第34話 黒スーツ
20分前────
2階の窓の外にいたハクは、何者かが窓を割って入って行ったのが確認できた。何となく様子を見ていたが、悲鳴が上がったのを聞いて中へ入ろうとした。流石にじっとしていられない。
その時だ
不意に背後から殺気を感じ、慌てて飛び降りた。
先程居た場所に銃弾がバスリと刺さる。
ハクは地面に着地し素早く周囲を見渡した。
顔はよく見えないが、目の前に3人。1人は黒いスーツを着、銃を構えている。
他の2人はカッターシャツに黒ズボン。ただ手には刀を握っている。
「不審者は1名、みたいです」
報告するように左の者が口を開く。声が若々しい。すると真ん中の黒スーツが手を挙げ、何かサインを送る。
脇の2人が下がる。
「明らかに怪しいですよ。取り敢えずどうしますか」
もう一人が黒スーツにそう言う。
ハクは逃げる隙を伺っていたが、終始黒スーツが銃口を向けており下手に動けなかった。硬直する場に静かな声が響く。
「RL、REG、D80」
その声と同時に脇の2人がハクの左右へと展開し、刀を構えた。
ハクは目の前の銃口から目を離さず、両手に木刀を握った。何者かは分からないがやられるわけにはいかない。
2人が同時に斬りつけてくるのを下がって回避し、黒スーツが僅かに移動するのを視界に捉え、合わせて移動し左の者に剣を突き出した。
相手は上に弾き、開いた脇に斬りつける。それをもう片方の剣を滑り込ませて防ぎ、弾きつつハクは半回転した。
「!!」
相手の体勢が崩れて、そこにそのまま腕を振る。が、もう1人がカバーに入りそれを防いだ。
すぐに崩れた体勢を戻した者が横から剣を突き出した。それをしゃがんで避けるハク。地面を蹴って一旦離脱する。
「R0.1」
短い単語。それは黒いスーツが発し、その途端2人の動きが変わった。片方が剣を振るとそれに僅かにタイミングをずらして相方が攻防へ入る。
ハクは戦略の変化に驚き、防ぎつつ後退した。
────素人の動きじゃないな
彼は毒づき、妖刀を発動させ刃を抜いた。僅かに発光する刀身を見て一瞬相手の動きは止まる。
「オーラ10未満」
更に黒スーツがさらに何かの指示を出すと2人は迷わず突進してくる。
ハクは剣を短く持ち、両脇に流して深く息を吸って止めた。
敵が突きを繰り出してくる。もう片方は僅かにズラして足元を薙にきた。ハクは瞬時に攻撃を察知し、突きは斜めに跳ね上げ、足元へは剣を地面に突き刺して防ぐ。そして彼は片方の敵に開いた腹に蹴りを入れた。
しかし相手は驚くほど早く体勢を立て直し連撃を繰り出す。
ハクは剣を素早く動かして猛攻を防ぎ、隙ができるのを待った。
彼の動きはさながら両手が別々の意思を持ったかのように見えただろう。事実2人は攻撃が全く通らないのに驚愕していた。
「なんだこいつっ」
その様子を見ていた黒スーツが
「下がれ」
と、指示を出した。
「はっ」
2人はすぐさま下がり、脇に控えた。が、1人が立ち上がり、黒スーツに何か耳打ちする。
「そうか、ジンの言ってたのは彼のことか」
そんな言葉が黒スーツから漏れる。
────ジン……?二ノ宮ジンクメルのことか
二ノ宮ジンクメル────
特別異能警察(SSP)のリーダー。逆立った金髪に白スーツ、黒い腕章が特徴の男だ。ハクと彼は過去に何度か接触し追われる身となっている。もっとも変装した姿でだが。
ハクは改めて目の前の者たちを眺めた。てっきり殺人予告犯の仲間かと思ったが、警察の可能性が出てきた。ただ警察にこんな奴らがいるのは聞いたことがない。SSPと同じ類だろうか。
それはそれで厄介なのだが、状況が変わってきていた。ふと彼には考えが浮かんだからだ。
彼が注視していると、黒スーツは答えるように白い腕章を取り出し腕に通した。
「切り裂き魔を捕縛する」
「指示を」
「待機」
黒スーツはそれだけ言うと銃をしまい、脇から刀を取り出して抜いた。蒼白い白刃が月明かりに反射する。
ハクは敵が銃をしまうのを見て踵を返し、背後の建物の中へ窓を突き破って侵入した。
突き破って転がった場所はどこかの廊下みたいだった。
西洋風の長い廊下。追っ手は銃を持っている。一直線になっては不利だ。
ハクは月明かりに影になる場所に静かに身を沈め、気配を消した。
続けて追っ手が屋敷内へ侵入する。始めに黒スーツ、少し遅れて後の2人。
抜き身の剣を構え、あたりを探っているようだ。もちろんハクの場所はバレてはいない。
────どうするか……
ハクは息を殺しながら思考を巡らした。作戦は先程の屋敷に入ってきた敵と警察であろう彼らを接触させようというものだった。
彼らは様子を見る限り、パトロールでもしていたのだろう。でなければこんなところで偶然にも会うはずがない。
運悪く見つかってしまったが、利用すれば戦わずしてこの場は収められるかもしれない。
廊下には幾らか小さな扉があるが、ハクは足音を立てないよう少し移動し、ひと回り大きな扉を見つけた。方向、感覚的に、おそらく広間に繋がる扉だろう。
近くにいる3人に目を向けた。反対方向に向かっており、未だにこちらには気付いていない。
彼は扉をに手を掛け開けた。僅かに音を立てて扉が開き気づかれるのではないかとヒヤリとした。だがそれ以上に広間の惨劇に目を見張った。
────かなりガードマンはいたはずだが
人数は逃げ出したのか減っているが、立っているものが居ない。皆、床や壁にもたれかかり酷く傷ついていた。そして、ざっと見渡したが社長の死体はない。難を逃れて避難出来たのか。
ゆっくりと気配を殺しながら進んでいると甲高い悲鳴が聞こえた。
注視すると、数メートル離れたところで、先程声を掛けてきたガードマン2人が包帯だらけの男にやられそうになっていた。
ハクは足早に近づき、やられる寸前でガードマンの襟を引っ掴んで後ろに思い切り引っ張った。
勢いよく後ろに転がり、呻く彼らを無視して目の前に向き直る。全身薄汚れた包帯を巻き、顔はよくわからない。両手には2振りの長い長刀、長さは2mくらいだろうか。左手が僅かに燻っている。
────もっているのは新武器のようだな
「あ?何だ?」
包帯男が首を傾げる。姿がまだ認知出来ていないようだが、少しして目の前の人物に気付いたように目を見開いた。
「誰だてめー!」
包帯男が驚いて飛び退く。警戒して長刀を構える。
ハクもすぐ反撃できるよう素早く納めていた刀を両手に持った。
「新手のガードマンかっ?!」
包帯男は両手を前に突き出し突進した。
武器のリーチが異常にあるが剣速はさほどではない。ハクは片方で並んだ刀を跳ね上げ、もう片方で腹部を切り裂いた。




