第50話 ダニエル・ファーランド
トレーニングルーム
下級から上級までのガードマンが使用する屋内訓練場。ボディーガード協会ビルの地下に位置しており、ずらりとトレーニング用具が並べてある。腹筋マシーンやベルトコンベア、自転車のようなものまで多種多様だ。
そこかしこにガードマンが現在もトレーニング中であった。
そして中央には模擬戦闘が出来るよう広い空間があり、強化ガラス張りで観戦出来るようになっている。ガードマンたちはこの空間で技術を磨くのだ。
緊急集会が終わったばかりで現在は誰も使用しておらず。
「貸し切りね」
アオバは空の空間を見て言った。
「じゃあ、ダニエルと、えー、誰だっけ?」
「この人は────」
「あーやっぱいい、いい。どうせそこらへんの雑魚でしょ名前なんていいわ」
心配でついて来ていた事務員が、改めて、と紹介しようとするとそれを遮り、富豪の娘は鼻で笑った。
ダニエルもやれやれと首を振る。
「で、勝負はどうするのだ?」
ミナがハクの後ろから出て、オロオロとする事務員の肩を叩きながら聞いた。
「あたしが提案するのは模擬戦闘。5点ライト。ハンデがいるならどうぞ」
アオバはそう言ってトレーニングマシンに腰掛けた。腕組みをし、何をしても無駄と言わんばかりにニヤついている。
「私が希望するのは模擬戦闘5点サイレントモード。そしてハンデとしてこいつと私のみの通話の許可だ」
それを聞いて富豪の娘は眉間にしわを寄せた。
「そんなことできんの?」
事務員に向き直り聞く。
「……そうですね。出来ます。前例があまりありませんが設定自体は細かく出来るので」
少し首を傾げた後事務員はそう答えた。
「ふーん……まあ、べつにいいわ。じゃよろしく。で、ハンデはそんなものでいいの?5秒間動かないとか、動きに制限かけようか?重りでもつけてもいいけど」
「いらぬ。ではよろしく頼む」
返答を聞いたアオバが片眉を上げ、眉間に皺を寄せたが、ふんっと鼻を鳴らすと事務員に指示した。
事務員は半ば動揺しながらコントロール室へと向かいいそいそと準備にかかった。
模擬戦闘5点ライト。ガードマン同士が行う1対1の模擬戦闘。薄いシールのような物を前額部、左胸部(心臓の位置)、右肺、以下臓器2部の位置に服の上から添付しそこを狙い合う。当たるとライトが付きすぐにわかるというもの。5点全点灯させたものが勝者となる。
「いやーsorry、すまないねぇ」
中へ入るとダニエルは向き直ってハクに言った。
「何のことだ?」
ハクは足で地面をこすりながら聞き返す。足元は柔らかな土や砂を敷き詰めており、フィールドも特に特徴のない平地という感じである。
そこかしこに勝手に生えたであろう雑草以外は平坦で特徴がない。
「あの人がyouたちに暴言を言っていただろう。それにさ」
「別に気にしてはいない。それにお前はこうしたかったんだろ?」
「……」
傍目には主人を止めようとする従者という感じを受けたが、彼にやや煽るような言動があったのは確かだった。
主人をよく知っているからこそできる誘導だ。
「hu……確かにyouのようなgardmanらしくないのを矯正したいとは思うが、決して痛めつけてやろうなんて考えはないよ」
否定はしないのかとハクはため息をついた。
「それより着いたらすぐ始めると言っていたぞ」
「そう急かさない。自己紹介はしておこうお互いに」
ニヤリとダニエルは笑った。それにハクは片眉を上げた。
「……おれは────」
「私はS級42位のダニエル・ファーランド。仕えるは草薙一族の末裔、草薙青葉」
ハクの言葉を遮り、うやうやしくいかにも礼儀正しい風に腰を折って言い切る。
「……俺はA級125位のハク。クライアント、というのはいない」
「んん?さっきの女性がそうじゃないのかい?」
ダニエルは首を傾げた。
『そろそろ戦闘を開始します。5点ライト形式ならぬ5点サイレントモード10秒前……』
事務員のアナウンスが聞こえ、カウントダウンが始まる。
「正式になってるわけじゃない。勝手に言ってるだけだ。……まあよく知ってはいるがな」
「なるほど、じゃあ人助け、か。gardmanとして少しは意識があるようだね────けど」
『2、1、0────』
カウントダウンが終了と同時にだ。ダニエルはいつの間にかハクの正面に来ており、筋骨隆々な体から素早く、強烈な拳の一撃を胸部に叩き込んだ。




