第51話 ダニエル・ファーランド2
5点ライトならぬ5点サイレントモード。本当なら攻撃が当たった瞬間にライトが付きすぐにわかる仕様になっているが、サイレントモードによりそれはなくなっており、外部にしかわからない。
しかしダニエルには確かな手応えがあった。
「sorry、ちょっと強すぎたかな。でも反則でも何でもない。避けられない自分が悪いんだよ」
彼は胸を押さえてうずくまる相手を見下ろした。
────まずは1point
近づくダニエルを見て距離を取るA級ガードマン。
「japaneseでは注意散漫、油断大敵とか言うんだっけね?」
ダニエルは今度は分かりやすいように構えて言った。相手は何も言わずただ睨んだ。
と、ダニエルは相手がいつの間にかナイフをその手に握っているのに気づいた。
どこに仕込んでいたのかわからないが諦めてはいないようであった。
────力の差はわかったはずだろうに
「youはgardmanという職業が何なのかわかっているのかな」
「クライアントを守る。または町の犯罪の防衛だろ、一般的に」
「that's right。先の闇の住人だかなんだかも関係ない。そしてyouは言うほど守れていない。それは順位がそれを示している。仕事をこなせば自然順位は伸びるはずだが?それがないと言うことはyouはとんだ場違いな所にいるものだな」
「……」
A級ガードマンは黙った。何も言えないのか、言わないのか。
「そもそもそんな格好でgardmanとは……仕事を受ける身としてスーツは当然だよ」
ネクタイを締め直しながら言うダニエル。彼は自身とA級ガードマンの作業着のような格好を見比べて肩をすくめた。
「さっき痛めつけるつもりはないと言ったがね、youは心構えを変えないといけない」
ダニエルはポケットからとあるグローブを取り出した。それは見た目は手を守る薄手な手袋であるが、彼に取っては最大の武器であった。
「君に格の違いを見せてあげよう────transformation」
ダニエルが両手を組み、前にかざしてそう言うと手に装着したグローブが変形し、鋭利な刃物が手指に現れ、表面がギザギザしたものへと変化し硬化する。
ハクの表情が驚きへと変わった。
────本来ならA級ごときに使用するものじゃないが、圧倒しなければ意味はないだろう
「この新武器の力、躱せるかい」
彼は握り拳をつくり前に突き出した。すると新武器の機能により圧縮された空気が打ち出される。
ハクは僅かな空気の変化を感じその場に伏せた。透明な塊が頭上を通り過ぎ背後の岩にビシリとヒビを入れた。
「手加減したとは言えよく躱した。だが次はどうかな」
ダニエルが次を打ち出さそうとすると相手はそうはさせじと前に出る。
────nice、だが……
S級ガードマンはボクシングの構えを取り、素早いラッシュで相手を向かい打った。新武器の機能により身体強化され数段早い。
初撃が腹部へ入り、相手が身体を折り曲げたところを反対の拳で顔面を打ち上げる。
体重が少ないのか軽い手応えと共に仰け反る。そこに二発目三発目と拳を打ち込んだ。
相手はダメージを受けながらもナイフで側面からなんとか反撃しようと斬りかかるがダニエルは手の甲で弾き、逆に殴り飛ばした。
「fee……。今ので君は3点を失ったよ。あと1点だけどやはり差があったね」
ダニエルはちらりとガラス越しにクライアントの方に視線を向けた。
表情が険しくイライラしているように膝を揺らしている。
────やれやれあまり長引かせると怒鳴られそうだ
ふと相手方のクライアントの方へ目を向けると、耳に手を当て口を動かしている。
その時だ、冷んやりとした冷たいものが背筋を走った。
彼は咄嗟に手に力を溜め、振り返って背後に一撃を繰り出す。だが空振りに終わり、相手を目に捉える前に胸にナイフが刺さる。
実際はシールのおかげで貫通はしていないが、ダニエルは慌ててその場から飛び退いて離れた。
────what happened?
ナイフを突き立てられた胸に手を当てるとかすかに傷が付いているのが感触でわかった。
「it's unbelievable。youはwhat……」
ビィィィー
そこで戦闘終了のブザーが鳴った。
────んん?拳が標的にかすってたか?
