第45 譲る愛
「我を追い込んだつもりだろうが、残念だったな。頼りの着ぐるみは戦えまい」
敵は鞭を手元に引き寄せ、剣状にした。
ユズルはうずくまるネコを見て、震えた。
────僕の、せいだ
刀を持つ手もカタカタと再び震え始めた。
────僕が気づかなかったから
ネコは言葉半ばであったが、青年が気づくには充分だった。小瓶の効果は嘘であると。
────相手だって消滅されては困るはず、それをすぐに回避しないと言うことは……そんなもの無いってことじゃないか
ユズルの頰を涙が伝った。
「ユズル、前防いで!」
ユズルは不意に聞こえた声に反応し、剣を前方に上げた。敵の刃がすんでのところで外れて青年の頰をかすめる。
「お腹のとこ来る!」
続けて聞こえる声に従い腹部に来る攻撃を防ぐ。
「なっ⁉︎」
ユズルは相手の手を離れた少女が、青い光に包まれているのを視野に捉えた。
────な、なに、今までと違う
おそらく能力の発動とは分かるが、今までは光を発したり、発動中に動けたりはしなかった。それが今は指示を出しながら動いている。
「な、なんで────」
「ユズル、チャンス、だ行け」
ネコが困惑する青年に呻きながら言う。
「で、でも」
────おばあちゃんが、いなくなる。でも敵が、どう。ネコさんはどうするんだ
ユズルは激しく首を振った。あたまが混乱しまともな事を考えられなかった。
「てめぇは!最後までババアを守るんだろうが!」
ユズルは目を見開いた。叱咤を受けて思考が止まる。
────そうだ、最後まで
『おばあちゃんが居なくなるその時まで、守ってください』
ネコたちに依頼した言葉が頭に強く浮かんだ。
────僕自身で
ユズルはネコをその場に残し、少女の元へ向かった。
「下、上、右手首────」
敵がそうはさせじと武器を振るうが、少女の言葉を元に刀を翻して次々に防ぐ。
「僕が!」
────おばあちゃん、僕のたった1人の家族
────いつも優しいんだ
────帰ったら、おかえり、って言ってくれるんだ
ユズルは少女の声に合わせ、敵の激しい攻撃をギリギリのところで躱していく。妖刀の力を使う隙がなく、彼はひたすら待った。少女の声が続く限り、少女の方を見向きもせず。
「今、ユズル!」
そして少女の声がかすれだした時、じわじわと近づいていたネコが力を振り絞り、相手の足首を掴むのが見えた。声のあった瞬間に躊躇いもなく能力を発動していたユズルは力一杯叫んだ。
丸太状の壁が横から突き出し、隙のできた相手の横腹に激突する。
黒ローブの敵は机のバリケードに勢いよく突っ込みそのまま動かなくなった。
「……や、やった……やった‼︎」
ユズルは少女を振り返った。
少女は……アイは姿が半透明になりグッタリと横になっていた。能力による反動で存在が消えかかっているようだった。
「おばあちゃん!」
彼は敵を倒した喜びも忘れ、慌てて駆け寄った。半透明な身体を抱き抱える。まだしっかりと感触がある。
「おばあちゃん、おばあちゃん!」
必死に呼びかけるが、目を開けない。
激しく揺さぶり呼びかけると僅かに目を開いた。
「おばあちゃ────」
「ああ、ユズル……私……ヒ、ロ……」
叔母の声はか細くなり、身体が縮みだした。青年はなんとか離すまいと強く抱く。
しかし徐々に小さくなる身体はやがてさらに薄くなり────シャボン玉が弾けるように────消えた。光の粒を残して。
その光の粒も少しして霧散し、消える。




