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暗い夜に踊る  作者: ビシン
星に願いを
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第39話 非礼と挑発


彼ら一同は外に出た。


「妹さんはよろしいんですか?」


不意に桜が聞いた。先程の部屋を出て行った少女は姿を見せない。


「妹?ああ、おば……いやあの子はいろいろややこしいからいいんだ」


「ややこしい?」


「後々説明するよ……」


苦笑いを浮かべる青年。何かしら事情があるのだろう。


────まあ、嘘を言っているようには見えないな


ミナは辺りを見渡し、庭の草むらにしゃがんで草をいじっているネコの肩を叩いた。


「何だい姐さん」


ネコはアパートに移住してきてからミナのことを『姐さん』と読んでいた。


気の抜けた声で振り返るネコに多少苛立ちを覚えたが、ミナは堪えた。


「あの青年がお前をぶちのめしたいと言っているぞ」


「……へぇぇえ────それは聞き捨てならねぇなぁ」


耳元で彼女が煽るとネコのマスクが豹変し青筋を立てる。


ミナはネコの扱いに早くも慣れ、どうすればやる気になるか等把握済みであった。こういう生物には正直な説明など豚に真珠である。


ネコは桜の方をチラリと見て前に出た。


「よおコラガキ。てめぇ俺をぶちのめしたいんだってな。やれるもんならやってみな」


ポケットに手を突っ込み不良のようにメンチを切る。良いところを見せたいと思っての事だろうが、肝心のメイドは目を細めている。


「?そんなことはないけど……まあどうでもいいか」


「あっ⁉︎」


「ルールは?」


今にも殴りかかりそうなネコを手で制し、ミナは聞いた。


「一撃入れた方の勝ちで。判定はそちらに任せるよ。ちなみに2人とも負けたら帰ってもらう」


「なるほど、いいだろう」


余程自信がある態度にイタズラ心が芽生え、ミナは制していた手を退け、後ろに下がった。


途端にネコが前に飛び出す。まだ相手は武器を抜いてもいないし構えてもいない。


「舐めてんじゃねーぞコラぁ‼︎」


叫びながら掴みかかった。


しかし下がって躱される。雑に足を前に蹴り出すが、これも当たらない。


「すばしっこいな────トランスフォーム‼︎」


そう言うと体が光り姿を変えた。


トランスフォーム────

ネコが使う超能力。本人が言うには自身の思う猫の姿に変身するらしい


ネコの体が縮み、猫の姿になる。体長は約1mで黄褐色の毛で覆われ、無紋。長い尾の先だけが黒くなっている。


ミナにそこまで猫の知識はないが見た感じはピューマであった。


ただ、ネコのマスクはそのままで人型をしているので気持ちが悪い。


ユズルは少しも驚いた様子は見せない。それよりか口端を上げた。


「シャアアァ‼︎」


猫の姿になる事で身体能力が上がり、ネコはしなやかか動きで素早く飛びかかる。


青年は刀を抜き地面に突き刺した。すると刃が輝き、周りの地面が動き出した。


ネコの爪が相手に届く直前に、地面から丸太のような物が突き出してきて腹部に直撃する。


ネコは野太い声で呻き、空に打ち上げられ地面に激突した。変身が解けて元に姿に戻る。


「勝負あり……じゃないですか?」


ユズルは気絶して動かないネコを覗き込みながら刀を収めた。すると突き出していた地面が崩れた。


桜が慌ててネコの元へ駆け寄った。


「大丈夫。気絶してるだけ。で、僕の勝ちで?」


ミナもネコの元へ行き、安否を確認するとハクを呼んだ。彼にネコを木陰に連れて行くよう指示し、ユズルに目を向けた。


「そうだな、お前の勝ちだ」


ミナがそう言うとユズルは土を平し始めた。先程盛り上がってしまったからだろう。


彼女は桜の手を引き、少し離れた。


「桜、やつは────」


「‼︎……わかりました……」


ミナは桜にとある事を耳打ちした。杞憂である事を願うが、侍女は頷く。