ダニエルは狙いを外していたことに首を傾げた。新武器越しとはいえ五発目を当てた覚えはなかった。
「まあいい、勝ちは勝ち────」
『そこまで、勝者A級ガードマン、ハク』
その瞬間ダニエルの身体に貼っていたシールが全灯した。
彼は絶句した。
そして目の前のA級ガードマンは今までのダメージがまるでなかったかのように立ち上がってナイフをしまった。
「悪いな……ダニエル、だったか?俺の勝ちだ」
そう言ってA級ガードマンは出口へと消えて行った。
S級ガードマンのダニエルは訳が分からずただ呆然とその場に立ち尽くすしかできなかった。
「う、嘘……」
専属のボディーガード、ダニエル・ファーランドが呆然と立ち尽くす中、草薙青葉も同じ心境だった。
────相手はA級でしょ?!なのに……
少ないが見ていた他のガードマンたちからもどよめきの声が聞こえる。口々にS級がA級に負けたという。
「さて、ハンデ有りとはいえ勝ちは勝ちだな」
正面に座っていた黒ドレスの女性は立ち上がった。
「……っ」
アオバは何も言えなかった。
何か細工があるとも思ったが、模擬戦闘には点灯シールをランダムに選んだり、不正を無くすために開始後は設定は触れないようになっているのだ。また、アオバが急かす故に時間の無駄も無かった。それに事務員はあくまで放送担当のみで判定は付けることは出来ないのだ。
仮に出来るようにしたとしてそんな打ち合わせ時間なんて無かったはずだ。
「あんた、一体何を」
それでも彼女は聞かずにいられなかった。そんなアオバの様子を見て黒ドレスの女はニヤリと笑った。
「ふむ、秘密だが。強いて言うならハンデを甘く見ていたから、か。それとも言われなければ分からないほど馬鹿じゃないだろう?」
────くそ、こいつ……
アオバには戦いなんてのは強いか弱いかしかわからない。細かい戦術だの動き方だのは全くわからなかった。
そしてプライドの高い彼女はそれ以上愚かな醜態は晒さず聞き出せなかった。周りの視線が突き刺さる。
「では私たちが勝ったのだ。一つ言うことを聞いともらおうか」
「は、なに?金が欲しいとか?それとも謝らせたいわけ?」
睨みながら口調荒く言い放つ。
「そうだな、それも良いが……」
ミナはアオバを手招きした。構えながら側まで富豪の娘は行くが、更に手招きされ耳を貸すようジェスチャーされる。そして耳元で囁かれる。
「……は?」
ハクはボディーガード協会の入り口でミナが出てくるのを待っていた。
殴られた胸と腹部が痛む。
『やられたふりをして全てカウンターで返してくれ』
戦闘中、麗しのサドスティックお嬢様から来たのはその指示だけであった。
S級相手に無理難題であったが、ハクは何とかこなした。ただ腹部、胸部の攻撃は全ては受け流せず幾らかダメージを受けてしまったはしまったが。
────まあS級、新武器持ち相手に軽傷で済んだのは幸運だったな
「その程度で済んだのは幸運だったな」
同じ言葉が背後から聞こえた。
「S級ダニエルは自身の傲慢さ故に手応えの異常を認めなかった。ちょろい相手だったな」
ミナはハクの背中を少し押し、歩むのを促して前を歩き出した。
「いやきついに決まってるだろ……S級だぞ」
彼は足早に彼女のそばに並んだ。心なしか顔がニヤついており、何かしらあったのだろう。
ハクはため息をついた。意味のない行動をするときもあれば重要なことであったりもする。彼女の行動の意図は彼にも掴めない。
「お前、目立つなって言ってたのに良かったのか……?」
「ふっ、あれにはそれだけの価値があったさ。収穫もあった」
「収穫?」
ふと正面に顔を向けると侍女兼SSボディーガードの桜が遠目に見えた。
近づく2人に気付くと軽く会釈する。
「糸さ……まだかなり細いがいずれ太くなる、いや太くする」
ニヤリとはっきりと笑うミナ。
────嫌な予感がするな
ハク再びため息をついた。




