第35話 対峙
包帯男は痛みに呻くが、堪えて回転斬りを放つ。しかしそれは虚しく誰もいない空を斬り、顎に強烈な衝撃が走った。
ハクが身を逸らして攻撃を避け、そのまま顎を蹴り上げたのだ。
悪態をついて負けじと長い刀を振り回すが緩急な動きにカスリもしない。それよりか懐に入られ、包帯男は膝蹴りを喰らった。
「くそ……が」
仰け反った身体を元に戻すと血走った目がハクを睨みつけた。そして半歩下がったと思えば突然姿を消す。
────常夜踏みか……
常夜踏み────
特殊な体移動、足運びで暗闇に姿を消す技。裏の住人が使う。
しかし姿が消えたと言っても気配が完全に消えたわけじゃない。
ハクも半歩下がり、背後の暗闇に紛れた。
少しの間静けさが辺りを覆う。
隅にいる怯えたガードマンは唖然とし、2人の侵入者の行方を追うが、姿はまるで見えなかった。物音が微かにするがどこからなのかも不明だった。
そして殴りつけるような鈍い音がしたかと思えば包帯男が壁に激突し、姿を現した。
「てめぇは……が、誰だ!なんでその技が、使える?!」
遅れて数メートル離れた所からハクが姿を現した。先程刀に付着した血をコートの端で拭う。
「うおらぁあああ!!」
正体のわからない相手に向かい大振りに武器を振り下ろす包帯男。頭に血が上り、ガードマンを相手にした時ほど戦略を考える余裕はなかった。
ハクはその攻撃を身を反転させてかわし、地面に叩きつけられた武器を踏みつけた。
「動くな」
不意に背後から先程の黒スーツの声が聞こえた。次いでバランスを崩し、床に膝をついた包帯男に両側面から首元へ刀が突きつけられる。
そして確認しては出来なかったが、ハクは銃口を向けられていると感じた。事実向けられていた。
「武器を捨てろ」
────ここまでだな
ハクは思惑が思い通りに行ったと感じ、手を上げた。
そして武器を手から離した。微かに発光する刀がガランと音を立てる。
当然、一瞬ではあるが皆の注意がそちらに移る。その瞬間ハクは気配を消しながら滑らかな体移動で暗闇に姿を消した。
黒スーツたちは仮面の男がいつの間にか姿を消したのに気付いた。
少しの間辺りを見渡すが気配もない。
「やつはどうしますか?」
「こちらが優先だ」
部下達が聞いてくるが、切り裂き魔の噂では実害は今のところほとんどないという情報故の選択だ。
もう少し慎重に探せば彼は見つかるだろうが、今はすぐにでも暴れまわりそうな包帯だらけの男を捕縛、あるいは適切に処理するのが優先だった。
後にこの件は『クラーマル事件』と呼ばれ、死者1名、重体者3名、重傷者5名、軽傷4名を出すものとなった。捕縛したと思われた犯人は突然煙のように消え、消息不明。関連性のある切り裂き魔は現在追跡中との事。クラーマル建設社長は依頼詐欺、及び殺人行為助長の罪で逮捕された。




