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暗い夜に踊る  作者: ビシン
ボディーガード協会
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第48話 先導

ホールは約1000人を収容できるほどの広さ。扇子形に席が並び、下り階段を降りると中央に教壇がある。現在は見る限り約半数の席が埋まり、教壇にはスーツを着たぴっちり髪のサラリーマンのような男が周りの者に何やら指示を出していた。


ハクは入り口近くの空いた席に座った。欠伸をして寝る体勢に入る。


────聞いて依頼や報酬が増えるわけじゃないしな……


背後の扉が閉まり、ホール内の明かりが消えて暗くなる。


少しの間ざわざわとしていた辺りが静かになり、不意に教壇にスポットライトがあてがわれた。


先程とは別のスーツ姿の人物が立っている。白髪が所々あり、歳は40代後半というところ。


「皆さん急に集まってもらって済まない。私は……まあ皆んなご存知だろうがここの最高責任者の浦和先導という」


静かな空気にはっきりとした低い声が響く。


「まずは新人ボディーガードマンたちもいるだろう。そのめでたい事におめでとう。そしてようこそ協会へ。これからお互い協力し合っていこう」


彼が区切った所で乾いた拍手がそこかしこから上がる。ボディーガードの資格は基本的に専門的な学校へ通い、その後に実施試験で合格しなければならない。


その試験は半年毎に行われ、先日新規のガードマンが入って来ていた。


期間が半年毎と短いが、危険な職業故に命を落とす者ややめてしまう者、果ては適性のない者の発覚などで結構な人数が日々居なくなるのだ。


協会としては忙しくはなるがそうでもしないと人員の確保が難しかった。


少しの間責任者はそういった内容含め、挨拶の文句を並べて話していた。


「さて長ったるい挨拶をして済まないな。ここから本題に入ろうと思う。姿勢を楽にして聞いてくれ」


ネクタイの位置を直し、センドウは教壇に手をついた。


「まずは先日のクラーマル事件についてだ。悲惨な事件ではあったが、分かったことがある」


クラーマル事件の名前が出るとまた少しざわつくホール。死者が出てしまった事件でS級も数人病院送りとなった事件だ。


「今回のこの事件、闇の住人が関与している可能性が高い。できるだけこの事件に関しては他言無用で頼む。死にたくなければな」


凄んだ声でセンドウが言った。辺りが静かになるが、1人挙手をする者がいた。


「なんだ?S級42位のダニエル・ファーランド君?」


センドウが挙手した者の方を向き、その者が立ち上がった。淡く短い金髪をした白人男性。身長が高くスーツの下でも筋骨隆々なのが分かる。


「その闇の住人とはwhat?何ですか?」


日本語もそうだが、英語の部分もやはりネイティヴなだけあり発音が良い。ただ何故英語も混ざるのか。


「表には必ず裏がある。この政界にも同じく。そして我々は表の存在だ。だが闇の住人は法の届かない危険な者たちなのだ。下手に表の人間が手を出すと今回のような事件が起こる。故に!闇の住人と思しき者と対峙する時は逃げるのが最優先だ」


最後の言葉はこの場にいる全員に向けられた。


「しかし、guardmanとして見過ごす事は出来ない!私はそう感じる。why?背中を見せる事は出来ない」


ダニエルという男が両腕を広げた。納得がいかないという風にも感じる。それに合わせるように幾らかのガードマンも同意の声を上げた。


S級のガードマンの声がほとんどである。


その声をしばらく聞いていたセンドウ。やがてふうっと息を吐いた。


「ここで議論をするつもりはない。私は伝える事を伝えるべくここにいる。先程の言葉は無駄に命を落とす事はないという事だ。ただ付け加えるが、依頼人、他の一般人が危機に瀕する時には全力を持って防衛せよ!」


責任者が張り上げた声に、一瞬にして静かになるガードマンたち。再度反対の声が上がるかとも思われたが、そうはならず、その後一斉に拍手が上がった。


「それならば納得だ。Mr.センドウ」


S級42位のダニエルは大人しく席に着いた。


「さて、話の続きだ。クラーマル事件、これに関わった者は他にもいる。何でも闇の住人を撃退したのは警察側の人間だとか」


ハクは半分寝ながら聞いていたが、興味のある話に目が覚めた。


────警察側……あのスーツどもはやはりそうだったのか?


そこかしこから、警察どもか、最悪だな、など悪態が聞こえてくる。警察とボディーガード。表立った対立はないが商売敵のようなそんな偏見があるのは確かである。


「だが、実際倒したのは別の人物で捕縛したのが警察側という話だ」


それを聞いた途端に辺りがどよめいた。伝えられていた違う情報に混乱が生じる中、誰かが声を上げた。


「ではガードマンが!?この中にいたりするのですか!!」


「いや、それはガードマンではない」


「警察でもガードマンでもないという事は別の…第3者という事ですか」


別の者が言う。


ハクはまた『切り裂き魔』が危険視されるのかと思い眉間にシワを寄せた。


「そうはなるが……正体は、不明だ……」


「ふ、不明?」


「ああ、その者は突然現れ敵を鎮圧すると闇に消えたと言う」


────どう言う事だ?


ハクは首を傾げた。『切り裂き魔』としての自身の姿はハッキリと見られたはずである。


わざと話さなかったのか。


────それともこのセンドウという奴は……


「まあそれは置いておいて、その警察側が捕縛したという闇の住人、残念ながら逃げられたらしいのだ」


────逃げられた?ということはバックに誰か居るのか……


闇の住人が任務に失敗したり、捕虜にされた場合の対処方法を知るハクは首を傾げた。


満身創痍の状態から黒スーツの手を逃れるのはどう考えても単独では無理だ。


ハクが考えを巡らす中、他のガードマンはさらにざわめく。


「これは注意喚起だ。まだ近くに潜伏している可能性がある。同じ事は2度言わん。くれぐれも夜には気をつける事だ。それと県境の貧困街、最近不穏な動きがあるらしい。くれぐれも依頼人等と近づくことのないよう」


やや早口でそれだけ言うとセンドウは退室した。


ホールに明かりがつき、ポツポツと人が外に出始める。


緊急集会は終わり、ハクも人混みに紛れてホールの外に出た。


その時、事務の制服を着た女性が走って来て彼の目の前で膝に手をつき荒い息を吐いた。


「あ、あの、S級のダニエル様、A級のハク様すぐにクライアント室にいらして下さい!」

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