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暗い夜に踊る  作者: ビシン
ボディーガード
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第5話 揺れる

────わたしの元贄がまた新しい贄を連れてきてくれた、うれしい!


最初に思ったのはそれだった。


────最近腹ペコだったんだよね


しかももう一つあるそうではないか。元贄にしてはよくやったもんだ。


────とりあえずはまず目の前の女からだ


<うごめく何か>は息を殺し獲物について行く。


────それに見た時から気に入らなかったんだよ


大きな口からよだれの糸が垂れ、地面にゆっくりと落ちた。


古い屋敷の地下は<うごめく何か>の食事場所であり、お気に入りの場所だった。


────あの目つき態度、わたしを誰だと思っている!


目の前を歩く金髪の女性に舌を伸ばしたり引っ込めたりする。女性はペンライトで前方を照らし、こちらには注意をしていないようだ。


鼻をひくつかせると若い女性の脂の乗った匂いがした。変に香水の匂い、作られた匂いがしない。


────もう少しだ、もう少しだ


金髪の女性は目の前の足場の確保、恐怖、閉塞感からか全く口を開かない。地下は洞窟のようになっていた。


────まあ、前方じゃなくて後ろなんですけどね


笑いがこみ上げて来るが、必死に抑える。


さらに奥に進むと少し広い空間に出た。


「終わりがないように感じるな」


「うん、なんか同じ所をグルグル回ってるような‥‥」


────ばぁーか、狩りを楽しむんだ、そう簡単に出られるかよ!


金髪の女性は耳に手を当ててまた歩きだした。たまに何かを確認するように手を壁に当てている。


と、途中で道が二股に別れた。彼女は左右交互にライトで照らした後、右に進んだ。


────もう少し、もう少し!


腹ペコな<うごめく何か>は我慢の限界に近かった。今にも襲い、金髪の女性の四肢を引き裂き、血を浴びたかった。


<うごめく何か>はゆっくりと鉤爪を伸ばした。


分かれ道からさらに進み、また少し広い空間に出た。金髪の女性は立ち止まった。


────さあ、狩りの開始だ!


ゆっくりと彼女の背後から鋭利な鉤爪を近づけて行く。


目標は未だ正面を向き、気付かない。


目標まであと────50cm────30cm────10cmと、あと5cmのとこまで来た時だ


「やはりお前だったか」


そんな声が前から聞こえた。その言葉にピタッと動きを止める。


その瞬間眩しい光が視界を遮った。





「わ、眩しい!」


ミナは優子を照らしていた。優子は手を前にして必死に光を遮ろうとした。


「芝居はよせ。貴様の正体はわかっている」


「はあ?何言ってンの!?狂った?」


「貴様だろう、真美子のストーカー」


「なに────」


「いや、真美子とグルになった主犯か?」


その言葉にピクッと体を動かす。


「だ、だから意味わかんない。なんで私がそんなこと‥‥それにそんな証拠なんて────」


「確かに物的証拠はない。だが推測はできる」


「‥‥推測?」


ミナはペンライトの光を下げた。


「まず真美子だ。奴は依頼人だというのに曖昧な記憶しかなかった」


「そんなの誰にだってあるじゃん‥‥」


「そうかな?だが自分が被害にあっているのにストーカーの始まった時期を忘れるとは考えにくい。故に私は真美子を自由に歩かせた。奴の性格から推測するにまずストーカーが始まった2、3日は様子を見るだろう」


ミナは優子に変化がないかを注意深いく見ているが、特に変化が見られない。


「そして止まないようなら、信用できる誰かに相談したはずだ。それが貴様。そこで貴様は単純に警察に行かし、警察に対する真美子の信用をガタ落ちさせ、相手にされないようにした。警察の見張ってる時は人として見張り、真美子単身の場合は化け物になり追い回した」


「ば、化け物なんて‥‥」


腹を立てているのか方を震わせる優子。構わずミナは口を開いた。


「次に真美子にボディーガードを雇えとアドバイスした。そして今のような状況に追い込み、殺し、喰った。あとは真美子の記憶を消し、繰り返すだけで腹が満たされる」


ミナは辺りをライトで照らした。すると何かを見つけ拾い上げる。汚いが、軽く払うと白くて細長い骨だとわかった。


「人間の骨だ。一体何人殺したのだろうな」


まじまじと見ながらミナがつぶやく。


「じゃ、じゃあなに?私が真美子をけしかけて人を喰いまくったっていいたいわけ?真美子とグルになって?」


優子が言うが、ミナはかぶりを振った。


「だが誤算があった。真美子が貴様と合流した時、お前からは血の臭いがした。見てみろ、今もお前の服の裾に血がこびり付いているぞ」


ミナはが指差すと彼女はハッとしたように裾を調べ出した。


し かし血など見当たらない。優子が顔を前に向けるとにやけた探偵の顔があった。


「必死だな」


「っ‥‥!」


「だが、貴様の家から血の臭いがしたのは確かだ。私は鼻がいいのでな」


「わけがわからない、でも結局証拠はない!それに真美子がいないこの状況はどう説明するわけ!?真美子の見た人影は?」


優子は叫び、目をギラつかせている。


「真美子は一人の時にいなくなった。人影もすぐにわかるさ。物的証拠?それは今貴様がしめすんだろう?」


強く言うと優子は黙った。しばらくの静寂が続く。


すると彼女の肩がダラリと下がり震え出した。


怪しい雰囲気に一歩下がるミナ。


『逃がさない』


どこからかそんな声が響いた。


『まあ、どうせ死ぬ身だしね』


木材が軋むような音を出しながら優子の身体が変化し始めた。


『うざいね、探偵。そうだよ全部あんたの言ったとおり、わたしが仕組んだこと‥‥でも』


開き直り、ミナの遥か上から見下ろす優子。


『だから何って感じ』


ミナはが見たのは体長3mはある巨大な化け物だった。


長い体毛に覆われ、巨大な口はよだれが垂れ、なんでも食べそうだ。鉤爪は長く鋭い、目は赤く針でも刺したら噴水の様に血が出そうなほど充血していた。


『罠にかけたつもりが逆に罠にかかってたって?だから何?』


蛇の舌のようなものを出し、シューッと音を出した。


あざ笑っているようにも見えるが、優子、もとい、怪物の表情はわからない。


『あんた、わたしから逃げられると思ってるの?』


鉤爪を持ち上げた。


「勘違いするな?私たちは逃げる為に依頼を受けたわけではない。貴様を倒すためにここにいるのだ」


ミナは怪物に人差し指を突きつけた。


『ばぁーか!なぶり殺してあげる!』


声とともに鉤爪をミナの頭上に振り下ろした。


彼女のペンライトが、手からすり抜け地面に落ちた。


気にせずミナは鉤爪をひらりとかわす。


あざ笑う声がした。今ので後ろが壁の所へ来てしまったのだ。そこへ突進する怪物。


しかし彼女は怯えもせず言い放った。


「抗うなよ?」


その瞬間、ニヤリと笑う彼女の、背後の上の壁が物凄い音を立てて飛び散った。


そして何かが飛び出して来て、怪物と衝突した。


鈍い音と共にひっくり返る怪物。


何かは反動でミナの前に着地した。ゆっくりと起き上がる。


「いいタイミングだったぞ、ハク」


ミナの後ろの壁から出て来たハクは、一度ミナの方を見るとすぐに前方に向き直った。


「本当に化け物だな」


彼は呟いた。






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