第43話 夜の廃校③
1F────
桜は目の前の刃をすんでの所で身をよじって躱し、倒れ様に伸びた左腕を折るつもりで外肘に膝蹴りを食らわした。
普通では折れるほどの衝撃だったが、金属音が鳴っただけでそんな事はなかった。
反動で相手は空中で回転するものの軽やかに着地した。
────あれは
桜も体勢を整える。
先程の攻撃で相手の左腕の箇所のローブが破けて姿があらわになった。その腕に鎧のような物を装着していた。手首からは鋭いブレードが顔を覗かせている。
細かな装飾があるみたいではあるが光源が月明かりのみのためよく分からない。
敵はすぐさま闇に姿を消し、まるで瞬間移動したように桜の脇から反った刀を閃かせた。
桜はかろうじて目の端に捉え、手の甲で弾き頭めがけて踵を落とす。
敵は横に転がると再度姿を消した。
右腕にシミターのような曲刀。左腕に鎧、暗殺刀。
それでいて闇に慣れた戦い方。相性が悪い、と桜は思った。SSガードマンである桜でも少し骨の折れる相手だった。
「不意打ちとは、余程なにか切羽詰まっているんですか?」
彼女は策を考えねばと時間を稼ごうとした。
不意に目の前に姿を現した敵は、フードを深く被り直しただけで何も答えない。シミターを握り直し、ジリジリと間合いを詰めてくる。表情も見えない為、次を予想出来ない。
「狙ってるのは女の子ですか?なにが、目的なんですか」
桜は合わせて下がりながら教室のドアを掴んだ。予想出来ないなら、予想出来ない行動を起こすしかない。
桜はそう考え相手が間合いに入った瞬間、怪力でドアを引き剥がして、投げ飛ばした。
驚いたのか、敵は一瞬動きを止め、慌てたように飛び上がって躱した。そこへチャンスとばかりにSSガードマンはもう一枚のドアを引き剥がし棍棒のように振り回す。
相手は左手で防御したが、あまりの威力に窓に激突しそのまま外へ放り出された。
桜はドアを投げ捨て、窓の桟を無理矢理剥がすと追うように外に出た。
ネコとアイは外に出て学校から離れようと廊下を走っていた。外に出れば管理人たちと合流出来るはずだと思ったからだ。
ネコはピューマの姿になり、アイをその背に乗せて落ちないようゆっくり走っていた。
「こ、怖いよ……」
「え、まじで⁉︎だいぶゆっくりなんだそ」
ネコは更にペースを落とした。少女は背中にしっかりとしがみついてはいるが、顔はネコの体毛に埋めている。
「違うの……ユズルと離れるのが、怖いの」
「んなこと言ったって仕方ねーだろ、俺たちは逃げるしかないんだから」
────今更戻れるか!それよか安全第一だろ!
ネコは再び速度を上げた。
「ユズルはこんな私の側に、いつも側にいてくれて、悪い人からも守ってくれて────」
少女はふわふわの毛の上で泣きじゃくり出した。呂律の回らないような幼い子の喋り方。けれど落ちないようにしっかりと抱きつきネコの首に手を回した。
「あの子には私しか居ないの、もし私が居なかったらもう他に肉親も居なくて……」
震える声で少女は続けた。
「私が守ってあげなきゃと、思ってた。私の方が大分年配だし。あの子は健気で優しいから、怒ったりもしないし」
「……」
「けど、きっと護られていたのは私。いや途中からかもだけどそれでもユズルは側にいてくれたの、体調を崩したときも学校休んで看てくれたし」
1Fに到着し、ネコは出口を目指した。
「作ってくれたお粥も美味しかったし、学校の話もよくしてくれたし、最後の時まで一緒にいようとしてくれたし、トイレに一緒に言ってくれたし、こんな能力のせいで自分が酷い目にあっても笑ってくれた」
「⁈ちょ、首入ってる入ってる‼︎」
不意に、回された手に力が入れられ、首が締められる。少女の力とはいえ、人体の弱点だ。ネコはよろめきながらなんとか外に脱出した。
「も、もう降りろよ」
地面にそのままグッタリと倒れこみ、尚も降りようとしない少女に呟くように言った。依然、首に力が入っている。
「ユズル……ユズル……ユ、ズルぅ」
「……」
少女はまるで念仏のように青年の名前を呟き、すすり泣き続けている。
「そんなに一緒に居たいならなんで一緒に逃げて来たんだよ」
ネコはため息をついた。
「ん、それはユズルがネコさんが一緒にって」
「そんなの聞かなくったって良かったろ」
「でも、私、どうしたらいいか……なんて」
────なんだこのイライラするな。ババア
ネコのマスクに青筋がいくつか立ち始めた。年齢不詳であるが、涙を流すロリータは普段ならあやしていた。しかし苛立ちのせいでそんな気は全く起きなかった。
────どうしたらいいか?お前今言ったじゃん
ネコは脚に力を入れて起き上がり、引き返した。驚いた少女は再び背中にしがみついた。
「一緒に居たいならずっと一緒に居やがれ‼︎‼︎」
ネコは叫びながら全速力で校内を走り抜けた。