何せ彼女は最も信頼する従者でありSSガードマンなのだから。


SSガードマン────

国内に十数人しかいない上級ボディーガード。その実力は計り知れない。


「さて、次は私ですね。お嬢様に対しての非礼をついでに詫びてもらいますよ。覚悟は良いですか?」


桜は両拳を固めて強く合わせた。僅かだが怒りに似た威圧を感じる。


「詫び?それは勝てたら、かな」


ユズルが刀に手を掛けて構えた。桜も左手を前に出し、右腕を引いて構える。


ミナがそこら辺にある小枝を拾い、合図代わりに彼らの目の前に放物線状に投げつけた。


小枝が地面についた瞬間、桜は地面が抉れるほど強く蹴って飛び、拳を突き出した。


ユズルは予期していたのか拳が直撃する前に土の壁を作り出して防ごうとしていた。しかし直撃には間に合うが、高威力の拳に土の壁は弾け飛び、四方に霧散する。


青年は距離を取りつつ地面に幾度か刀を突き刺して、ネコにしたように地面を盛り上げての攻撃を繰り出した。


SSガードマンである桜にとってそれは避けるのは容易く左右に身体を捻りながら間合いを詰めて行く。


「3……4……5────」


躱し続ける彼女の耳に、不意に何かを数える声がしたと思えば、突然目の前に土壁が突き出した。咄嗟に拳で砕き、続けて襲う攻撃を今度は姿勢を低くして避ける。


だがまるで動きをあらかじめ知っていたかのように攻撃を合わせてくる。


桜は先程言われた主人の言葉がいよいよ真実味を帯びてきた事に戦法を変えることにした。


余計な小細工はしない、力押しだ。


彼女は両拳を脇に構えて突進した。


それをユズルは次々に土を築き上げて防ごうとするが、脆いそれは堅固な拳によって破壊されて行く。


そしてついに桜が最後の壁を壊し、間合いに入った。


「覚悟して下さい」


SSガードマンは拳を前に突き出した。だが空を切る。かろうじてユズルが転がって避けたのだ。


予期していた桜は、それを後ろ回し蹴りで追撃しようとする。相手は完全に体勢を崩しており避けられない。


「参った‼︎」


ユズルがそう宣言した瞬間、眼前で頭を砕いていたであろう踵が止まった。風圧が押し寄せて彼の髪をさらにボサボサにする。


「ま、参りました……」


もう一度ユズルは静かに言った。


「さ、さすがSSボディーガード……分かってても勝てないわけだ」


彼は頭をガシガシとかいた。桜も構えを解き、彼に手を伸ばした。少し恥ずかしそうに手を取り青年は立ち上がった。膝が何故だか揺れている。


「あなた、私の事知ってたんですか?」


桜は彼が自分の事を知らないと思っていた。故に余裕ある態度を取っていたのだと。


「そりゃSS級元3位の人を知らない人はいないよ」


桜は現在でこそあまり表に出ない為ランキングは11位だが、免許取得時は3位だった。


その歳と容姿端麗な事でニュースにも載ったのだ。


「い、いやぁこ、怖い怖い」


不意に声が震え出し、ユズルは両脚の揺れが激しくなって地面に尻餅をついた。


そこへ見ていたミナたちが側まで来た。


「ふむ、よくやったな桜。で────」


「はい、今から謝らせますんで」


「ん?いやそうじゃなくて」


「はい、ユズルさん?でしたっけ?約束。せめて詫びの一つを」


話を進めようとするミナの言葉を遮り、桜は青年に言った。


やれやれとミナは少し離れた所に居るハクの方を見た。彼はただ肩をすくめるだけだった。


「あ、いやほんと────」


ユズルは急にかしこまって姿勢を正した。


「先程は申し訳ありませんでした‼︎数々の非礼お詫びします!」


地面から音がする程強く頭を下げて青年は土下座した。


その光景に一同は黙り込んだ。誰もそこまでするとは思っていなかった。


「全てお話します。どうか力を貸して下さい」


沈黙を破るように不意に彼は頭を上げて言った。額は500円玉大の発赤が出来ている。


そして表情は怯え、焦りとも言える表情をしていた。


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