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暗い夜に踊る  作者: ビシン
星に願いを
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第38話 ユズルとアイ


「駄目だ。これは譲る事は出来ない……。いくらタダで護衛してもらっても」


「いいじゃんユズル。渡して長期で雇ったら、ユズルだけ────」


「駄目だ!!」


ユズルという青年は強かにテーブルを叩いた。髪は短いがボサボサで、目の下に隈が出来ている。


その光景に周りの音が止む。


「ご、ごめん。でも時間がないんだ……」


どうしようもなく溢れて来る涙。その場にいた者は彼の言葉を待った。


「悪いけどアイ、ちょっと席を外してくれないか?」


先程口を出してきた、後ろにいた少女にユズルは言った。歳は12歳くらいだろうか。他の者には2人は兄妹に見えた。


はいはいと文句を言いながら出て行くアイ。


「すみません、取り乱してしまって」


急に冷静になり、頭を下げる青年。


「いや、いいんだ。こちらこそ無理を言ってしまったようで……」


テーブルの反対側に座る、金髪に黒ドレスの女性が同様に頭を下げる。


「ただ語弊があったようで申し訳ないが、貸してもらうだけでもいいのだが……」


女性は青年が手に持つ刀を見つめた。古ぼけてボロボロの柄に刃が黒い鞘に納まっている。一見して古い物だが、妖気の漂うそれはただの刀ではないとわかる。


「良いけど」


先程は取り乱してまで拒否した者が、あっさりと受諾する。


「ただ、後ろにいる人たちも一緒に話がしたいかな」


「ほう……」


金髪の女性は目を細めた。取引の為に彼女自身の護衛を背後に配置していた。ただし背後といっても建物の外だ。それに加え完全に気配は消してあり、彼女自身にすら本当に居るか分からないほどだったのだ。


金髪の女性は華奢な手を耳元に当てた。


「ハク、居場所はバレている。来てくれ」


「あと、もっと外にいる人も」


青年はニコリと笑った。


「……」







とてつもなく強い青年がいる────。そんな噂がボディーガード間で流行っていた。護衛を依頼されたのに叩きのめされたと。


ミナはそれを侍女兼護衛の桜から聞き、行動に出た。


噂の出所を突き止め、桜とハク+1名を連れて訪れたのだ。調べた限りではそこは賃貸の1軒屋。家自体は古い。ただ西洋風の外観となっているようだ。


実際に見てもその通りだったが、庭は無駄に広く、特に手入れはされておらず所々草が膝まで伸びていた。


現在いる部屋は外観通り西洋風のもの。本棚が壁際にいくつか並び、大きなテーブルを多すぎる椅子が囲っていた。


連絡を取る手段がなく、いきなり来てしまったが、相手の情報はほとんどなく、大人数で行くと怪しまれてしまうのは確実。


かと言ってそこが安全とは限らない。


妖武器。それが存在し危険な可能性が高かったからだ。そしてそれを手に入れる為にミナたちは訪れたのだ。


妖武器────

いわゆる妖刀と呼ばれる不思議な力を持った物の総称。新武器とは違い、人を選ぶ。


故に気配を消すことのできるハクを常に背後に配置し、あとの2名を少し離れた所へ配置したのだ。


そして実際に目の前に妖刀がある。それは漂う妖気を見れば明らかであった。


────居場所がバレたのは妖刀の能力か?


ミナは目の前の青年を観察した。10代後半から20代前半に見える。ボサボサの髪、目の下の隈は妖刀の力を使った疲労の為か。


印象的には何かを企んでいるような素振りはない。それは他の者達の潜伏がバレてからも変わらないように見える。


────危険を察知する能力か……いや私たちに敵意はない……なら透視系か……マインドスキャンというやつか


「そう身構えないで。キチンと後で話すんで」


考えているとユズルが口を開いた。


「取り敢えず皆さんが揃ってから……」


ミナは頷き、ハクたちが来るのを待った。


5分もしないうちに正面の扉からノック音がした。


「どうぞ」


ユズルが後ろを振り返った。


ゆっくりと扉が開き、まず姿が見えたのは黄色い猫の被り物をしたネコだった。ユズルは最初こそ驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。


ぺこぺこと頭を下げながら壁際を歩くネコ。続けてハク、桜と入って来た。


ハクが無言でどういう事だと目で訴える。それにミナは肩をすくめた。


「さて、皆さん揃ったところで話しの続きをしよう」


全員が用意された椅子に座ったところでユズルが話を進める。部屋の椅子がやけに多いと感じたが、ピッタリ数が合う。まるで予見したかのように。


「僕はこの、あなた達が呼ぶ────妖刀?というのを手放すのに特に未練もないし、譲るのも構わない」


「む?それは────」


「ただし条件が2つある」


ミナが疑問を口にしようとするのを遮り、続けた。


「1つはこの僕と戦う事」


「……もう1つは?」


「それは……1つ目が終わってから」


ミナは自身の顎を指で挟んだ。


1つ目の条件、相手が何をしたいのかは大体分かった。それは何故ガードマンの間で噂になっているかに起因する。


おそらく護衛を依頼する上で強い者でないといけないからだ。


────気になるのは2つ目の条件だが……


しかし言わないのであれば取り敢えず1つ目をクリアしなければ始まらない。それから吟味したっていいのだから。手を引くなりなんなりはその後だ。


「いいだろう。して、どうする?私が相手をしようか?」


ミナは桜に持たせていた武器に手を伸ばした。そこで待ったをユズルはかけた。


「いえ、もう1人の女の人と……猫の人?」


「桜とネコか?」


ミナは片眉を上げた。チラリと桜の方をみる。


「私は構いませんが……」


召使いは頷くが、ネコの方をみると話を聞いていないらしく部屋の骨董品やらを眺めていた。


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