第41話 夜の廃校
夜────時間にして深夜1時
とある外れにある古びた大きな建物は以前は小学校であり、廃墟となった今では、若者の間で肝試しによく使われていた。
しかし近々取り壊しが決まり今では誰も近寄らない。作業員が物を置きに来たりと人気があったからだ。
今日に至っては建物には珍しく人気はない。
そこへユズルと叔母のアイ、桜とネコは足を踏み入れた。
「な、なあ本当にここは安全なのかよ?」
ネコがしきりに辺りを見渡し、ビクビクしながら地面にライトを照らす青年に聞いた。
「はい。あのミナという人が言うには……それにSSガードマンもいらっしゃいますし」
「まあ、お嬢様の指示です。万が一の時は私が戦いましょう」
「その、姉さんはどこへ?」
その肝心のお嬢様とアパートの管理人の姿が見えない。
「話を聞いていなかったのですか?お嬢様たちは先程のユズルさんの住居で待機すると」
メイドがため息をついた。
「い、いや!聞いてた聞いてた!あ、そっかそうだった。ででもなんでだろうなぁ」
呆れられたと思い、慌ててネコがそう言う。
「多分ですが、囮になるのかと」
ユズルが間から口を挟んだ。
────てめーには聞いてねー!
心の中で叫び、こっそり中指を立てるネコ。
────そもそもなんで俺がこんな手伝いをしなくちゃなんねーんだ。家でゴロゴロしてた方がよほど有意義だ
そうは思いつつ、大家から桜と行動出来ると聞いてヒョコヒョコついて来たのは彼の方であった。
────しかも2人きりでもねーし
ネコはユズルとメイドが話をしているのを眺めながらため息をついた。
「ネコさん、聞いてますか?中へ入りますよ」
メイドが不意に振り向いて確認を取る。
「うんっ」
────まあ上手く2人きりになるぞー
と思いながら元気よく彼は返事をし、一行は廃墟の学校へ踏み込んだ。
『正体不明の敵に襲われる事になっている』
2日前に叔母が見たという未来視の内容だ。正確には今日の夜中、2人組の悪党が襲いに来るという事だった。場所までは叔母わからなかったようで再度聞いてももう分からないらしい。
今までもどこから情報が漏れたのか、未来視を目当てとした誘拐が何回かあったが、叔母の予知により全て未然に防いで来た。
しかし今回に限って相手の姿も結果も見えないと来たら誰かを頼るしかなかった。そして唯一未来視により見えた像がミナたちだった。
ただそれを話す叔母の姿は嬉々としていた。
────そうだ……助からないならせめて……
ユズルは手を繋いでいる小さな叔母の手を強く握った。それに痛いと言われてしまう。
「襲われるというのは確かなんですか?」
SSガードマンが足並みを並べて聞いた。そういった質問はミナがしていたが、みんなの恐怖心を紛らわそうとユズルは口を開いた。
「はい。おば、アイが視た未来は100%当たります。ただアイは視たものはその時だけですぐに忘れてしまうのではっきりとしたことは……」
「人を認知症みたいに言わないで」
アイが頬を膨らまして言う。
「いやしかし本当に老婆ってのは信じらんねーどう見てもロリ────」
「まあ若返ってるらしいみたいですからね。しかし本当に専門科に行かなくてよかったんですか?」
ネコの言葉を遮り、桜は疑問を口にした。それはそうだ、少しでも可能性があるならそちらに賭けたほうがいいのだから。
しかしユズルは決めていた。たとえ消滅がなくなったとしても、元の姿に戻れば老衰、あるいは若返ったままだとしてももう寿命の可能性が高い。そうであればどのみち居なくなるのは変わらない。
とある助言もあり、彼は同じ道であるならせめて願いを、やりたいことをさせようと────そう決めたのだ。
未来視で未知の敵が襲ってくると分かった時、不安で一杯であったがSSガードマンもいるのだ、恐れることはない。
