster dangerですね」


「あん?!てめコラマッスルパツパツよお、さっきから俺のことジロジロ見てたろ」


いつの時代の不良かを思わせる口振りでポケットに手を突っ込み近づいたネコは、ダニエルの筋骨隆々の胸をつついた。


「桜……」


主人が何か呟くと侍女はひょいと着ぐるみの首根っこを掴み外へ出て行った。何か喚くような声がしばらく聞こえた。


「すまんな」


そう言うとミナはもう少し近くに座るようにハクに身ぶりで示した。彼は無表情で近くに座った。


「さて……あの時と同じメンバーになってしまったな」


「……」


アオバはミナとハクを交互に見た後ため息をついた。


「なんかよくわからないけど……そろそろ帰るわ。このままここにいても他に得るものはないしお茶も飲み終わったし」


そう言い空になったティーカップを置いた。


「む、そうか……ではハク、見送りを」


断ろうと口を開けたが、相手の表情を見てやめた。


「そういえば最近貧困街で不穏な動きがあるとか……」


ふと思い出したように、しかしわざとらしくもミナは言った。


────なんか白々しいな……絶対知ってるでしょ。SSガードマンもいるし


「確かに噂は聞いてるけど……やめといた方がいいでしょ。変な力使ったり、おっかない奴ららしいし」


「変な力?」


「詳細はしらない」


「そうか、肝に銘じておこう。……ハク」


再度女が指示を出すと、作業服を着た男が近くまで来て、顎で外を示す。

 

「ではまたな」


後ろ手に扉が閉まった。





────一体何しに来たんだろうか


アオバはため息をついた。からかうために呼んだのかよくわからない呼び出しだった。


ハクという男の後ろをついて円形のアパートの廊下を歩く。


「ねぇ……ねぇってば」


彼女は目の前の男に話しかけた。


「……ん?」


肩越しに彼は少し顔を向けた。


「あなたの主人はどういう人なの?」


「……さぁ」


「さぁ……って」


アオバは額に手を当てた。考えすぎて頭が痛くなってくる。ここに来たのはミナたちに興味が湧いたからでもあった。来れば少しでも頭のモヤモヤが晴れるだろうと。


中級ガードマンが何故か上位の者を倒したり、妙な貴族風な女、SSガードマン、変質者……。


色々と聞きたいことが増え余計に考えることが多くなってしまった。


目の前の男はそのどの情報にも応える気はないように見える。


アオバは黙った。その後にダニエルもついて行く。


────私は四大貴族の一人よ……?なのにこの仕打ち……なんか腹が立ってきたわ


彼女は苛立ちからある事を考え、ダニエルの歩速に合わせて彼にある事を耳打ちした。


「no……それはいけませんよアオバさん。わ」


「いいからやるのよ」


ダニエルが抗議の声を上げるが有無を言わさず命令する。


彼はやれやれと肩をすくめ、入れ替わるように彼女の前を歩き出した。


そろそろアパートの出口というところでダニエルは静かに構え、目の前の男の頭を目掛けて殴りかかった。


相手の後頭部を強打し昏倒させるはずであったが、気づいたら床に倒れていたのはダニエルだった。


「が、がは」


仰向けに強かに叩きつけられてようやく息を吐き出した。


「みえみえだな……」


ため息をつき、中級ガードマンは離すと少し距離を取った。


────う、嘘でしょ?完全に不意打ちだったしあんな巨体を投げるなんて……


「なんなのよ一体……」


「ただの中級ガードマンだ」


アオバは唇を噛み締めた。


「丁度外だな……伝言だ。"何か困った事があれば相談に乗るぞ"との事だ」


ハクはポケットからある物を取り出して放った。


と、不意に風景が歪み目の前から円形のアパートが消えた。


「はっ?」


カサリと音がして男が放った名刺のような物を拾った。くしゃくしゃでそこには明らかに着ぐるみが書いたであろう汚い字で電話番号と猫の絵が描かれていた。


「な、なんなのよ一体……」


呟く主人の側でしばらくダニエルもぽかんと空を見上げていた。


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