第3話 古い館
雨がかなり強い。夕方から強まるとは聞いていたが雷までなり出す始末だ。
三人は古ぼけた屋敷を見上げていた。
屋敷はどこかの山奥や海辺でもなく、優子の家から徒歩で約10分程度の住宅街の端にひっそりと建っていた。
屋敷には所々にひびが入っており、窓ガラスはほとんど割れている。明らかに怪しいが人の気配はない。もう人がいなくなってから長いのだろう。
しかし、空はもう暗く中に入るのはためらわれる。
屋敷は1階しかないようだが、特に怪しいのは真ん中にある時計塔。真美子はその一点だけ見つめていた。
────どこかで見たことあるような‥‥?
っと時計塔の下の窓に人影が見えた。
ビクリと体が跳ね、心臓が早鐘のようになり出した。
だがその影も一瞬で消えた。
────え、何いまの!?
一瞬でよく姿は分からなかったが、人影というのだけは真美子の視界に入った。
「どうかしたのか?」
動かない真美子を見てミナが聞いた。
「え、いや今‥‥人影が」
指差すがもういないのだ、示し用がない。気のせいだったのだろうか。
「ふむ、人の気配はないが、何かいるのかもしれんな」
ミナは真美子の指差した方向を見つめながら何か考えるように顎に手を当てた。
「と、とりあえず入ろう!雨がもうやってらんない!」
優子が入口へ走って行った。確かにと追いかける二人。
扉は木造で特にデザインという施しのない簡素なものだった。
鍵は掛かっておらず、軽く押すと大きな扉が蝶番のキィッ、という音とともに開いた。
彼女らはおそるおそる足を踏み入れた。床も板が抜けていたりで危なっかしい。
「真美子気をつけなよ、床危な──」
優子は振り返ったが、真美子はまだ入口にいた。
────怖い、何さっきの‥‥き、気のせい、よね?
真美子は先程見た人影に気にしていた。
────それに何ここ気分悪い
「大丈夫?」
心配した優子が顔を覗き込んだ。
「う、うんなんとか」
微笑を浮かべるが、真美子は顔色が良くない。
「休みたいところだが、完全に夜になる前に建物の構造を把握したい。移動するぞ」
二人の考えを見抜いてか、ミナが辺りを見渡しながら言った。
優子と真美子は彼女の意見に賛成し、歩き出した。
玄関からは左右に廊下が伸びており、彼女らは左に進んだ。順番にミナ、優子、真美子の並びである。
危なっかしい床板がギシギシときしみ、外が暗いからか、10m先は見えない。
「あ、あの構造を知ってどうするんですか?」
ミナが通りかかった部屋のドアに手をかけた時、真美子は優子の肩越しに聞いた。
「逃げ道のためだ」
淡々と彼女は答え、ガチャリとドアを開けた。
真美子は捕まえたりしないのかと思いながら、部屋をおそるおそる覗き込んだ。
暗くてよく見えなかったが、ミナが持っていたペンライトで照らした。
部屋は広く、木造の椅子や長テーブルが散乱しており、どれもどこかしら壊れている。
「なんか、学校の教室みたいですね」
「だねー、なんか怖い出てきそう」
「や、やめてよ!ただでさえストーカーされてるのに」
ミナはドアをゆっくり閉めると先に進んだ。
「そういやボディーガードの人は?来てないの探偵さん?」
優子が後ろにつきながら聞いた。
────そうそれ、もう帰ったなんて言わないよね
真美子が心の中で不安そうに呟いた。
「さあ、よもや帰ったかもしれんな‥‥‥‥む、冗談だ」
ミナは後の二人の顔が青くなるのを見て付け足した。
彼女らはその後も奥に進んだが、古い屋敷はどの部屋も同じように、数は違うが、椅子や長テーブルが散乱していた。
学校か、あるいは塾のような習い事をしていた建物なのだろう。
だいたいどういう建物かわかったのか、優子とミナの足取りは少しずつ早くなっていた。対して真美子は遅くなっている。
優子に早くとせっつかれるが、足がもつれてつまずきそうになった。
真美子はこの先に例の時計塔のような場所があるとなんとなくわかり、心臓の動機が少しずつはやくなっていた。
外はもう夜になっているのか、すっかり暗くなっている。相変わらず雨は降り続き、頼りの明かりはミナの持つペンライトとたまに落ちてくる雷の一瞬の光だけだ。
「ふむ、やはりこの建物は正方形の通路になっているらしいな」
幾つか目の部屋の中でミナが唯一その部屋だけなぜかある一つの窓を見ながら言った。
優子が興味津々に彼女に近づいていくが、真美子は部屋の入口から動かなかった。
────なんだっけ、やっぱりどこかでみたことある
ここに来てから何度か真美子には既視感が起こっていた。
また心臓が早くなる。
────なんで見覚えあるんだろ‥‥
「‥‥?」
後ろから微かに何かの音が聞こえたと思った時、不意に口元が強く抑えられ、後ろに勢い良く引っ張られた。
真美子は恐怖で悲鳴にならない呻き声を一瞬上げるが、二人の女性は振り返らない。
彼女は逃れようともがくが、敵わず、そのまま光の届かない闇へ引き込まれた。