ただこのことは桜たちには知らされていなかった。もちろん叔母にも。
「話した通りです。気持ちは揺らぎません。ただ最後まで守り通します」
ユズルたちは人気のない朽ちた廊下をゆっくりと歩く。ライトを照らしてはいるが、月明かりが入り無くても進めそうである。
しかしどこに身を潜めれば良いのか、アイが疲れを訴え出したのを見てユズルは通りかかった部屋に入る事にした。
「え、まじで⁈」
ふとネコがそんな声を上げるが、何でもないですとすぐに黙った。
中は大きなテーブルが6つあり、それぞれに丸太様の椅子が何個かずつ並んで置いてあった。
割れたビーカーやフラスコがあって理科室であった場所だと分かる。
「おねーちゃんってすごい人なの?」
一つのテーブルについて休もうと腰をかけると、桜の隣にアイが座った。
「そーだよ、この人はすごく強いヒーローなんだ」
ユズルはその隣に座る。
「いえ、ヒーローじゃなくてボディー────」
SSガードマンが言い直そうとすると慌ててユズルは合わせて下さいと耳打ちした。彼女は首を傾げるが頷いた。
「あたしたちを守ってくれるんだね」
「このネコの人は?」
「この人もヒーローさ」
「……」
ユズルは少し反応を待ったが、それを見た桜が顔を伏せたままのネコの肩を叩いた。
「どうしたんですか?」
声かけにネコが顔を上げる。何かを恐れるような表情をしている。
「い、いや理科室ってどうも苦手なんだよ」
「苦手?なんでですか?」
「ほらよく言うだろ?理科室にいるって」
ネコは辺りをしきりに見渡す。それをみたユズルはああ、と声をあげた。ネコが大きな声にびくりと身体を動かした。
「アレですか?学校の怪談。誰もいない学校にピアノの音が響くとか、階段がいつもより多いとか、人体模型がひとりでに動き出すとか」
「何ですかそれ?馬鹿馬鹿しいですよそれ」
桜がため息をついた。
「いやでもメイドさんみてください、ほらあの人体模型!今にも動き出しそ────」
そうネコは部屋の隅にあるボロボロの人体模型を指差した。
ユズルたちは顔を向けライトを照らしたが、特に何も起きない。床には模型の内臓がいくらか落ちていた。
ピピッガガ────
「うえ⁉︎」
突然の音にビクリと身体が跳ねるネコ。
「ネコさん、無線です」
「無線?」
「お嬢様がネコさんに持たせたものです。連絡を取れるようにと」
ユズルが首を傾げて聞くとガードマンは答えた。用意周到である。確かに密に連絡が取れた方がいい。
「あ、ああ、はいはい、無線ね無線」
ネコは冷や汗をかきながらも冷静さを取り戻そうと動作をゆっくりと行い、羽織っているジャケットから無線機を取り出した。
「……え、どうやって出るんだ?」
ネコの持つ無線はいくつかボタンがあり、ツマミも左右にあった。彼はどれを押せばいいか分からず指が泳いでいた。
「横のボタンを押しながら話してください」
桜が言うとネコは無線機の横に付いている三角のボタンを握るように押した。
『ようやく出たか』
ミナの声が聞こえてくる。
「申し訳ない、無線なんて初めてで、ケータイなら分かるんだけど────」
『やられた、敵がそちらに向かった』
その言葉に辺りが凍りついた。緊張の糸がピンと張り巡らされるのがユズルには分かった。
────まずい
「え、敵?まじですか姉さん」
かすむ声をネコは絞り出した。
『まじだ、気を付けろ、既にそちらに着いているかもしれん。こちらも向かうが間に合わんかもな……とにかく逃げろ』
無線が切れた。
ユズルは一刻も早くこの建物から逃げるか、安全な所に移動しようと口を開こうとした。
しかしふとライトが照らした場所に注視した。
一瞬何かが動いた。
「ネコさん!危ない‼︎」
「え?」
ユズルは暗闇から、ネコ目掛けて何かが飛び出てきたのを感じ、彼を突き飛ばした。




